第12話 戦火の前触れ
暁。王都上空に黒雲が渦巻き、雷鳴の代わりに魔石雷の赤光が閃いた。採掘坑を襲った異国魔導軍が、暴走魔石のエネルギーを結界砲へ充填したのだ。
城塞の高楼で、私は真珠球を掲げる。内部の水鏡が戦場を映し出した。黒衣の将が詠唱し、結界砲の砲口が青白く膨張する。
胸奥の海が荒れた。止めねば
「波と炎は交わりて、神を穿つ」
遺跡の壁画。あれは武器ではなく共鳴の儀式。私とアガニオ――水と火が重なれば、魔石暴走を打ち消す可能性がある。
作戦室で私は提案した。
「私の水圧結界と、アガニオの火炎律動を同期させ、暴走魔石の核振動を相殺する」
王宮学士は眉を吊り上げたが、女王は静かに頷いた。
「あなたは世界を揺らす鍵。ならば揺らぎを鎮めることも出来る」
夕刻。城門前の大河に浮かぶ橋梁で対峙。結界砲のエネルギーが臨界を越え、空が紅く裂ける。
アガニオが火炎紋を輝かせ、私は杖を月に掲げる。
「海潮は昇り、熾火は舞え――!」
火と水が衝突し、巨大な蒸気渦が橋を包む。耳を劈く轟音。魔石雷の光柱が渦へ呑まれ、軌道が逸れた。エネルギーは空へ抜け、夜空で静かに弾け星屑となった。
紅光が収まると、黒衣の将は仮面を割り捨て、撤退を指揮した。だが足下の魔石残滓が脈打ち、異形の魔物が多数孵化する。
剣士の一閃、魔導士の風陣、盗賊の影刃――仲間たちが前線を張る。私は蒸気渦の中心で膝をつきつつ、なおも水を操り、暴走核を凍結させた。
夜風が渦を散らし、月が姿を現す。私とアガニオは肩で息をしながら見上げた。
「やったのか?」
「ええ。でも、これは序章に過ぎない」
真珠球が微光を放ち、新たな映像を映す。仮面の軍勢の背後――玉座らしき影。その頭上に、黒いトライデント。
波の継承者でも、炎の神子でもない“第三の力”。
私は杖を握り直す。
「でも――もう逃げない。この世界で生きると決めたから」
アガニオが微笑み、火炎紋と私の潮紋が蒸気の中で重なり、夜空の星々を照らした。




