第十話 初めての高校③
数ある作品の中から興味を持っていただき、本当にありがとうございます!
「お疲れさぁん。 奈緒君。
今からお昼やし、一緒におべんと食べよぉや。」
昼休み。
ようやく長い午前の授業が終わり、教科書を片付けながら一息ついていると…
先程俺に話しかけてきた『浦霧 爽也』と名乗った胡散臭い男が、ヘラヘラと笑いながら俺の席へと尋ねてきた。
まだ高校に慣れていないので、話しかけてくれるのはとてもありがたいのだが……
・・・・何か裏がありそうだ。 名前からして裏切りそうだし、警戒しておくに越したことはないだろう。
俺は昼飯の誘いを受けつつも、内心半信半疑で爽也のことを見つめていた。
「うん。 一緒に食べよう。
どこか、いい場所はないかな………?」
「ほんなら、ここの校舎の屋上が空いとるでぇ。
今どき、屋上が一般開放されとるなんて珍しいよなぁ。 アニメん中に入ったみたいで、テンション上がるわぁ。」
爽也が、もともと高めの声をさらに上ずらせ…上機嫌そうにそう言い放った。
確かに、アニメでの高校生活といったら屋上で昼食をとるのが鉄板だが、現実世界でそれができるのは珍しいのかもしれない。
俺は爽也に警戒心を募らせながらも、わずかに胸に生じるワクワク感を育みながら屋上へと足を運んだ。
◆◆
「げっ……!!! なんであんたがここにいんのよっ……!!!」
案の定というか、なんというか……
俺達が屋上に着くと、花蓮たち含む女子グループ3人が既に陣取っており…
レジャーシートの上で楽しそうにおしゃべりをしていた花蓮に、悪態を付かれてしまった。
「別にどこにいたっていいだろ……。 俺達もここで弁当食うんだよ。」
「ふん。 あんたと一緒だと、せっかく華ねぇが作ってくれたお弁当がまずくなるわよ!
ここにいてもいいけど、せめて花蓮たちの邪魔にならないとこで食べてよねっ!!」
「・・・とんでもねぇ理不尽だな………」
花蓮の悪態を軽く受け流し、俺達が座る場所を探してきょろきょろとあたりを見回していると…
俺達に気づいた、花蓮と一緒に居るJK二人組が俺達に声をかけてきた。
「あれー? この人が、さっき花蓮の言ってた『昨日できた姉弟』の人ー?」
「委員長もいる……………。 ふふ、一気に賑やかになったね……」
花蓮とは違って、俺らのことを笑顔で出迎えてくれたJK二人組。
二人とも、花蓮とは違ってすごく素直で優しそうだ。 花蓮とは違って。
「あたしは、『大原 佳代』。 二人ともよろしくね〜」
JK二人組の背の高い方の女子が、さわやかな笑顔で俺たちに自己紹介をしてくれた。
綺麗なオレンジ髪のセミロングで美人な、明るくおおらかで気が良さそうな人だ。
「わたし、『小川 ゆい』…。 仲良くしてね……」
大原さんに続いて、背の小さい方の女子がにっこりとした笑顔で自己紹介をしてくれた。
身長はかなりちっこいが、胸の部分だけ異様なほどに大きい。 ・・・・まあ、それはいいとして…
黄色っぽいミディアムヘアでかわいらしい顔をしている、不思議ちゃんそうな独特な雰囲気の人だ。
「よろしくなぁ。 ワイは、このクラスの委員長をやらしてもろてる浦霧爽也っちゅーモンや。」
「俺は、今日からこの学校に通う『羽川奈緒』です。 よろしく………」
二人の自己紹介を受けて、俺達も軽い自己紹介を行った。
花蓮の友達であるとは思えないくらい、二人ともとても優しく素直な人だ!
「せっかくだし、二人もここ座んなよ! 家での花蓮の様子とか、いろいろ聞きたいしー!」
「・・・はぁ!? 絶・対・!! イヤよ!!
こんなやつと一緒にご飯食べたら、せっかくのお昼ごはんがマズくなるわよっ!!」
「・・・? みんなで食べたほうが、ごはんはおいしいよ………?」
「せやなぁ。 小川さんの言う通りやぁ。
せっかくだし、お邪魔させてもらうでー。」
爽也が上機嫌でヘラヘラしながら、脱いだ靴を丁寧に揃えてレジャーシートの上にちょこんと座った。
大原さんと小川さんのご厚意で、花蓮たちのグループにお邪魔させていただくことになったのだが……
・・・花蓮が心底不服そうにしながら、顔を赤らめて俺の方を睨んでいる。
「もーっ!!! せっかくのお昼休みが台無しよーーっ!!!」
「まあまあ、そう嫌がんないでよ。
・・ところで奈緒くんさ、家での花蓮の様子ってどんな感じー? やっぱツンデレなの?」
「『やっぱ』って何よっ!! 花蓮は断じてツンデレなんかじゃないからっ!!!」
「かれん……… せっかくの姉弟なんだから、もっと優しくするべきだよ…………。」
「はは! せやなぁ。 家族は優しくせんと……。
ウチも小学生と幼稚園児のチビ二人がおるけど、にぃににぃに〜って懐いてくれてごっつ可愛いんや!」
「えー!? まじー!? 後で写真見してー!!!」
「・・・・もーーーっ!!!
みんな、ちょっとは花蓮の話も聞いてってばーーーーーーっ!!!!!」
高校生活…そして今までの学生生活で初めての、大人数でワイワイ過ごす昼休み。
屋上に吹き抜ける心地よい風と花蓮の絶叫とともに、楽しい昼休みはあっという間に過ぎていった。
◆◆
名残惜しくも、楽しかった昼休みも終わり…
俺は爽也と花蓮たちと一緒に、午後の授業を受けるべく教室へと向かっていた。
「花蓮ー… いいかげん機嫌直しなよー…
あんたの意見聞かなかったのは謝るからさー……」
「ふんっ!! いまさら謝ったって、もう遅いんだからっ!!!」
「かれんー………キャラメル、いる? あまくておいしいよー…?」
「・・・・・・いる。」
小川さんからもらったキャラメルを口に入れながら、へそを曲げて口をとんがらせている花蓮。
確かに俺達も悪いが……なかなかめんどくさい奴だ。
「なはは、すまんなぁ、羽川さん。
・・・・あ、ワイちょっとお手洗い行ってくるから…皆で先戻っててやぁ。」
「あ、あたしもトイレ行ってくるー!」
「わたしも。 かれんも、一緒にくる…?」
「ふんっ!! 行かないわよそんなのっ!!」
どうやら、俺と花蓮以外の奴はみんなトイレに向かうらしい。
女子特有の連れション文化から、花蓮もトイレに誘われていたが…… へそを曲げた今の花蓮の耳には届かない。
(うわー…… この状態の花蓮と二人きりかー………
なかなか、厄介そうだ………。)
このまま二人で教室まで戻ることに少しめんどくささを覚えていると………
花蓮がいきなり、すたすたと早歩きで教室へと歩き始めていた。
「・・・・あっ、おい……!!!!」
「ついてこないでっ!! あんたなんて大っきらいよっ!!!」
・・・・ついてこないでと言われても、目的地が同じ教室なのだからどうしようもないだろう。
俺もなんとか花蓮に追いつこうと早歩きで食らいつくも、なかなか花蓮のスピードが速い。
少なくとも廊下で出して良いスピードではないが…… こっちはそれどころではない。
花蓮が、なんとか俺を振りほどこうとやけになっていると…
“ ドンッ!!!! ” と鈍い音を立てて、前を歩いていた生徒に花蓮がぶつかった。
「いたっ!!!
・・・ちょっとあんたっ!! そんなにのろのろ歩いてんじゃ・・・・・ひぃ…っ!?!?」
100%自分が悪いにも関わらず、花蓮がぶつかった相手に対して文句を言っている。
・・・・しかし、その虚勢は……いとも簡単に崩れ去った。
今しがた花蓮がぶつかった、山のような体格のいかつい顔をした大男。
そんな、なんとも恐ろしい風貌の男が……花蓮の方をを睨みつけながらゆっくりと振り返った。
◆◆
「・・・・・・・あ゛……………………?」
先ほど花蓮がぶつかった大男が、花蓮を睨みつけながらドスの利いた低い声で脅すような声を出す。
2mをゆうに超えるであろう巨大な体躯に、筋骨隆々の身体。
ボロボロになっている漆黒の学ランと学生帽………そして、こちらを射殺すような鋭い視線。
まちがいなく…………絶対に関わっちゃいけない人だ。
「な、なによっ…!!! なんか………もんくでも………あるわけぇ………?」
・・・よせばいいのに、そんな明らかにヤバい人の前でも花蓮は平常運転だった。
まあ………明らかに無理をしているのは、誰の目にも明らかだった。
足はぷるぷると震え内股になり、声が涙混じりに震えている。
・・・・まあ、これは100%花蓮が悪い。
別に見捨てるわけじゃないが、花蓮にはいい薬だろう。
いざとなったら先生を呼べばいいし、誠心誠意謝ればあの不良だって許してくれるだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・!!!!」
「ひぃ………!!」
俺が、そんな根拠もない楽観的な思考をしていた…次の瞬間。
山のような体格の不良が、花蓮の前にめいっぱい拳を振り上げたのだ。
まずい。
このままだと…………
・・・・花蓮が、殴られるっ…………!!!!!!!!
そんな考えが、俺の脳内を支配したその次の瞬間。
「・・・・・俺の大事な家族にっ………!!! 何してんだあぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
俺は考えるより先に、身体が勝手に走り出していた。
すんでのところで花蓮と不良との間に割って入り込み、両腕をめいっぱい広げて花蓮をかばう。
怖い。
怖くて、たまらない。
だが、目の前で俺の大事な家族が傷つけられる方が、もっと怖い。
俺が今にもチビりそうになりながら、花蓮を守って不良を睨みつけている。
そんな、永遠とも思えるような時間が経過したのち…………
「・・・・・おーい!! 羽川さんに奈緒ぉ!!
そないなトコで、何をやっとるんやぁーー?」
「・・・・・・・爽也っっっ…………!!!!」
後ろから聞き馴染みのある声が響き渡り、心からの安堵感が俺の胸に染み渡る。
「・・・・花蓮が、不良に殴りかかられたんだっ……!!!
今すぐ、男の先生を呼んできてくれっ!!!!
ここは俺がなんとかするからっ………早く………!!!!」
そうやって、俺が爽也に決死の覚悟を伝えた次の瞬間………
「・・・・何を言うとるんや? 奈緒………?」
爽也が、俺を見ながらあっけらかんとした態度でつぶやいた。
「こいつは『長田 番』。 ワイと同じで勘違いされがちやけど……
本当は気弱で優しいワイの幼馴染や。 不良でも、いきなり女の子を殴りかかるようなやつでもあらへん。」
「・・・ご、ごめんね? ただぼく、きみの肩についてたほこりを取ってあげようと思っただけなんだけど… こんな風貌だから、怖がらせちゃったよね?」
爽也が笑いながら『番』と呼ばれた大男の背中をばしばしと叩き、大男が縮こまりながらも優しい笑顔で俺達に話しかけた。
きっと爽也と違って、本当にただ誤解されやすいだけの……優しい一般男子生徒なのだろう。
一人称『ぼく』だし。
「・・・・・・・なーーーーーんだ……………
すみません、俺…… とんだ早とちりを…………」
俺が心の底から安堵し、がっくりと肩の力が抜ける。
緊迫した場面から一変、一件落着のほんわかとしたムードが漂いはじめているなか……
「・・・・・・・!?!?!?!?!?!?//////////」
「・・・・・・っ………ぐすっ………うわああああああああああんっ!!!!!!!
怖かったぁ………… 怖かったよぉぉぉぉ…………!!!!」
突如俺の背中に、ぎゅっと締め付けられる衝撃とふにっと柔らかい感触が伝わる。
・・・・・俺の後ろにいた花蓮が、後ろから俺を抱きしめながら子どものように泣きじゃくり始めたのだ。
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