ゲーム!! ここ掘れワンワン♪♪
会場の扉が開いた瞬間、全員の視線が一点に集中した。
広いコート。他にも見るべきものはあったはずだ。
だが、誰もが釘付けになった──空気ごと支配する、異様な存在がそこにいた。
──コートの中央。それはどうどうと鎮座していた。
一言でいうのならば、大型の犬型ロボット。
全長四メートルほどだろうか。
三角形の頭部に、赤く光る、両目を模したセンサー。口元には鋭い歯列が並んでいるが、鋭く並んだ歯列は、奇妙なことに、笑顔のような形をしていた。
背中には透明なガードプレートが重なっており、内部では何本ものアームが格納されているのが見える。
前脚と後脚は犬らしい丸みを持ちながらも、関節は関節らしからぬ柔軟な可動域を示している──まるで人間の肩のように、自由自在に動く設計だった。
明らかに機械でできているというのに、そこには妙な愛嬌があった。
尻尾のような部位をゆっくりと振り、前脚で顔を掻く――そんな動作ひとつひとつが、妙栄リアルで、妙に可愛らしい。
そんな巨大な犬型ロボットは、暇そうに円の中に座っている。
「な……なに。あれ」
圧倒されて声を失っていたチームの中で、最初に口を開いたのは意外にも梨乃だった。
梨乃は声を震わせながら、しかしなぜか期待の籠ったような感情を声に乗せる。
和樹もその異様な存在に目を奪われていたが、徐々に、それ以外の光景も目に入るようになってきた。
「あれ以外も……意味わかんねえ」
そうして視界が開けて見えた光景も、なかなかに意味が分からないものだった。
まず目に映る、というよりうるさくて見てしまう場所は和樹たちの上部に位置する観覧席だ。
そこに仮面で顔を隠した観客らしき人間が大勢座っている。
グラウンドに視線を戻す。
犬のロボット以外も情報量は多い。
グラウンドに等間隔に書かれている円。
それはどれも面積が同じであり、何かを意味する目印的ものなのか。
そして犬の前後に置かれている、おもちゃの骨。
それが十本ほど、乱雑に入れ物に置かれている。
骨が白ではなく、赤と青の色が着色されていることから、チームごとのアイテムという予想はできるが――。
そしてその予想を肯定するかのように立っている、向かい側の青のゼッケンを着た五人。
敵チームという認識でまず間違いないだろう。
「それでは、今日行われる、『ここ掘れワンワン』のルール説明を開始します。プレイヤーの皆様、そしてご観覧の皆様。聞き逃しのないよう、ご注意を」
そうやって和樹なりに今わかるフィールドの情報を集めていると、会場内にマイクの音声が響き渡った。
いよいよ、今日行われるゲームの概要が、分かるらしい。
***
「さあさあ、暇と金を持て余した観客の皆様、お待たせいたしました!! 本日も始まるクレイジーなエンターテインメントショー――」
その声が響いたのは、観覧席とは少し離れた中央の司会席だった。そこには、おじいさんのコスプレをした進行役が立っている。
「『ここ掘れワンワン』の司会進行役を務めます、兼近です。よろしくお願いします!」
奇妙な仮装だった。目元が隠れるほどの白い丸眼鏡に、どこか昔話の中でしか見かけないような帽子。
顎にはもっさりと白い髭。まるで人生の終盤に突入したかのような格好だが、身振り手振りには妙な若々しさが漂っていた。
おそらくこのキャラ設定は、「花咲かじいさん」がモチーフなのだろう。ゲームの名前とも合致している。
「それではさっそく、ルール説明に参りましょう。昔々、あるところに二人のおじいさんがいました。彼らはとても強欲で、金銀財宝を欲しがっていました」
──二人ともいじわるじいさん側かよ……。
和樹は思わず心の中でツッコむ。だが、それもこの会場の異様な雰囲気には妙に馴染んでいた。
「そんなある日、二人のおじいさんに奇妙な情報が舞い降りました。誰かが地面の中に、“隠し金庫の鍵”を埋めた――と!」
観客の一部が笑い、どよめく。
「プレイヤーの皆さんの目的は、その鍵を探し出すこと! 使うのは中央の機械、機体名“SIL-O”。通称、花咲きシロであります!」
円の中央に鎮座している、あの犬型ロボットのことだった。
(あいつ、そんな名前なのかよ)
「シロは骨が大好きで、骨がある場所に駆け寄り、穴を掘ります」
司会の言葉に合わせて、和樹の視線がロボットの足元へと移る。
骨。あの十本ほどの、色付きのおもちゃだ。――なるほど、あれを使うゲームというわけか。
「察しの良い方は気づいているでしょう。このゲームは“骨を置く”ことで、掘られた穴からアイテムを引き当てる――そんな内容になっております!」
「このフィールド見た時点で大体の予想はついたな」
察しの良い方、というワードに反応したのか、権蔵がどや顔で強がる。
……正直、今は黙っててほしい。集中したいから。
「最初に、十分間の“話し合いフェーズ”を設けます。その間に、チーム内で骨をどこに置くかを決定してください」
ただの骨置きに十分? 少し長すぎないか――とも思ったが、
「骨を動かせるのは、一ラウンドにつき一本のみ。赤・青チームは同時に行動し、両チームが骨を置いた時点で、そのラウンドは即終了。残り時間はスキップされます。以上が基本ルールです」
驚くほど、単純なルールだった。
ただ、それが不気味でもある。
「ここからは補足です。まず、“勝者”は必ず出ます」
当たり前では? と首を傾げたが、引き分け的な状況を避けるための文言か。
隣では梨乃が顔を上げ、司会を凝視していた。
……この言葉に、何かを感じたのか。
「次に、反則について。反則は――“殺人”および、“話し合いフェーズ中に骨が動かされないこと”」
殺人はルールとかじゃなくて倫理的に当たり前だろ……。
となると実質的に反則事項は一つだけ。
反則のデメリットは何かあるのだろうか。そうやって考えていた時――。
「なお、反則または敗北が確認・確定された場合、イベントスタッフに撃ち殺されますのでご注意ください!」
最後に爆弾のようなセリフを吐き、それに呼応し観客たちが沸き上がった。
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