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第十八話 体育倉庫と静さん②

 「あつーーい…… のどかわいたー……」


「そうですね……

 早く、助けが来るといいんですけどね……」


 俺達が体育倉庫に閉じ込められてから、およそ1時間ほどが経過した。

そろそろ、雑用を命じた上杉先生が心配して見に来てくれてもいい頃合いだが……まったくその気配がない。

 1時間以上も超高温の密室に閉じ込められているとなると、流石に気が滅入ってくる。

俺は暑さと乾きと退屈に耐えかね、同じ状況にいる花蓮達に気だるげに話しかけた。


 「あ゛ー……あつい……

 みんな、大丈夫ですかー……?」


 「むりー…… もうへろへろ〜……

 アイス食べたーい…… ジュース飲みたーい…… プールはいりたーい……」


 「花蓮もよっ………!!

 なんで五月のはじめなのにこんな暑いのっ……!? あー、地球温暖化がにくいわっ……!!!」


 俺の問いかけに対し、ひよりさんはへろへろになりながらいまの欲求を叫び、花蓮は地球温暖化について憤りを感じている。

 みんな、かなり気が滅入っているようだ。


 「しずちゃんはーー…?

 さっきからだまってるけど……体調、大丈夫そー……?」


 「あ……うんっ……!!

 私はっ……その……へいき、だよっ……!!!」


 「……え、静姉ぇ……?

 ホントに、大丈夫なの……?」


 ひよりさんと花蓮の心配に対し、さっきまでずっと沈黙していた静さんがそれに応える。

・・・が、どう見ても……静さんは大丈夫そうではなかった。


 はぁはぁとした荒い息遣いに、今にも泣き出しそうな苦しい表情。

気が動転しているのかきょろきょろと目を泳がせており、それと連動するように太ももをすりあわせて足踏みを踏んでいる。


 「ほんとにっ……大丈夫だからっ……!!!

 心配しないで…………ねっ……?」


 「いや、そう言われても……

 静さん、明らかに体調が悪そうですよ……!! 心配です……!!」


 誰が見てもひと目で体調不良だとわかる辛そうな仕草に、俺達が心配しているのだが……

本人はかたくなに『大丈夫』だと言い張っている。

真面目な静さんのことだ。きっと俺達に心配をかけたくなくて、体調不良を隠して気丈に振る舞っているのだろう。

俺が心底心配していると…… ひよりさんが、なにかに気づいたように静さんに追求した。


 「ははーん…… さてはしずちゃん、おしっこ我慢してるなーー……?」


 「!?!?!?!? ……いや、その……ちがっ……!!?」


 ひよりさんの鋭い指摘に、静さんがあたふたとしながら否定をするも……

数秒の沈黙のうち、顔を真っ赤にさせながら……小さくこくりとうなずいた。


 「……あーーーー………」


 「……なるほど……」


 「やっぱりかーー…… もっと早く教えてくれればよかったのにーっ……」


 「だ、だってっ……!! 

 こんな状況で『トイレに行きたい』なんて言えないし……なにより、恥ずかしかったんだもんっ…!!」


 静さんが半泣きになりながら、もじもじと落ち着かないままそう訴えた。

まあ、八方塞がりのこの状況じゃ言い出しづらくても仕方がない。

確かに、アニメやマンガではこういう状況はお約束ではあるのだが……いざ遭遇してみるとかなり厄介だ。


 「……大丈夫? 助けが来るまで、我慢できそうなの……?」


 「う、うんっ…… 多分、大丈夫だと……はうぅ……っ!!?」



 「いまどんくらいー……? だいたい、何パーセントー…?」


 「……きゅうじゅう、はち…………いや、きゅう……っ!!!」


 「めっちゃやばいじゃん!!?」


 ・・・これは、予想以上に事態は深刻そうだ。

俺は高熱に侵された脳をフル回転させながら、この状況を打破するための方法を模索していた。


(うーん……

 でも、この状況でどうにかなるわけ…… ・・・ん?)


 俺が焦ってきょろきょろとあたりを見回していると……

体育倉庫の天井近くに、空気を入れ替える用の小さな小窓があるのが確認できた。


(うーん……

 いちかばちか、試してみる価値はあるな!!!!)


 それを見た瞬間、頭の中に妙案が浮かんできた俺は……

心底つらそうにしている静さんに、()()()()()()を頼むことにした。



◆◆



 「静さんっ!! 大丈夫ですかーっ……!?!?」


 「う、うんっ……な、なんとかっ……!!!」


 密閉された体育倉庫の中に、俺と静さんの辛そうな声がこだまする。

俺に肩車をされている静さんが、息を荒らげて落ち着きなくもぞもぞと太ももを動かしながら……

一心不乱に、天井近くの小窓をこじ開けようとしていた。


 「奈緒ーっ!!! もうちょい右っ!! 右よー!!!」


 「しずちゃん、手が届いてないみたいっ!!! もうちょい背伸びしたげてーっ!!!」


 俺の上で扉をこじ開けようと悪戦苦闘する静さんの様子を見て、ひよりさんと花蓮が必死に、俺に指示を出している。

はたから見れば物凄いシュールな光景だろうが、俺達は至って真剣だった。


 俺が考えた『妙案』というのは、『天井近くの小窓を開けて、通行人に大声で助けを求める』

というものだった。

小窓さえ開けることが出来たら、鉄筋コンクリート内にこもった熱を逃がせる上に……近くを通りかかった人に救助を依頼することが出来る。

 だが、その小窓は……俺たちがいくら手を伸ばしても絶対に届かない場所に設置されていたのだ。

4人の中で背が高い方である俺と静さんの身長を合わせても……ぎりぎり届くか届かないかの微妙なラインだ。

 なので……わずかな可能性をかけて、俺が静さんを肩車して届くか試してみたのだが……


 「っ……ふぅ……うぅぅ……!!!」


 「し、静さんっ……!!! あんまり動かないでくださいっ!!!

 その……いろいろな意味で、危ないですっ……!!!」


 俺の肩の上で、静さんが心底辛そうな声を上げて……もじもじと身悶えている。

肩にずしりと伝わってくる……静さんの大きなおしりの柔らかさと、ふとももの弾力。

そして、首筋に伝わる……口にするのも憚られるような部分の感覚と、頭頂部にときおり伝わる大きくやわらかな胸の感触。

 静さんも限界が近いようだが、俺も同じく限界が近かった。


 「あっ……あうぅ……!!!

 奈緒くんっ……頭で、おなか押さないでぇ……っ!!!」


 「善処しますっ……!!

 それより、窓の方はどうですか……!?!?」


 「あ、あとちょっとでっ……届きそうなのにぃ……っ!!!」


 俺の問いかけに対し、静さんが心底歯がゆそうに応える。

静さんが焦って体を伸ばしたりもじもじと体を揺するごとに、いろいろな感触が俺の肩から上を容赦無く攻め立てていた。


 「ああっ……もぉ……っ!!!

 お願いだからっ……届いてよぉっ……!!!」


 「わわっ!?!? 静さんっ!!! そんなに動いちゃ危ないですよっ!!!

 一旦冷静になりましょう!!!」


 とうとうしびれを切らした静さんが、半泣きになりながら思いっきり窓に向かって手を伸ばし……

奇跡的に成り立っていた肩車のバランスが、ぐらっと崩れる。

 俺が必死に体勢を立て直そうと踏ん張り、静さんにあわてて注意を促すが…… 彼女の耳には、もう俺の声は届いていない。


 激しい焦りと尿意と羞恥心によってパニックになった静さんが、危険を顧みずに小窓の方へと身を乗り出し……

 完全にバランス感覚を失った俺と静さんが、おもいっきり背中から地面へと叩きつけられてしまった。


 「うわーーーーっ!?!?」


 「きゃぁ……っ!?!?」



 「奈緒っちーーー!!! しずちゃーーーん!!!!!」


 「!?!? ふたりとも、大丈夫っ!?!?!?」


 その一部始終を見ていたひよりさんと花蓮が、あわてて俺達の方へと駆け寄る。

万が一のために体操マットを敷いていたおかげで、衝撃はあれどもほとんど痛みはなかったのだが……


 「あっ……や、やぁっ……!!!」


 「し、静さんっ!!! ごめんなさい!!!

 大丈夫ですかっ!?!?」


 ちょうど、静さんの下腹部が倒れた俺の頭の下敷きになり…… 

静さんの抱えている弱点に、クリーンヒットしてしまった。

 あわてて俺が立ち上がり、体操マットの上に仰向けで倒れている静さんの方へと向き直る。




 「・・・おい!!! 羽山に羽山に羽山に羽山っ!!!

 なかなか戻ってこないが、いったいどうしたん・・・・あ。」


 「「「・・・・・あ。」」」


 そんな切羽詰まった状況の中で…… 唐突に、体育倉庫の扉が勢いよく開かれた。

勢いよく開けられた扉から勢いよく出てきた上杉先生が、俺達のことを見るなりぴくりとも動かなくなった。


 今の俺達の状況を整理してみると……

 マットの上で息を荒らげて横になっている静さんに、それを見下ろすような形で膝立ちをしている俺。

そして……先程の、若い女性の悲鳴と衝撃。

 ・・・明らかに、良くない誤解を抱かれている気がする……!!!


 「…………うむ!!! 『よんぴぃ』というやつか!!!!」


 空気が一瞬ガチガチに凍りついたのち、上杉先生が高らかにそう叫んだあと……

彼女は勢いよく体育倉庫の扉を締め、すたすたと何事もなかったかのように引き返し始めた。



 「・・・ちょっとーーーーっ!!!! 上杉先生っ!!!! 誤解!!! 誤解でーーーすっ!!

早く助けてくださーーーい!!! だれかーーーーーーーー!!!!」



 再び密室と化した体育倉庫の中で、俺は必死に声を荒らげて上杉先生を呼び戻していた……。

 

 


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― 新着の感想 ―
ラブコメの常として、話の進捗と、最終目標が分かりにくいのが気にはなります。 本作はメインヒロインが決まっていない作品と見受けました。
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