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25.運命の腕輪

 デューク様が居なくなった後も、退屈させないようにとオズワルドは優しく微笑んでくれた。


「どうぞ、彼が戻るまでゆっくりしていってくださいね」

「ありがとうございます」


 品揃え豊富なこの店なら、きっとデューク様に贈れる品もあるに違いないと思った。それに今ならデューク様に知られず購入することができる。折角一人になれたのだ、この機会を無駄にしたくはない。


「あの、デューク様に贈り物をしたいのですが、何かいいものはないでしょうか」

「ほう、それはいいですね。そうですねえ」


 オズワルドは店内を練り歩き、ぴたりと足を止めて一つの腕輪を持ち上げた。


「これがいいのではないでしょうか」

「腕輪ですか?」

「そうです。これは”運命の腕輪”と呼ばれています」


 手渡されたその腕輪はとても美しいものだった。金属製で、表面には精巧な模様が刻まれている。中央には大きめの宝石が埋め込まれており、その輝きは目を引くものがある。


「この中央に埋め込まれている石に魔力を籠めることができます。腕輪と好きな色の石を組み合わせられるところがうりでして、魔法が使える方には魔石が人気なのですよ。おまじないのような類ですが、術者の魔力によっては、素晴らしい効果を発揮します」

「オズワルド、それってーー」


 レアが何か言いかけたが、オズワルドがすぐさま口を塞ぐ。そうしてにっこりといつも以上の笑顔で私を見ていた。レアのことは気にするなとでも言いたげだ。


「ミラグロス様、いかかでしょうか?」

「とても綺麗だと思うわ」

「ええ、そうでしょう、そうでしょう。デューク様にもそれはピッタリ似合うと考えております」


 オズワルドの言葉には不思議とそうだと納得させるような力があった。きっとこれならデューク様も喜んでくれるに違いない。


「それなら、何の石がいいのかしら……」


 デューク様が普段使いするのだ。彼の好きな色に越したことはないだろう。だが、好きな色の話などしたこともなく、見当もつかない。


「申し訳ございません。実は大きめの腕輪の石は、一部品切れとなっておりまして、金色と銀色のみになっております。この二色でもよろしければ、すぐにご用意が可能ですが、どちらにされますか?」

「ええと。それなら、金色かしら」


 デューク様は金の方が似合うと思う。実際金色のアクセサリーを身につけていることが多いような気がした。金の腕輪に金の魔石でもいいだろうか。


「それはとてもいい選択ですね」


 オズワルドは楽しそうに目を細める。


「この魔石に魔力を籠めることができます。さあミラグロス様、魔法を込めてください」

「私がするのですか?」

「そうですよ。それは贈り主からの祝福です。デューク様もさぞお喜びになることでしょう」


 オズワルドは自信満々にそう言った。


「店長、いつにも増して楽しんでるっすね」

「ええ、それは勿論」


 レアのため息が聞こえたがどういう意味か分からなかったが、オズワルドが言うのだから間違いない。

 その言葉を信じて魔石に力を込める。とはいえ、私には初めてのことなので、コツがよくわからなかった。


「レア、教えて差し上げなさい」

「はい。これは、魔石に魔法をかけるような意識でやるといいんすよ」


 レアの説明は大変分かりやすいもので、その後なんなく魔石に魔力を込めることに成功した。オズワルドから手渡された時よりも、光り輝くようになった。この腕輪を付けたデューク様がお怪我などなく健康で幸せであるように願った。


「とてもいい魔石になりましたね。これならデューク様も肌身離さず持ち歩きたいと思える一品になったことでしょう」

「喜んでもらえるといいのですが……」

「それは絶対喜ばれますよ。魔石の出来不出来に左右されることはありません。何せ大切な方からの贈り物ですからね。それもこの腕輪ですから」


 オズワルドが自信を持てと言ってくれたおかげで、大丈夫だと思えた。その後はエルナやファリンには実用的な魔石のついたペンを購入した。グレイグはデューク様をお守りする立場として危険な場に直面することもあるだろうと、防御力を高める魔石を選んだ。


 そうして無事に買い物を終えたことで、せっかくだから、子供たちにも何か買えたらと思った。やはりお菓子がいいだろうか。


「この辺に美味しいお菓子屋さんはありますか?」

「ああ、それなら、レアどこかいいところはありますか?」

「えーと。ここを出てまっすぐ向かった先の突き当たりの店の焼き菓子が美味しかったっす!日持ちもするからおすすめっすよ!」

「それはいいことを聞いたわ。ありがとう」


 レアがさらさらと地図を書いて手渡してくれた。絵が上手くて思わず見入ってしまった。


 思いの外あっさりと買い物が終わったので、時間が余ってしまった。それもこれもオズワルドのおかげだ。


「まだ来ませんね、護衛騎士もおりますし、先にそちらへ向かわれますか?」

「入れ違いになっても迷惑がかかってしまいますから……」

「大丈夫ですよ。心配なら、こちらから連絡をしておきましょう」


 さっと手紙を書くとオズワルドの手のひらにあった手紙は羽の生えた鳥のように飛び立っていった。


「今のも魔法ですか?」

「ええ、そうですよ。便利でしょう。デューク様に聞けば教えてもらえますよ。私が教えてもいいのですが、そうすると彼は拗ねてしまうかもしれませんから」


 そんなことで拗ねたりするだろうかと思ったが、ここで話をしていても、他のお客様が来ることもあるだろうし、店に迷惑がかかってしまう。


「本当にありがとうございました。おかげでいいものを買うことができました」

「いえいえ、礼には及びません。店主として当然のことをしたまでです。お渡しする顔を見れないのは残念ですが、きっといい反応をするに違いありません。できれば、今度会った際にどんな風な顔をしていたか教えてくださいね」

「分かりました。今度お伝えしますね」


 オズワルドは渡す時のことまで考えてくれているようだ。喜んでもらえたらいいと思った。そして、デューク様がどんな反応をしたのか、必ず教えることを約束した。


 店を出て歩き出したタイミングで、入れ違いで入ろうとしていた人にぶつかってしまう。騎士が止める間もなく一瞬のことだった。


「申し訳ありません」

「あら……」


 すれ違い様に肩がぶつかってしまい、その相手に謝罪をする。目の前の女性は貴族だろう。赤いドレスがよく似合う綺麗な人だった。


「いえ、こちらこそちゃんと見ていなくて悪かったわね」


 その時勢いよく風が吹いた。被っていた帽子が風に飛ばされる。女性の後ろに控えていた男性が瞬時に帽子を回収してくれた。


「これを」

「ありがとうございます」


 従者だろうか、とても反射神経がいいと感心してしまう。


「あら、あなた人間なのね」


 帽子が飛んだ際にばっちり見られてしまったようだ。龍人が治める国だが、種族関係なく暮らすこの国では、人間も少数ながら暮らしていると言う。それでも割合的には少ない部類のようだ。


「はい、そうなのです。こちらに最近やってきたばかりでして、全てが新鮮に映ります」

「そうだったの。この国の王都は随分と賑やかでしょう?」

「ええ。とても活気があって、色々な種族の方が尊重し合い暮らしている素敵なところだと思います」


 生まれ育った国には人しかおらず、人間とは違う種族と知り合う機会はほとんどなかった。この国へ来て、はじめて共存しているところを見た。やはり人と比べると、どこか不思議な雰囲気をまとっていると思う。獣人は身体の一部が獣のような姿になっている。鬼は頭部から角が生えているし、妖精は耳が長く、美形揃いだ。


「そういえば近隣の小国では、呪いが流行っているそうね。貴女は大丈夫?」

「呪い、ですか?」

「あら知らないのね。怒りをかった者の血を引く人々に次々と発症するのよ。少しくらいは、病状を聞いたこともあるのではなくて?身体中が鱗で覆われて死に至るーーと」


 その症状を聞いて、殿下の病と似ていると思った。病ではなくて本当に呪いだったなんて。それも他国に住む人の方が詳しいだなんて、あの国は鎖国的なせいで幾分遅れているのだと実感させられる。


「私はなんともないです。お気遣いありがとうございます。その呪いは、治す手立てはあるのでしょうか」

「強い治癒魔法が使えればなんとかなるわ」

「それならきっと大丈夫ですね」


 だってあの国には、ノーラがいるもの。聖女だと、国王が認めた治癒魔法の使い手なのだから。

 きっと一時的に力が使えないだけで、私が居なくなってからは魔法を積極的に使えるようになっていることだろう。私と言う悩みの種が消えて、運命の相手と結ばれてーー。

 そんな風に考えこんでいると、目の前の女の人の綺麗な声がして現実に引き戻された。


「でもそれは一時的にでしかないわ。根本的には何も解決していないもの。呪われるような大罪を犯したのでしょう?つまりその罪を償わない限り、その呪いは子供へと引き継がれ、いつ発症するのかも分からず怯えながら生きなくてはならない。ずっと続いていくのよ」

「そんな……」


 あの国の人々の中にそんな大罪を犯した人がいたなんて。

 けれど、呪われていても、その呪いを解くことができる力も王族に加わるとなれば、多少救いはあるのかもしれない。


「それはどうすることもできないのですか?同じ人間として、心が痛みます」

「あなたは優しいのね。解決策は勿論あることにはあるわ。それを彼の国の人々ができるかどうかは別だけれど」

「それは、どのようなものなのでしょうか……」


 その私の質問に答える前に、後ろから私を呼ぶ声がした。


「すまない、ミラ……遅くなった」

「デューク様!」


 デューク様の用事は終わったようだ。何ともなく怪我一つないことで安心する。


「先に菓子屋に行くと聞いていたから急いできた。まだここにいたのだな、何かあったか」


 デューク様と話をしていると、視線を感じた。元々はぶつかってしまった女性とその従者の方と話をしていたのだ。二人を放っておいて、デューク様の話に夢中になっているだなんて。


「そういえば、私、この方にぶつかってしまってお話をしていたところだったのです……」


 慌てて女性のいた方をむいたのだけれど、そこには誰の姿もなかった。二人とも忽然と姿を消していた。


「誰もいないな。私が声をかけたタイミングでいなくなってしまったのか。悪いことをしたな」

「いえ、私もしっかりと謝る前でしたので、ちゃんとお詫びもできず申し訳なく思います」


 一体あの人は誰だったのだろうか。

 後ろ髪を引かれながらも、その場を後にした。

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