分裂
「さあ最初の犠牲者が出たのは赤チーム。初手で死ぬとは、目立ちたがり屋なのでしょうか~」
観客が立ち上がり、盛り上がる。
司会が煽るように実況し、一人目の犠牲者の登場に祝福の拍手が起こった。
「と、おおっと~? 赤チームの犠牲に注目が集まっていた中、青チームはちゃっかり骨を置いていたようです」
そうやって権蔵が潰された後。
次のシロの行動によって明かされた青チームのファインプレイに、司会者は驚愕の声を挙げた。
骨が置かれていたのだ。青チームの穴に。
それによりシロは多くの人に想定された動き。つまりは普通の掘削を始め、青チームはアイテムの入手に成功する。
「作業しながらでも観測はできるからな」
青チームで、そのファインプレイをした者。
その少年は持ち前の凶悪な笑みを浮かべると、嬉しそうに権蔵がいた場所を見た。
「れい君って言ったよね? 君は今、何をしたの?」
青チーム一番、比較的若いプレイヤーがその少年に困惑の表情で質問した。
少年は最初から読んでいた。
人の死、巨大ロボットに人間が潰されているその状況下で冷静さを保てていたのはそのおかげである。
「あのシロとかいう犬がただの穴掘りロボットなわけがない。相当な馬鹿じゃなけりゃ、あれが骨を動かすことにリスクを付けるものとわかるはずだ」
少年は自分が読み解いたゲームの解説を始めた。
冷静な彼に驚きの表情を浮かべながら、青チームは彼の説明を聞く。
「だったら犬が敵陣に言っているときはリスクない状態ってことだ。このゲームはな、後攻が圧倒的に有利なんだよ」
少年の解説に納得する一同。
しかし心配顔の四番が、彼にあることを聞いた。
「……でも、次も後攻をくれるって思う?」
それは次ラウンドの心配だ。
そんな彼の心配に凶悪な笑みを浮かべると、少年は剣を指さし、話す。
「馬鹿か? 先攻後攻は何によって決まると思っている? 何のためにこれが配られたと思っている」
その言動に恐れながら顔を見合わせ、剣に触れる一同。
これは武器じゃない。交渉の駒だ。
暴力と知性を同時に突きつける、ゲームの脅迫状――。
「一ラウンド目は骨を最初に動かす奴を決める押し付け合い。人数有利が付いたときから、このゲームのチーム戦は始まるんだよ」
知らぬ間に圧倒的有利に立っていた青チームのメンバーたちは少し落ち着いたように息をつく。
そんな彼らを見て、少年は聞こえない程度の独り言を放つ。
「攻略法を分かってそうなのは一人だけか……あいつの死を、俺は観測してやる」
観測者、霧雨レイ。
人の死の観測を目的に、このゲームに参加した人物。
「青チーム。アイテムフリスビー獲得です。設置場所に一度だけ、シロを動かすことが出来ます」
彼のファインプレイにより、青チームにさらに朗報のアナウンスがながれた。
***
「二ラウンド目。開始です!!」
頭が膨れ上がるような圧迫感に包まれ、思考が止まっていた。今しがた見た光景が、現実であると脳が認めることを拒んでいた。
人は自分の常識からあまりにも逸脱した光景を見ると、それを拒もうとするものだ。
和樹はその場から動けず、今、この光景を受け入れられないと首をふった。
そうして三分ほど経過し、事態の深刻さを理解した梨乃がそれを口にする。
「……これって十分以内に、骨を動かさないと――」
「撃ち殺される……」
恐怖のあまりあえて口にしなかった続きを、幸子が口にする。
十分以内に骨を動かさないのは反則行為。
罰は死。
だからといって、骨を動かし、権蔵の二の舞になりたい人間など一人としているはずがない。
「でも、誰か……誰かが行かないと……」
「は? あんたが行けば?」
幸子が、梨乃を睨みつけて言い放つ。
明らかに余裕がなくなっている。声に刺があった。
「む、無理に決まってるじゃないですか……! 死にたくないし、死ぬにしても、あんな死に方……!」
梨乃は震えながら首を振り、潰された権蔵のいた穴に視線をやる。
血溜まりだけが、彼がこの世にいた証。原型も、肉片すら残っていない。
「何か……何かないのか?」
和樹は司会の背後で数字を刻むモニターが三百を切ったことで焦り始める。
あと五分。その時間で結論を出さなければいけない。
十分なんて、長すぎると思っていたのに。
短すぎる。あまりにも。
「若い奴から行きなさいよ!!」
そうやって考えを巡らせている和樹と梨乃を見ながら幸子はまた声を荒げた。
選択肢がいくつも浮かんでは消えていく。正解がどれかもわからない。
足元がぐらつく。立っているはずなのに、地面が遠く感じた。
そんな精神状態で幸子に言い返すこともできず、和樹はただ、自分に遺されている時間でできる可能性を考えていた。
「最初に“ルール守らなきゃ”って言ったの、あんたでしょ? だったら責任とって動けば?」
考え事をしている和樹から梨乃へと狙いを変えた幸子。
彼女は梨乃を突き飛ばす勢いで責め立てる。
梨乃は泣きそうになりながら、それでも無理と首を横に振った。
「……ねぇあんたはなんか言ったらどうなの? 何もしないでそこに座り込んで、何がしたいの?」
今度は鉄平に向かって彼女は吠えた。
確かに、彼は不動で何もしゃべらず。
幸子に話しかけられても、ただその弱々しい眼差しを彼女に向けるだけだった。
誰もが思っていた。
「誰かが」やってくれればいいと。
それが自分でなければ、それでいいと。
「――俺が行くよ」
そうやってチーム内で早くも分裂が始まったとき、和樹がその役を立候補した。
喉がカラカラに乾いて、唾を飲む音さえうるさかった。
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後感想も。