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23.贈り物


 それからは数日に一度子供の相手をしたり、これまでと変わらず本を読んだりと、穏やかな暮らしをおくっていた。


 子供の相手をしたことによる報酬として給金をいただいた。こんなにもらってもいいのかという程渡されたが、正当な報酬だという。ただでさえ屋敷でもてなされている身で、使い道がないのが現状だ。

 何がお礼の品を買いたいと思っているが、そのためにわざわざ出かけたいと伝えて周りの人に気を遣わせるのも申し訳ない。


「ミラー、考え事?」


 子供の相手も仕事のうちだというのに、ぼんやりとそんなことを考えていたのが伝わったのか、マルクに心配される。


「ああ、ごめんなさい。すこしぼーっとしていたわ」

「俺たちでよかったら話聞くよ!何もできることないかもしれないけど」

「ありがとう、その気持ちだけでも嬉しいわ。でもせっかくだから聞いてもらおうかしら」


「なになに、内緒の話?」

「あたしもききたい!」


 近くにいたイルマとサナが寄ってきた。相手は子供だけれど、相談事は人数も多いに越したことはない。


「実は私はこの屋敷にきてからしばらく経つの。だからデューク様にも何かお礼をしたいと思っていて、何をしたらいいのか悩んでいたの」


「お手紙を渡す?」

「プレゼントをあげるのもいいかなぁ」

「それも考えたのだけど、どういうものをあげたらいいのか……。何でも持っているでしょうし、あまり重荷にもなりたくないと思って」

「ミラは心配症だね、好きな人から貰ったら何でも嬉しいんだよ!」


 子供たちはきゃっきゃと得意げに話している。好きな人……、私とデューク様は決してそのような関係ではないのだが、いくら否定しても子供たちがそれを受け入れることはなかった。


「サプライズで渡すなら内緒にしないといけないけど、分かってもいいなら直接聞いてみるのもいいかも!うちのパパはママに誕生日何が欲しいって聞いてたもん」

「そういうのもいいよね。まずは買い物に誘ってみるのがいいんじゃないかな」


 たしかに私はこの屋敷にきてから、外に出たことがない。外出しなくても何不自由なく暮らせているし、特に外に出たいと思ってもいなかった。

 買い物にいくというのはアイデアとしていいかもしれない。一人で行かせて貰えるかはわからないけれど、相談してみようと思った。


「ありがとう、みんな。参考になったわ」

「本当?よかった!」

「何買ったか教えてね!」


 そんな約束をして子供達の相手をする時間を終え、部屋に戻る。

 メイドは結局のところデューク様に仕えている身なので、私が相談したらいいように取り計らってくれるだろう。

 子供たちは誰に尺度することもなく、思ったことを話してくれるから、今の私には丁度よかった。


 買い物に行きたいことをそれとなくエルナに伝え、デューク様にも伝えて許可を得れば問題ないとのことだった。近いうちに出かけることができればいいなと考えていた。


 そうしてエルナと談笑しながらお茶をしていると、どこからともなくファリンが現れた。


「ミラ様、この後商人が参ります。この国へは身一つでいらっしゃって、何かと必要なものも 多いでしょうから、お好きなものをお選び下さい」


 買い物に行きたいとは言ったけれど、商人を家に呼ぶほうで対応されるとは思ってなかったのでこれには私も驚いた。


「そんな、もう十分よくしていただいていておりますから……」

「ですが、これはデューク様が呼び寄せたものなので、ミラ様が遠慮なさることはないのですよ」

「そんな……」


 何から何まで、本当に良くしてもらっている。

 あの一件からデューク様はさらに過保護になったように思う。デューク様は私が出て行かないように、退屈しないようなんでもすると言われた。私が買い物をしたいと言ったのもほしいものがあると思われたのだろう。

 商人を呼ばれたともなれば、いろいろな人の目もあり、選びずらい気もする。


「ありがとうございます。このような形でおもてなしを受けるのは初めてのことで……とても光栄に存じます」

「使用人に頭を下げる必要はございません。ですが、ありがとうございます。お礼はデューク様へ直接お伝え下さい」


ここまで丁寧な対応をされたことなどなかった。私は感謝の気持ちを込めて頭を下げる。使用人に頭を下げるなんてとファリンに言われてあたふたしてしまった。



「もちろんデューク様にもお伝えしますわ。けれどお礼の言葉だけでは、とてもこのご恩をお返し出来ませんから、どうしたら良いのかしら」

「ふふふ。そんなに考えこむ必要はありません。これは一つアドバイスです。デューク様なら貴女が笑いかけるだけ十分お喜びになられると思いますがね」


 柔らかく笑うファリンに、本当にそんなことがあるのかと半信半疑だったけれど、エルナも頷きを返してくれたので、騙されたと思ってやってみようと、私もようやく肩の力を抜いたのだった。


「本当は何がお礼の品を送りたいと思い、買い物に行きたかったのです……」

「まあ、そういうことでしたのね。気が付かず申し訳ありません。それはまた次回機会を設けるようにさせていただきます」

「何から何まで申し訳ないわ」

「いえいえ。デューク様に内緒にしておきたいのでしょう?ふふ、可愛らしくていいじゃありませんか」


 私の考えはお見通しのようで、ファリンとエルナから温かい眼差しを向けられ居た堪れなくなった。


 家に商人を呼び買い物をするのは初めてのことだった。ノーラやお義母様のために呼び寄せることはあっても、私が何かを買い与えられることはなかったから。


 それから商人がやってきたのはそれから少し後のことだった。与えられた部屋で本を読んでいると外から人の声が聞こえてきたのでそっと窓から様子を伺う。すると、何台もの馬車が停められており、品物を運び込もうとしているところのようだ。


 準備ができたと呼びにこられたのはそれからすぐのことだった。


「初めまして、ミラグロス嬢。私はオズワルドと申します。こちらが付き人のレア。お話は彼から聞いておりますよ。今日はどれでも好きなものをお手に取ってご覧ください」

「初めまして。よろしくお願いします」


 気前の良さそうな商人は、妖精だという。眩く発光した羽根がとても綺麗だと思った。付き人の獣人の少年はレアというそうで、お尻から生えているふわふわの尻尾がゆれていて可愛くて思わず目で追ってしまう。

 

 並べられた商品はというと、世界を周り各国から珍しいものを取り寄せたというこで、可愛らしい雑貨や、本、宝飾品、日用品なども何でもある。圧巻の品揃えだ。その中でも一際目を引いたのは、少し年代物の指輪だった。


「これは?」

「おっとお目が高いっすね。これは映像を記録することができる魔法の道具っす。数が少なくあまり出回らないものなんすよ」

「映像を記録……すごい……!」


 レアから詳しい説明を受けて、これはとても珍しいもののよう。尻尾をふりながら話をするものだから、その尻尾の方に気をとられてしまった。


 その指輪の性能はすごいものだと思った。この魔道具があれば、普段の何気ない生活の中で記録しておきたいことも、後々思い出として残すことができるだろう。


「それを頼む」


 後ろから声がして振り向くとデューク様が部屋にやってきたところのようだった。

 

「デューク様!そんなすぐ決めてしまう必要はないです!」

「ミラが興味を持ったものだ、今買わないと後で後悔するだろう。他に気になるものは?」

「ええと……」


 迂闊にあれこれ伝えてしまうとなんでも買いそうな勢いで、気軽に口に出せる雰囲気ではない。それにこの商人の選んだものはどれも一級品のものばかり。一つ買うだけでも相当のお金が動くだろう。


「随分大切にされているのですね。良き相手と巡り会えたようで、私も安心しました」

「ああ。お陰様でな。こうして彼女の望みはなんでも叶えたいと思っている」

「おやおや、惚気られてしまいました」


 オズワルドとは知り合いのようで、楽しげに語らっている。


「そんな浮かれているご主人におすすめの品がありますよ。最近仕入れたばかりのこちらの生地はまだ帝国でも珍しいものかと」


 精霊の国で作られたという、精霊の加護が与えられたその生地は角度によって鮮やかな色合いを見せる。


「確かに、ミラに似合うだろう。いずれ夜会などに出る機会もあるだろうから、せっかくの薦めだ、購入しよう。馴染みの店で仕立ててもらえるだろうか」

「ええ、ええ勿論です。その他には何かお求めのものはありますか」

「そうだな。すぐに着れる服を何着か頼む。あと、街に来ていけるような貴族とは分かりにくいデザインのものも欲しい」

「かしこまりました。それでは服はこちらにありますので、お好きなものを試着してください」


 オズワルドは商人として物を持ってきただけなので、屋敷の使用人たちによって着せ替えられることとなる。


「デューク様、この間も服はいただいたばかりですから……」

「服はいくらあっても困らないだろう。エルナ、着替えを頼む」

「かしこまりました」


 どこにも私の味方はいなかった。

 悪夢再び。

 そうして何度も着替えさせられ、終わった頃にはへとへとだった。


 オズワルドの店は王都の一等地にあるという。近くに来た際は立ち寄ってくださいと言われ、お礼を告げてオズワルドとレアを見送る。

 そうこうしているうちにあっという間に日暮れになっていた。


「今度の休みの日に一緒に街へ出かけないか」

「街へですか?」

「ああ、王都は活気あふれていてミラも退屈しないだろう」


 帝国の王都といえばとても栄えた美しい街並みだと本で読んだことがあった。


「ご迷惑でなければ、是非」

「迷惑なんてこと、あるわけがない。楽しみにしている」


 デューク様がそんなに喜んでくださるのなら、一緒に出かけるのは楽しみだと思えた。

 自由行動の時間があればその隙をみて贈り物を用意できればと思った。

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