『交わる記憶、覚醒の契り』1
前回までのあらすじ(第2話)〜語り手:犬神愛衣より〜
ねぇ……あなたも、誰もいないはずなのに「見られてる気がする」って、
感じたことありませんか?
空気がすぅっと冷たくなって、背中の奥がゾクッとするような――
そんな、理由のわからない“違和感”。
高校二年生の犬神千陽ちゃんも、
ある日、その気配を感じたんです。
明るく元気な彼女の心の奥には、ずっと消えない“もや”のような感情がありました。
そして出会ったのが――銀髪の転校生、天野ヒカリさん。
その出会いに、しっぽがふるっ……と小さく震えたのは、
きっと偶然なんかじゃなかった。
放課後、チハルちゃんは愛犬ゲンキと散歩に出かけ、
“見られている気配”に導かれるように、何度も訪れていたはずの場所へ足を向けます。
でもその日だけは、そこがまるで違う空気をまとって見えたんです。
静かに、でも確かに――なにかが、動き始めていたのです。
しっぽが……ぶんっ、ぶんっ……って揺れるくらいに、静かに、確かに。
「えっと、転校してきた天野ヒカリです。よろしくお願いします。」
静かで、それでいて芯のある声が、教室にすーっと広がっていった。その瞬間、私は思わずヒカリの方を見ちゃった。だって、昨日の帰り道で出会った、あのちょっぴり不思議でキレイな雰囲気をまとった子が、今こうして私たちのクラスに立ってるんだもん!
派手な子じゃないのに、そこにいるだけで空気がふわっと変わるような、なんだか目が離せない存在感。静かな湖みたいに澄んでて、でも底はすご〜く深そうな…そんな印象。
ヒカリは椅子にすっと座ったまま、静かに笑って――
それから、ふわっと私の方を見てくれた。
「また会ったね、犬神さん。」
「う、うんっ!びっくりしたよ〜!まさか同じクラスになるなんてっ!」
「私も驚いたよ。でも…なんだか、不思議と違和感ない気がする。」
ヒカリの微笑みは、ふわっとしてて、それでいてちょっと儚げ。なんか、つい見とれちゃった。
授業が終わると、ヒカリの周りにはクラスメイトがわらわらと集まってきた。
「ヒカリちゃん、どこから来たの〜?」
「好きな食べ物は?」「趣味ってなに?」
質問攻めの中でも、ヒカリは落ち着いてて、丁寧に答えていく。
「引っ越してきたのは少し離れた常盤町から。好きな食べ物は和菓子かな。趣味は…その……可愛い犬のグッズを集めること。」
その一言に、私のアンテナがビビビッと反応っ!
「えっ、奇遇〜っ! 私も前は常盤町にいたんだよ!?もしかして、どこかですれ違ってたかも!? わぁ、すっごく不思議な感じ〜〜っ!」
思わず前のめりに話しかけちゃって、ヒカリがちょっと目をまるくしたんだけど――すぐに、ふわって微笑んでくれたの。
もうその瞬間、私が、もしほんとのワンちゃんだったら、ぜ〜ったい尻尾ぶんぶん全力で振ってたと思うっ!
そして、さらにビックリ!
「犬のグッズが好きなの!?わ、わたしも大好き〜っ!!ぬいぐるみとか文房具とか、見つけるたびに“連れて帰っちゃう病”なんだよね〜っ!」
テンション爆上がりの私に、ヒカリはちょっとだけ身を乗り出して、こっそり話すみたいに……
「……可愛い犬のグッズが揃ってるお店、前から気になってたの。」
それって……めちゃくちゃ気が合うってことだよね!? うわぁ、なんか一気にテンション上がっちゃった!私、こういうの大好きっ!
「そっかそっか!じゃあ、今度一緒に探そっ♪」
ヒカリは一瞬だけ戸惑った顔をしたけど、すぐに「……うん、いいかも」って小さく頷いてくれて、もう嬉しすぎて、私のハートがじわ〜ってなった!
「実は、限定グッズとかも気になってて……いや、その……。」
ってヒカリがちょっぴり照れながら言うから、私は思わずニッコリ。
クラスのみんなも『それいいね!』ってわいわい盛り上がって、ヒカリのまわりはどんどん賑やかにっ♪ なんだか、その空気までキラキラして見えたんだ〜っ!
ちょっと戸惑ってるみたいだけど……ヒカリの頬が、ぽわんってふんわり赤くなってて。
それ見たら、なんだか胸の奥がポカポカしてきて……えへへっ、私、すっごく嬉しくなっちゃった。
そんな気持ちのまま、私はお昼になるのが待ちきれなくて――そして、昼休み。
亜沙美と隆之と一緒に屋上へゴーっ☆
春の風がほっぺをなでて、わくわくしながら階段をのぼっていくと……
そこには、もうヒカリの姿があった。
フェンスにもたれて空を見上げるその横顔がね、なんていうか……まるで小説の中から出てきたヒロイン、みたいで! 思わず『わぁ…』って、声に出しそうになっちゃった。
「ヒカリ、ここにいたんだ〜」
声をかけると、ヒカリがふっと笑ってこっちを見た。
「うん。風が気持ちよくて、つい。」
その声が、なんだか空の色にぴったりで……心がすーって落ち着いた。
「ヒカリも一緒にお弁当食べよ!」
「そうだ。せっかく屋上にいるんだしな。」
「ほらほら、ここ空いてるよっ! みんなで食べたら楽しいし、美味しさ3割増しだよ〜っ!」
ヒカリはちょっと迷ったみたいだったけど、「……じゃあ、少しだけ」って言ってくれて、私は「やった〜!」ってガッツポーズ!
ヒカリも輪に加わって、私たちはお弁当をひらいて、春の風を感じながら
もぐもぐタイム♪
「はぁ〜〜〜っ、やっぱ屋上って最高っ! 風も気持ちいいし、空も広〜いっ!」
「日差しが強いな。日焼け注意だぞ、亜沙美」
「うぅ、今それ言わないでよ〜!」
そんなやり取りに、みんなでくすくす笑って、ふと私は空を見上げた。
「……ねぇ、こうして空をのんびり眺めるのも、悪くないよね」
「おっ、チハル詩人か〜?」って亜沙美に突っ込まれたけど、
私はちょっと照れくさくて、でも本当の気持ちを言っちゃった。
「わたし、夜に星を眺めるのが好きなんだ。すっごく静かで、空が広くて、光ってる星があると……なんか、ほっとするの。」
理由なんてないんだけど、星を見てると、なんだか懐かしい気持ちになっちゃうことがあるんだよね。」
「へぇ〜、意外とロマンチストなんだね!」
「確かに。俺も最近空なんて見上げてなかったな。」
ふふっ、やっぱ照れるな〜。でも……
「……わかるかも」
ヒカリの声が、ふわっと風にのって私の耳に届いた。
思わず横を見ると、ヒカリが静かに空を見上げてた。
「ヒカリも、星見るの好きなの?」
「うん。夜空って…なんか、落ち着くよね。」
その瞬間、胸の奥がふるっと揺れた。
なんだろう……前にもこの会話、したことがあるような気がして……でも思い出せない。
「そっか、ヒカリも空、好きなんだね」
ヒカリは小さく頷いて、遠くを見る目がちょっと切なげだった。
「常盤町にいた時も、高い場所から町を眺めるのが好きだったの。星もキレイだし、静かで……」
その言葉が、なんだか私の心にふわっと響いた。
「ロマンチック〜♪」って言いながら、私はいたずらっぽく笑ったけど、
「犬神さんも、そう思う?」ってヒカリが聞いてきて……
「もちろんっ!みんなで一緒に過ごす今も、すごく特別だな〜って思うもんっ!」
私がそう言って大きく伸びをすると、ヒカリはふわっと微笑んで、なんだか安心した顔をしてた。
そして、ぽつりと……
「……また、星が見たくなってきた」
その言葉に私の中の何かがキラッと光って――
「よしっ!じゃあ、みんなで星を見に行こうっ!」
「おーっ、賛成っ!」
「天気予報チェックしておくよ」
みんなでわいわい話してる中、ヒカリがちょっと不思議そうな顔をして、でもすぐに嬉しそうににっこり笑ったんだ。
「……楽しみ」
その言葉を聞いた瞬間、私の胸がドキッとしたけど、ヒカリの笑顔がまるで空の光みたいにキラキラ溶けていって、すごくきれいだった。
──夜空の下で、みんなで笑い合える時間。
それって、きっとすっごく素敵だよねっ!
そう思ったら、なんだか胸の中がキラキラしてきて……
ワクワクが止まらなくなった。




