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第二十三話 羽山家の体育祭④

「がぁ………っ!!!!」


 「「「奈緒くんっ!!!!!」」」


 俺の両足があわただしく空回りし、行き場を失った足がもつれて重力に圧し潰される。

 次の瞬間には……鈍い音と灼けるような痛みとともに、俺は地面に突っ伏していた。


 転んでしまったのだと頭で理解した頃には……もう、すべてが遅かった。


 「いっ……一位、三年二組チームっ!!! 二位、サッカー部チームっ!……」


 俺の目線のはるか先にいる……先程まで()()()()()()()()()()()()()()()

 遥か遠くに、動揺と心配を含んだ声色の琴葉さんのアナウンスと、観客たちの大声援が響き渡った。


 ……終わった。


 俺はまた、期待に応えられなかったのだ。



 胸の奥に、羽山家のみんなと初めて会ったときのようなあのどす黒い感覚が渦巻く。

 

 あれだけ期待されていたのに。みんなの大切な夢を、俺に託してくれたのに。

 

 もう……消えてしまいたい。






 「奈緒くんっ!!! 頑張ってぇ!!!!」


 (っ…………!?!?)



 俺が絶望に打ちひしがれていると……

 羽山家のテントがある方から、華さんの声と思しき声援が飛んできた。


 「ぐすっ……奈緒クンっ!!! 頑張れぇっ!!!!」


 「奈緒ぉ!!! 諦めんなぁーーー!!! ゴールはすぐそこだぞー!!!!」


 華さんの声に続いて……続々と、家族のみんなの声援が俺の背中にかかる。


 ……そうだ。

 俺は……俺達はまだ、終わっちゃいない。


 じくじくと痛む膝をゆっくりと上げ、俺は勢いよく走り出した。

 

 「奈緒くん!!! 頑張ってっ!!!」


 「にーちゃん!!! 最後までがんばれーーーーっ!!!!!」


 今ここで立ち止まっていたら……みんなが紡いできたこのバトン(おもい)が無駄になってしまう。

 そんなことは……そんなことは嫌だ!!


 「奈緒ぉ!!! きばりやぁ!!! もうひと踏ん張りやでぇ!!!」


 「奈緒くん!! 頑張ってぇー!!!」


 羽山家のみんなが、クラスのみんなが、実行委員会のみんなが……俺に、声援をくれる。

 

 「うおおおおおおおおおっ!!!!!」


 「……そしてっ!!! たったいまっ!!!!!

 『羽山シスターズ』チームの奈緒選手がゴールしましたぁぁぁぁっ!!!!!」



 琴葉さんの深い感情がこもった実況とともに……

 俺は、最下位でゴールを駆け抜けた。



 ◆◆



 「「「かんぱーーーい!!!!」」」


 がやがやと和気あいあいとした雰囲気の焼肉屋の店内に、羽山家の元気な声がこだまする。

 無事に体育祭を終えた俺達は、優勝こそ出来なかったものの……

 『アツい展開を見せてくれた』とのことで、特別賞を頂いてしまったのだ。

 その額、賞金5万円。 20万円には到底物足りない額だが……その心遣いが、とても有り難い。


 「うぇええいっ!!! 奈緒ぉ〜!!! 盛り上がってっかぁ〜っ!?!?

 どーした、そんな浮かない顔してよぉーー!!!!」


 「……かっ、霞さんっ……!!!」


 俺が少ししんみりとしていると、既に出来上がっていた霞さんに絡まれた。

 豪快に右腕を俺の方に回して密着し、彼女の豊満な胸がもにゅううううっと背中に押しつけられる。


 「ほれほれー!!! 奈緒、お前も飲め飲めーーー!!!!

 みんなの前ですっ転んだことなんか、すぐ忘れちまうぞー!!!!

 輝良姉ぇも、いるかーーーー?」


 「い、いらないっ!!! それに、奈緒クンはまだ子供じゃないかっ!!!」


 「あはは……そうですね。

 お気持ちだけ、ありがたく受け取っておきます。」


 俺が霞さんにそう告げると……彼女は、俺を心配そうな顔で見つめてこう尋ねた。


 「奈緒、オマエ……本当に元気ねーな……。

 そんなに、カッコ悪いトコ見られたのがショックか?」


 「……いえ。 そうではなくて……

 俺が足を引っ張ったせいで、総合優勝が遠のいてしまったことが申し訳なくて……ほんと、ごめんなさい。」


 霞さんの質問に、目を伏せて悔しさをにじませながらそう答えた。

 あのまま俺が一位をキープしてゴールしていたら、総合優勝も狙えたかもしれなかったのに。

 そう思うだけで、自分の無力さが痛いほど伝わってくるのだ。


 「ううん!!!

 奈緒くん、それは違うわよぉ!!!」


 すると、俺の隣りにいた華さんが強く立ち上がって、俺の方を向き直ってそう言い放った。


 「奈緒くんのせいで総合優勝を逃したんじゃないの。

 奈緒くんの『おかげ』で、特別賞っていうとってもステキな賞をもらえたのよぉ!!!」


 「そうだぜー!!! だからあんまへこんでんじゃねー!!!

 あたしは、みんなでうまい肉と酒が飲めて大満足だぜー!!!」


 続けて、華さんと霞さんがそう俺に言ってくれた。

 俺のことを失望するどころか、こんなにもあたたかい言葉をかけてくれるなんて。

 俺は本当に、あたたかい家族を持ったんだな。

 

 「……はいっ!! ありがとうございます!!!」


 俺は心のなかで強く感動しながら……

 今日いちばんのとびきりの笑顔で、二人に向けてそうお礼を言ったのだった。




 


 

読んでいただきありがとうございました!!

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