第二十二話 羽山家の体育祭③
そんなこんなでハプニングだらけの体育祭は続いていき、午前中の競技がすべて終了して……
後は残すところ、大トリの『全チーム対抗リレー』のみになった。
俺はなんともいえない緊張感を抱えながら、華さんたちのテントに戻って昼食を摂っていたのだが……
「ひぐっ…… ぐすっ…… みんなぁ……ごめ……っ!!!!」
「よしよしっ、泣かないの〜!! 輝良ちゃんはよぉく頑張ってるわよぉ!!」
「ちょっ……綾香あんたっ!!! 花蓮のからあげ取るんじゃないわよーっ!!!」
「別に、花蓮姉さんのものって決まってたわけじゃないじゃん。 独り占めは駄目だよ。」
「ゆいねーちゃん!!! このおにぎり食べてー!!!
これ、ひなたと鈴音ちゃんが頑張って作ったんだよー!!!!」
「…………っ!!!(こくこくっ!!!)」
「おいひい……!!! 二人とも、てんさい……!!!」
俺達のテントは、色々とカオスだった。
みんなの前ですっこけてべそべそと泣いている輝良さんと、それを慰めている華さん。
綾香が何食わぬ顔で、花蓮の皿の唐揚げを食べ……それについて喧嘩しているふたり。
そして、なぜかうちのテントにいる小川さん。
心が安らぐであろう昼食時ですら、羽山家はがやがやと騒がしかった……
(午後のリレーですべての勝敗が決まるっていうのに、みんな呑気だなぁ……
くそっ……緊張する……!!!)
「ん? どーした奈緒ぉ? お腹でも痛いのか?」
「いえ……次のリレーが、少し不安で……」
俺が、そんな周りの雰囲気をよそに1人だけプレッシャーに押しつぶされる。
なにせ……俺は『羽山シスターズ』チームのアンカーを務めることになっているのだ。
いまのところあまり良い成績が振るえていないこのチームにおいて、逆転するためにはここのリレーで一位を取るしかない。
……ものすごく、責任重大なのだ。
「奈緒くんなら、きっと大丈夫ですぞー!!」
「そうだねっ……!! 奈緒くん、頑張って……!!」
「ぐすっ…………ふ、ふっ……!!
奈緒クンならきっとやれるさっ……!! 先程は負けてしまったが、こんどは仲間として共に戦っていこうではないかっ……!!!」
「そ、そうね。 多分この中で一番速いのあんただし……
花蓮も頑張るから、あんたも精一杯がんばりなさいよっ!!!!」
そんな俺の様子を見かねて、姉妹のみんなが激励の言葉をかけてくれた。
思えば、誰かに期待されたり……『頑張れ』と言ってくれたりしたのは何年ぶりだろう。
遠い昔の記憶を辿ってみても、母の打算的な作り笑顔しか思い出せない。
大事な夢を俺に託してくれて、応援してくれるみんなのためにも……
・・・絶対に、勝たなければならない。
「はいっ!!! ぜったい……絶対に俺が勝ちます!!!」
俺はみんなの方を向いて、覚悟を決めてそう高らかに叫んだ。
◆◆
「・・・それじゃあみんなぁ、行くわよぉーーーっ!!!!
ぜったい、優勝するぞぉーーーーーーっ!!!!!」
「「「おおぉぉーーーーーーーっっっっっ!!!!!」」」
1時間後。
いよいよリレーの開始時刻になり、羽山家のみんなと円陣を組んだ俺は……
極度の緊張で震える足をむち打ちながら、グラウンドのアンカー集合場所へと向かっていた。
『絶対に負けてはならない』という気持ちが頭の中で渦を巻くように暴れまわり、心臓がうるさいくらいにドクドクと高鳴っている。
「・・・さあ!!! 楽しかったお昼休みも終わり、この体育祭も残すところ『チーム対抗リレー』のみとなってしまいましたぁ!!!
さんさんと照りつける太陽も、わたしたちの結末をじっくりと見守っているようですっ!!!!!
実況はわたくし、橋広高校OGの羽山琴葉がお送りいたしますぞぉーっ!!!」
(琴葉さん……いったい、何やってんだ……)
なぜか本部のテントで実況をしていた琴葉さんに少し疑問を持ちながらも、俺はスタートラインで待機している日向の方へ目を向ける。
俺の視線に気づいた日向が元気に手を振ってきて、俺も軽く手を振り返すが……
やはり、日向もガチガチに緊張しているようだ。
「それではっ……よーい、スタートですわっ!!!!」
(日向っ……!! 頑張れっ……!!!)
高尾先輩のスタートの合図とともに一生懸命駆け出した日向を目で追いながら、ぐっと拳を握りしめて心のなかで精一杯のエールをおくる。
なかなか好調なスタートを切れたようだが……追手がすぐそこまで迫ってきている。
俺は自分の緊張も忘れて、白熱した試合の展開をじっくりと見つめていた……。
◆◆
「頑張れぇーっ!!!! そこだぁーーーーーっ!!!!!」
「鈴音ちゃんっ……!!! がんばってぇーー……!!!」
羽山家の姉妹たちのエールが、グラウンドに響き渡っている。
レースの展開は終盤に差し掛かっており、今は鈴音ちゃんが一生懸命小さな体でグラウンドを駆け抜けている。
……そろそろ、俺の出番だ。
おもいっきり深呼吸をして、集中しようと少しかがんで目をまっすぐ見開く。
・・・よし、いける。
絶対に、みんなの期待に応えなければいけない。
覚悟を決めた俺は、まっすぐな眼差しで後ろを振り返り……今のバトンの位置をしっかりと見定めた。
「……鈴音ちゃんっ!!! はいっ!!!」
「……っ……!!!」
鈴音ちゃんが決死の表情で差し出したバトンを、俺は力強くしっかりと握りしめる。
みんなの想いが詰まったこのバトン……絶対に、落とすわけにはいかない。
俺は高鳴る心臓に急かされながら、勢いよく地面を蹴飛ばした。
「行けぇーーーーっ!!!! 奈緒ぉ!!!!」
「奈緒くんっ!!! 頑張ってぇーーっ!!!」
がやがやと騒がししいグラウンドの中に、みんなの声援がはっきりと聞こえてくる。
一歩一歩前に進むたびに、その声援が何十倍何百倍何千倍と……俺の中で増幅しているようだ。
……応援が、こんなにも力をくれるものだったとは。
華さんの、輝良さんの、霞さんの、琴葉さんの、静さんの、ひよりさんの、花蓮の、綾香の、日向の、鈴音ちゃんの応援が、俺の頭の中で絶えず反響している。
もう、周りの光景など……どうでもいい。
今はただ……みんなのためだけに、ゴールテープを突っ切ることしか考えていなかった。
(このままっ……!!! このまま突き抜けろ———っ!?!?)
しかし、
俺はまたしても……期待を裏切ることになってしまった。
「がぁ………っ!!!!」
「「「奈緒(っち)っ!!!!!」」」
俺の両足があわただしく空回りし、行き場を失った足がもつれて重力に圧し潰される。
次の瞬間には……鈍い音と灼けるような痛みとともに、俺は地面に突っ伏していた。
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