第三話 10人の美人姉妹③
数ある作品の中から興味を持っていただき、本当にありがとうございます!
「はぁ……!!! はぁ…………っ………!!!」
・・・・・・・・肺が痛い。
・・・・・・・・・・胸が、苦しい。
居ても立っても居られずに華さんたちの家を飛び出してから、どのくらい時間がたっただろうか。
わけもわからずに知らない街を走り続けて、もうここがどこなのかさえわからない。
巨大なオレンジ色の夕日が、俺が走る先の地面を不気味なほどに赤く染めている。
比喩抜きで、本当に夕日に呑まれてしまいそうだ。
『 「良い!? アンタなんかの居場所は、この家にはどこにもないんだからぁっ!!!!!!」 』
(そんなのっ………言われなくても、分かってるよっ…………!!!!!)
家を飛び出す前に1人の女の子から言われた、とある言葉。
それがずっと、息苦しさと横腹の痛さとともに俺を激しく苦しめていた。
俺の居場所は、どこにもない。
そんなの………そんなの、わかりきっていたはずなのに。
心のどこかで、期待していた自分が居た。
俺だって、存在してもいいんじゃないか。
皆の役に立てるんじゃないか。
『君がいてくれて嬉しい。 なくてはならない存在だ』……って、言ってもらえるんじゃないか。
けど……そんなことは、所詮俺の都合の良い妄想なんだ。
やっぱり……ここでも、俺はいらない存在なんだ。
あまりの苦しさに、今の今まで一度も休まずに動かしていた足を止めて…天を仰いで大きく息を吸い込んで吐き出す。
ふと左を見ると……水面に反射した夕日の橙色の光が煌々と輝いていた。
今まで無我夢中で走っていたので気づかなかったが………どうやら、ここは河川敷みたいだ。
(・・・・綺麗だなぁ。)
俺の目から入ってくる景色に、心の底からそう感じた。
河川敷から見える川なんぞ、人生で何百回何千回と見てきたはずなのだが…………
なぜか今日だけは、思わず吸い込まれてしまいそうなほど…恐ろしく綺麗に見えた。
『 「なんでこんなことも出来ないの!?!? お願いだから、真面目にやってよ!!!!」 』
『 「もういい。 もう金輪際あなたに期待しないから。 」 』
『 「本当に、お前は出来損ないだな。 小鳥遊家の恥さらしだよ。」 』
『 「良い!? アンタなんかの居場所は、この家にはどこにもないんだからぁっ!!!!!!」 』
俺の脳内の中で…今までにいろいろな人達に言われてきた言葉の数々が響き渡る。
なにか他のことを考えたくても……黒くべっとりと着いた焦げのようにしつこく俺の脳内を侵食する。
ふと気がつくと……俺の目の前に、夕日に照らされて煌々と輝く川の水面が表れた。
目の前の美しい橙色の輝きと、それに対比するような…脳内を蝕むどす黒く渦巻いた禍々しい汚れ。
不思議と……目の前のこの輝きに呑まれれば、俺という存在ごと頭の中の汚れも綺麗になる気がした。
(・・・もう………何も考えられない。)
俺の中に突如として湧いたその願望を満たすべく、目の前の美しい橙色の輝きへと歩みを進めようとした…
その、次の瞬間。
「奈緒くんっ…………!!!!!!!!」
(…………!!!!!)
俺の背後から、突如聞き覚えのある声が響き渡った。
◆◆
「おいお前っ………探したぞ………!!!!!
こんな所で何やってんだよっ…!!!!」
「奈緒っち……………なにしてるの………?
あーしたちとさ、一緒に帰ろ? ね?」
「花蓮の発言については、よく叱っておくさ。
だから、ボクたちを許してはくれないかい。」
俺が気づいて振り返ると、後ろには……
羽川家の皆さんが、心底心配そうな眼差しで僕を見つめていた。
「いや………ちがうの……………
花蓮、そんな……っ……そんなつもりじゃ…………なくて……………!!!」
その中に1人だけ……深い絶望に染まった虚ろな目でぽろぽろと涙を零しながら、俺の方を見る人が居た。
先ほど俺に正論を言い放った……『花蓮』と呼ばれている女の子だ。
彼女の右頬が赤く腫れ上がっており、不安定で不規則な短い呼吸を絶えず繰り返している。
俺は……目の前の常軌を逸した状況を見て、ようやく自分が置かれた状況を理解する。
夕闇の中で、焦点の合わない目でぽつんとたたずむ……川沿いに立つ男。
これでは完全に、自分の命を棄てる直前の人のようではないか。
「あ………いや………その!!!!
別に………違くてっ……………こ、これはっ………ええとっ…………!!!」
俺が必死に弁解するが……もう後の祭りだ。
・・・終わった。
・・・こんなに無駄な心配させるなんて、俺はなんてことをしてしまったのだろう。
一度は収まったあの脳内を蝕むどす黒く渦巻いた禍々しい汚れが、再び俺を苦しめる。
「おい……お前………大丈夫か? 奈緒っ……!!!!」
「奈緒くんっ…!!!! しっかりしてっ………!!!!」
視界がゆがむ。
息が苦しい。
・・・・もう、消えてしまいたい。
震える足にむち打ち、この場から逃げ出そうと右足を前に出してよろけた……その瞬間。
華さんが、今にも泣きそうな表情で僕の方へと駆け寄ってきた。
「………………………………………!?!?!?!???!?!?!?」
人生で一度も感じたことがない温かさが、俺の胸に飛び込んできた。
少し遅れてやってくる、もにゅうううううっとした破壊的な柔らかい感触と、全身にあたたかく包まれているような優しい感覚。
華さんに抱きしめられたのだと俺が気づいたのは、それから数秒後のことだった。
「だめよっ………!!! ぜったい、だめっ…………!!!!!」
華さんのいい香りが、俺の鼻腔をくすぐる。
・・・そういえば、誰かにこうやって抱きしめられたのなんて……生まれてから一度もなかった。
俺の目の奥に、なにか熱いものが込み上げてくる。
「あなたは、独りぼっちなんかじゃないっ………!!!!
もう、独りぼっちになんて………私が、私たちが……ぜったいに、させないからぁ………っ!!!!」
「……っ…………!!! 華さんっ………!!!!!」
「ぐすっ…………だからぁっ!!!
もう、ぜったいっ………!!!! 私の前から、いなくならないでぇ……っ!!!!!!!!」
産まれて初めて言われた、あたたかい言葉。
そのあまりの心地よさと温かさに、目の奥から熱い何かが勢いよくあふれ出す。
「………っ………!!! ごめんなさいっ………!! 俺っ………俺っ………!!!!」
「………うわああああああああんっ……………ああああああ…………!!!!!」
日が沈み、あたり一面が暗闇に染まりつつある河川敷の中で。
僕と華さんは、いつまでもいつまでも熱い抱擁を交わして感情の赴くままに泣き叫び続けていた。
読んでいただきありがとうございました!!
少しでも「面白そう!」「続きが気になる!」などと思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】の所から評価をして頂けるとものすごく嬉しいです!!!
感想やリアクションもして頂けると、凄く励みになります!!!!!
次回もよろしくお願いします!!