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朝起きて食事を終えると、城へ向かうため準備をする。馬車へ乗る前に、不機嫌な顔をしたお義父様が近付いてきて、鋭い視線を向けられる。
「ミラグロス、お前は代理なのだ。元々はノーラの役目だったから、勘違いするな。そしてくれぐれも粗相のないように」
「はい」
お義父様からしっかりと釘を刺される。
そんなこと、言われずともわかっている。私が必要とされているわけではなく、誰もかわりを務める人がいないから、役割が回ってきただけ。私が特別で、選ばれた存在だと勘違いするわけないというのに。
言われなくても決められたことをただ淡々とこなすだけだ。
ノーラが何が言ったのだろうか。お義父様の背後から顔を覗かせ、ふわりと微笑まれる。その笑みを見るとぞっとしてしまい、気味悪く感じる。ノーラはいつだってそうだ。気に入らないことがあれば、こっそり告げ口するように、お義父様やお義母様に言いつけることもあれば、純粋そうに笑顔で食事の場でこんなことがあったと、報告するのだ。
「お姉様、もう行かれるのですね。お気をつけて」
「――っ……ええ。ありがとう」
実子と養子の差は絶対的なもので、自分が愛されているから、何を言っても絶対的な味方をしてくれると分かっているからそんなことができるのだ。それを羨ましくも思っていたこともあったけれど、私がノーラと同じように愛されないと分かってからは息を殺して誰の邪魔にもならないように、ただやるべきことをやってきただけだというのに。ノーラは殿下の婚約者になったというのに、まだ私のすることに口を挟むというのか。
朝から重い気持ちで馬車に乗ることとなって憂鬱だった。けれどノーラと違う馬車に乗れただけでも安心した。一人は気が楽で、誰の視線もなくて安心する。
儀式の練習は短い時間で終わった。
毎年行っていたのだ、動きは体には染み付いているもので、練習する時間はそこまで必要なかった。私はあの人と会い、魔法を教えてもらっていた。
「ミラはやはり筋がいいな。飲み込みも早く、この間まで魔法を使ったことがないとは思えないほどだ」
「本当ですか?そんなふうに褒めていただけるとは思っていなかったので、少し照れくさいです」
褒められれば嬉しいと思う。
手放しでここまで褒めてくれる人は今までいなかったから。だからもっと、もっと使えるようになったらと欲が大きくなっていく。
「もうこんな時間か。君と話していると時が過ぎるのはあっという間だな」
「本当ですね。もう、夕方なのですね」
空に赤みが混じり、そろそろ帰らなくてはいけない時間になる。まだ帰りたくない。そんな事を言ってしまっては、この人を困らせてしまうだろう。
「今日もありがとうございました」
「こちらこそ。有意義な時間だったよ。それじゃあまた明日」
「はい、また明日」
明日の約束をすることが、こんなに嬉しいことだなんて。この約束があれば、家に帰ることもまだ耐えられそうだと思えた。
今日は城内ではノーラとも殿下とも顔を合わせることがなく平和な日だった。
一人で馬車に揺られながら家に帰るとすぐに自室へと移動した。あの日から、教えて貰った魔法を部屋で使う日々が続いていた。
魔法であたたかいお湯を出せるようになったり、植物魔法も使えるようになり、萎れ気味だった部屋の鉢植えに使えば、元気を取り戻した。それでも治癒魔法は使えないままだった。過去を悔いるようにのめり込んで結局どれだけ頑張っても、私には治癒魔法の才能はないようだった。私が元々魔法を使えていたとしても、殿下をお救いすることはできなかったのだ。
努力してもどうにもならないことだってある。後悔するほど夢に苛まれた出来事だったけれど、どうすることもできないのなら仕方ないことだったと、割り切れるようになった。
いつまでも過去のことに囚われていてはいけない。今後のことを考えようと思った。魔法が使えるようになったのだ、この魔法を役立てて生きていくことだってできるだろう。
私はそんな未来に思いを馳せていた。
部屋の外が騒がしい。ノーラが帰ってきたのだろう。いつも彼女の出迎えは盛大だ。だから特段気にしていなかった。そのまま私は魔法の練習を続けていた。
魔法を使うときらきらと輝きが漏れる。私はその光が部屋から漏れていた事に気づいていなかった。




