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31.告白


 デューク様とキスしてしまった。

 夢?……いや、あれは夢ではない。


 けれど、デューク様は私に、好きだなんて言っていたのだろうかと考える。思い当たる節はない。


 陛下との謁見後、使用人たちは私が陛下に認められたのだと喜ばれた。それから部屋をデューク様の隣の部屋に移るように言われる。私の知らないところで一人でに話が進んでいく。


「エルナ、聞きたいことがあるのだけれど」

「何でしょうか?私でお答えできることであれば、なんでも仰ってください」

「どうして、私とデューク様の部屋が隣同士になるの?」

「どうして、と言われましても。陛下がお認めになったのですから、二人はいずれ結ばれるということでしょう?」

「結ばれる?誰がですか?」


 このやりとりに違和感を持ったのは私だけではなく、エルナもだった。


「誰って、ミラ様とデューク様です」

「どうして私とデューク様が?そんな話ありましたか?」


 つい最近自分の気持ちを自覚したばかりだというのに、知らないところでデューク様と結ばれることになっているだなんて。勿論好きだと言った覚えも、好きだと言われた覚えもない。


「先日はデューク様の番の力を見極めるために王城に呼ばれたと伺っておりましたが」

「番?そんな話は何も聞いていないわ」

「ミラ様がデューク様の番ということだったのですが、その様子では……初めてお知りになったようですね」


 エルナはさも当たり前のように言ったが、デューク様からは番の話を聞かされていなかったので、突然私が番と言われて驚いてしまった。


「ええ、私がデューク様の番だったなんて。そんなこと……全く知らなかったわ」


 そこで私はいつだったか、使用人たちデューク様の番が見つかったという話をしていたことを思い出す。

 あれは、自分のことだったのか。それは出ていくと言ったり働きたいと言ったら困惑してしまうものだろう。


「ミラ様もデューク様のことをお慕いしているようでしたし、種族が違うと折り合いが悪く揉めることもあるのですが、そのようなことはなさそうで一安心していたのです」

「ど、どうして」

「それは見ていたらわかりますよ。ミラ様、分かりやすいですから」

「そんなぁ……恥ずかしいです」


 頬が熱を持つのがわかる。周りの人には全て筒抜けだったと言うわけか。勿論それは、デューク様にも。全て伝わっていたのだとしたら、穴があったら入りたいと言う気持ちになってしまった。


「そんなデューク様の好意に気づいていないくらい、ミラ様はかなり鈍感な部類に入るようですね。けれど、普通は大切に想っていない相手を屋敷に匿ったりしないものなのですよ」

「はい……」

「屋敷に急に連れてこられた時は本当に驚きましたが、お互い了承の上じゃなかったということなんですね?」

「あの時はその、本当に助けてもらっただけだと思っていたのです」


 エルナの話はなんだか尋問のようだった。


「まだ話を聞かされていなかったなんて。デューク様は言葉が足りないので、ミラ様にきちんとお伝えしていない可能性があるかもしれないとは考えていましたが……。まさか本当に何一つ話していないとは」


 幼い頃から口数が少なく、静かな子供だったというデューク様。エルナは呆れた様子だったが、デューク様がしなくてはならない話を前もって変わりにしてくれるようだ。


「てっきりミラ様が腕輪をお渡しされたことで、デューク様の求愛を受け入れたのだと誰もが思っていました」

「腕輪……?腕輪には、そんな意味があるのですか?」

「ええ、もしや知らずに?」

「オズワルドが、プレゼントを渡すのならこれが絶対にいいと言っていたのです」


 腕輪は好意を伝える意味合いが強いという。


「そういうわけでしたか。デューク様の中ではミラ様はもう自分のものだというつもりだったのでしょうね」

「まさかそんな……。知らないうちに私、好きだと言っていたのですか!?本当に恥ずかしいです」

「ここ最近ミラ様がデューク様を見る目は好意が漏れておりましたから、誰が見てもデューク様のことを想っているのだと分かっていましたよ。そんなミラ様がいじらしく、腕輪を渡したのですから私たちもその姿に胸をうたれていたのです」

「そんな……」


 私、そんな分かりやすかったかしら。顔に出るようなことはあってはならないと言われていたのに。何を考えているのか分からないと言われていたのに。いつの間にか、普通に過ごせるようになっていたのかもしれない。


「こんなことになるなら、私たちがしっかり伝えておくべきでしたね。以前、中途半端に番の話をしたせいで、ミラ様も大変混乱してしまったでしょう。番について、まずは私が知っていることをお話しいたします」

「いえ、お気遣いいただき、ありがとうございます」


 竜人にとっての番とは一生を共にする伴侶で大切な存在だという。番がみつからなければ結婚しない、もしくは政略的な婚姻が必要な場合は、したとしても跡取りを残す為に子供は作らないそうだ。

 子供のうちは番を判断する術がないが、成人すると共に番を見つけることができるようになるという。それは子孫を残すことができる年齢になったことで徐々に開花していくものだそうだ。


 生涯を共にする番がみつかると、その相手に自分の魔力を分け与えるという。それは人間でいうところの婚約を結んだ状態と同じらしい。身体の一部を渡したり、実際に魔力を身体に流したり、と自分のものであることをアピールするのだという。竜人で一番多いのが鱗を渡すこと。持ちやすい様に加工されたアクセサリーにすることが多いという。相手が受け取ってくれれば、受け入れたということになるそうだ。

 人間のように種族が違えば番という概念がない場合もある。そうなると実力行使に出てくることもあるという。無理矢理攫ってくるなどといった問題も起こり得るそうだ。

 そして番のいる竜人は他の異性に心を奪われることはないと説明された。その話を聞くと、何故だか身に覚えのあるような話が幾つかあり、気が遠くなった。


「竜人が番に心を奪われることはないのですか?」

「ええ、そのようなことはございません。番以外に心を奪われるということはないのです。ですが、竜人にも色々な性格の者がおりますから、絶対とは言い切れませんが」


 そこは人間と同じということだろう。私はそのような不誠実な人にはなりたくないと思う気持ちが強い。

 エルナの話では竜人族は番への執着が特に強いらしく、番が他の者に心を奪われたと知れば怒り狂い、浮気相手や番に危害を加えることがあるのだそうだ。危害を加えることがあるのだそうだ。同じ種族ではない者が番だった場合に度々起きるのだという。そのため番相手を傷つけた場合は罪人として裁かれることもあると知り身体が震えた。


「でも……デューク様はそのような方ではありませんから、問題はないかと思いますよ。番を見つけても攫ってこようともせずゆっくり距離を縮めようとされていた、尋常ではない忍耐力と精神力がありますから」

「そう、ですね」


 あの時ブローチを受け取ったから、デューク様は安心して帰ったのかもしれないと思ったがそれは言わないことにした。


「それに、ミラ様が愛想を尽かして他の方を選ぶことがあるようでしたら、それはデューク様原因があるでしょう。手を出す前に叱って差し上げます」


 そう言って微笑むエルナは頼もしかった。デューク様に相応しくあれるように、胸を張って隣に立てるようになりたいと思った。


「デューク様には、私からも伝えておきます」

「ありがとうございます。私から何と言えばいいのか、分からなくて……」

「今回のことは、デューク様も言葉が足りなすぎますから。ミラ様だけのせいではありませんよ」

「本当にありがとうございます」

「いえいえ。ミラ様を見ていると初々しくて微笑ましい気持ちになりますね」


 番は魂で惹かれ合うものだという。

 だけど、デューク様が優しいのは、それだけじゃない。きっと何か私の過去について知っている。今なら、教えてくれるのだろうか。

 昔約束した人がいるから話すことができないと言っていた、私の過去のことも。


エルナと話を終えた後、お茶のおかわりを持ってくるとエルナは部屋から出て行った。一人になった私は、部屋のソファで小さくなっていた。何をしていても落ち着かないのだ。こんなときには読書が良いかと本を開いてみたが、さっぱり頭に入ってこないので、読むのは早々に諦めた。考え込んでいても時間は過ぎていくばかりで、あともう少しすれば食事の時間だ。そうすれば、デューク様と顔を合わせることになる。


 あの後からまだ一度も話をしておらず、どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。いくらエルナが話をしてくれたとしても、少し気恥ずかしい。たとえ避けようとしてもいつまでも逃げ続けるわけにはいかないとは分かっていても、こういったことに疎いもので、昂った感情は、静まりそうになかった。

 お茶を飲み一息つくと、部屋をノックする音がした。エルナが帰ってきたのだろうか。

 どうぞと声をかけると、そこにはデューク様がいた。


「ミラ……」


 少し落ち込んだ様子のデューク様がやってきた。お茶のお変わりと共に、新しいカップももってきたようだ。代わりにおかわりを持ってきたにしては、随分と静かで、それを机に置くと、無言で隣に座った。いつもより元気がなく、なにやら心ここに在らずといった感じだ。

 そんな様子のデューク様を見てしまっては、何があったのかもしれないと心配になってしまい、先程までの悩みは吹き飛んでしまった。


「デューク様、どうかしましたか?」

「いや、自分が不甲斐ないと落ち込んでいた」


 デューク様でも落ち込むことがあるのか。どんなことなのか想像もつかない。


「先ほどエルナに言葉が足りないと怒られた」


 エルナが怒ると怖いとデューク様は下を向いていたが、これは自分が悪いから仕方がないという様子だった。

 さっきエルナと話したばかりのことを、もうデューク様に伝えてくれたのか。仕事が早い。


「ミラには愛情を持って接してきたつもりだった。だが、伝わっていないのなら、何の意味もないことだったな」


 そっと手を握られ、触れた部分が熱く感じる。


 折角この話題になったのだから、はっきりと今の自分の気持ちを伝えるべきだと一呼吸してからデューク様を見た。


「確かに、私もデューク様がそんな風に思っていたなんて気づかなかったです。それに、鱗をいただいたこととか、腕輪を渡したりしましたけど、その意味も全然知らなかったものですから……その、すみません」

「そうだったのか……。すまない、不安にさせたな。これからは言葉でも態度でもしっかり伝えよう。ミラ、愛している。ずっと側にいて貰えるだろうか」

「私でよければ、よろしくお願いします」

「よかった」


 デューク様はそのまま私を抱きしめた。


「嫌われてしまったらどうしようかと思った」

「そんなこと、ありえません」

「それならよかった」


 顔を見合わせて笑いあう。そうして、どちらからともなく唇が重なった。


 食事の用意ができたと呼びにきたエルナが部屋にやってくるまで、抱擁は解かれることはなかった。

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