第十四話 みんなでカラオケ
数ある作品の中から興味を持っていただき、本当にありがとうございます!
「みんなぁ〜っ!! 盛り上がってるぅ〜っ!?」
「「「……おーーーーっ!!!」」」
今日は……みんなが待ちに待った土曜日。
奇跡的にみんなの予定が空いていたので、今日はみんなで駅前のカラオケに来ていた。
幼い頃に、歌の練習として散々通わされたが……大きくなった今、楽しむために来るのは初めてだ。
うまく歌える自信はないが、みんなの歌を聞いたり合いの手を入れたりするのはすごく楽しみだ!!
「いやー……奈緒っちも混ぜてみんなでカラオケ行きたかったんだよねー!!!
みんな、わざわざ土曜に予定空けといてくれてありがとねー!!!!」
「ふふっ……!!
ひよりちゃんのお願いだったら、なんでも聞いてあげちゃうわよっ♡」
「かわいい妹のためなら、当然ですぞー!!」
「は、恥ずかしいけど……精一杯歌いますねっ!!」
発案者のひよりさんの心からのお礼に、姉妹のみんなが優しい笑顔で応える。
どうやら、みんなもカラオケの雰囲気に浮かれて……いつもよりテンションが上っているようだ!
◆◆
「・・・貯めに貯めたfrustration♪ ぱっと開放するmasturbation♪」
「ひゅーーーー!!! いいぞぉーーーー華姉ぇーーーー!!!!」
華さんが、持参してきた自分用のサングラスをかけて、ノリノリでラップ曲を歌っている。
彼女のか細くきれいな声とのギャップが……なんともいい感じの雰囲気を醸し出していた!!
「いやーーー!!! いつ聞いてもはなっちのラップは凄いねー!!! かっこいいーー!!!」
「えへへ……ありがとっ!
やっぱり……大声を出すとすっきりするわねぇ……♡」
1人が一生懸命歌い、それを聞いているみんなが一生懸命歌い、ほめる。
『歌』を通して行われるあたたかい心のやりとりは、なんともいえないほんわかとした気持ちにさせてくれる。
みんなが歌う曲も……花蓮は恋愛ソング、霞さんはヘビメタ、琴葉さんはアニソンなどなど……
それぞれの好みや個性にあった歌を披露してくれるのも、いろんな一面が知れてすごく面白い。
「・・・なーつーがーはーじーまーーった!! あーいーずーがーしーーたーーーーっ♪♪♪」
今はひよりさんが、以前好きだと言っていたバンド『ミスターみどりんご』の大ヒット曲を、みんなで一緒に口ずさみながら元気に歌っている。
本当に、みんなでカラオケに行くのは楽しい!!!
(この時間が、もっと続けばいいのになぁ……!!!)
しかし……楽しい時間ほどあっという間に過ぎていくものである。
気づけば退出十分前を知らせる電話が鳴り響き、残すところあと1〜2曲ほどとなってしまった。
「……んだよ、もう終わりかー……?
じゃ、最後に誰か歌いたいやついるかー?」
霞さんがそうみんなに呼びかけるも、みんなも流石に疲れてきたのか誰も歌を入れない。
なんとなく、カラオケルーム全体にゆったりとしたムードが流れているときに……事件は起こった。
いきなりすっと立ち上がり、手際よくクールに選曲機を操作してマイクを握る人がいた。
今日は一回も歌を歌っていなかった……輝良さんだ。
「ふっ……待たせたな……みんなっ!!
最後のトリを飾るのはこのボク…… 世界的大女優の卵の羽山輝良さっ!!」
「「「……!?!?!?!?!?」」」
「おーっ!!! 待ってました!!!」
輝良さんのその宣言に対し、俺が大きく盛大な拍手をおくる。
すべてにおいて美しい輝良さんの歌声を聞けるのは、ものすごく楽しみなのだが……
なにやら、みんなの様子がおかしい。
「……お、おい輝良姉ぇ!?
今日これから稽古だって言ってなかったか!?」
「そ、そうだよ!
あんまこういうトコで喉を消耗させるのは、良くないって……!!」
「…………っ!!!!(こくこく!!)」
なにやら、姉妹全員が必死になって……輝良さんが歌うことを止めている。
俺にはよくわからないが、きっと相当喉に負担がかかるような歌い方をしているのだろうか?
期待と不安が入り混じったような感情で輝良さんの方を見つめていると、隣りに座っていた花蓮が心底焦りながら俺に耳打ちをしてきた。
「(奈緒っ!! 今すぐこの場から逃げなさいっ!!!
輝良ねぇの歌声は、あんたにはまだ早すぎるわっ……!!!)」
「(えっ……!? どういうことだよっ!?!?)」
「(いいからっ……!! 花蓮を信じて!!!
あんたのために言ってるんだからねっ……!!!!)」
いつにない花蓮の必死の忠告に、ただ事ではないような緊急事態なのかもしれないと察する。
・・・・なんか、ものすごく嫌な予感がするような……?
俺が訝しんでいると、前方から……今から輝良さんが歌うであろう、しんみりした失恋ソングのイントロが流れ始めた。
「(まずいっ……来るぞっ……!!!
みんなーっ!!! 伏せろーーーーーーっ!!!!!)」
霞さんが、みんなにだけ聞こえるように小声でそう叫んだ瞬間………
「・・・ぼえーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!!」
耳をつんざくような轟音と大地を揺るがす衝撃波が、輝良さんの口から放たれた。
◆◆
輝良さんの口から放たれる……おおよそ人のものとは思えない、破滅級の歌声(?)。
避難するのが遅れた俺はいきおいよくカラオケルームの壁に叩きつけられ、机の下に潜り込んで避難していたみんなも苦悶の表情を浮かべて耐えている。
部屋の窓ガラスと陶器でできたコップが粉々に砕け散り、琴葉さんの丸い瓶底眼鏡のレンズにも大きなヒビが入っていた。
この地獄のような空間が、1人の若い女性の歌声によって引き起こされたというのだから驚きである。
輝良さん本人は一番前で歌に集中しているため、この惨状に気づいていないのがせめてもの救いだ。
「(にーちゃん!? 大丈夫ーーーっ!?!?)」
「(日向ちゃん……行っちゃダメっ……!!!
今出ていったら危ないですよっ……!!!)」
「(あいつはもう手遅れだっ!!!
全員、どうやったらこの場を切り抜けられるかだけを考えろっ……!!!)」
先程までのゆったりした空気感とは一変……カラオケルーム内は地獄絵図と化していた。
なんとか地面を這って長いテーブルの下へとたどり着き、輝良さんの断続的な衝撃波攻撃を防げるようになったものの……
最初に輝良さんの攻撃をもろに食らった俺は、驚異的なまでの頭痛・吐き気・めまいを起こして力なくその場にへたり込んだ。
「(……う、うぅ…… なんですかコレ……)」
俺達の前で巻き起こっている、あまりに現実離れした奇想天外な光景。
涙目になりながら説明を求めると、みんなも正気を保つのがやっとといった感じで苦しみながら説明をしてくれた。
「(輝良姉ぇは、なぜか歌だけは壊滅的に下手くそなんだよぉっ……!!!
他のことは何でも出来るのに……マジでコレだけはレベルが違ぇ……!!!)」
「(しかも本人は全く気づいてないからねっ……。
いつもはカラオケに来てもほとんど歌わない人だから……油断してたっ……!!)」
「(某ガキ大将レベル……いや、それを遥かに上回るほどの破壊力っ……!!
彼女の女優人生のためにも絶対に指摘したほうがいいのですが……
その事実を知った輝良どのはきっと、深く傷ついてしまうでしょうなっ……!!!)」
「(ああああっ……
輝良ちゃんっ…… ひどいお姉ちゃんをっ…… どうか許してぇ……っ!!!)」
今だに留まるところを知らない衝撃波の嵐の中……
俺達はただ生き残ることだけを考え、神から与えられたであろうこの試練に耐えていた。
◆◆
数分後。
永遠とも思えるような体感時間が経過したのち……
輝良さんが歌っていたしんみりした失恋ソングの後奏が、ゆっくりと終わりを告げる。
耐えきった……。
俺は……いや俺達は、この神から与えられた試練を耐えきったのだ。
「す、すごー!! きらりん、さすがの破壊力だよーっ!!!!」
「な、なんつーか……歌声にパワーがあるよな!!!
こう……魂というか……命が揺さぶられるみたいな……」
「ふっ……まあな……!!
歌が下手では、世界的な大女優になるなど夢のまた夢だからなっ!!!」
みんながテーブルの下から出てきて、輝良さんに……そしてこの試練を耐えきった自分自身に向けて精一杯の拍手をおくる。
それを受けて、輝良さんが少し照れたようにぽりぽりと頭を掻きながら自慢げに答えた。
「実は、ボクが所属している劇団で歌姫の役のオーディションがあるんだ。
歌はあまり経験がなかったので、練習も兼ねて歌わせてもらったよ!!」
「あはは……そうなんですね……」
・・・なるほど。そういうわけか。
輝良さんのためにも劇団のみなさんのためにも、これは早急に改善する必要がありそうだ。
「どれ。 それならボクも、先程の録音を聴いてみようじゃぁないか。
やはり、歌の上達には自分の歌を聴くのがイチバンだからな!」
「「「・・・!?!?!?!?」」」
輝良さんがなんのけなしに自分のスマホを手に取り、先程の歌を録音していたであろう動画をタップして再生しようとする。
「……や、やめっ…………!?!?!?」
『・・・ぼえーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!!』
僕たちの制止もむなしく……
先ほどと全く同じ破壊力の輝良さんの歌声が、一度は平穏が訪れたカラオケルームに響き渡った。
◆◆
「ひっく……ぐす………っ…………うぅ……………」
「……輝良ちゃん、元気だして?
まだまだこれから、もーっと上手になればいいんだから!! ……ね?」
あれから数分後。
カラオケのフロントでお会計とコップ代と窓ガラスの修理代を支払った俺達は、華さんが運転するアルファードの中で泣きじゃくっている輝良さんを慰めていた。
至近距離で不意打ちの衝撃波を食らった俺達もただではすまなかったが、それよりも輝良さんのメンタルが心配だ。
「そうだよっ……! 逆に言えば、輝良姉さんはそこさえ直せば完璧ってことだしっ……!!」
「そーだよ!! きらりんは声が大きく凛々しいから、あんな感じの歌声になっちゃうだけで……」
「……ぐす………っ……
みんなぁ……めいわくかけて…………ひっ…………ごめ………ぅぅ……っ!!!」
「めーわくなんかじゃないよ!!! ひなた、輝良ねーちゃんの役に立てたら嬉しいもん!!」
「うちも応援してっからさ。 元気だしてよ。」
「…………っ!!!!(こくこく!!)」
「輝良ねぇ。 ……こんどみんなで、また歌の練習しに行くわよ。
奈緒。 あんたも、問答無用でついてきてもらうから。」
みんなの温かい励ましもむなしく、輝良さんは美しい顔をくしゃくしゃに歪めて顔を真っ赤にして泣きじゃくっている。
家族の意外な一面を目にし、俺も輝良さんの歌の特訓に付き合ってあげようと強く誓ったのだった。
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