表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『犬神物語』 〜転生少女と不思議な絆〜  作者: 犬神 匠
第八話 渡島編 後編
81/84

『白と黒の贈り物』34

湯けむりの余韻に包まれた休憩室で、みんな思い思いのドリンクを楽しんでいたそのとき――


「ねぇねぇっ、玲奈先輩っ!」

メロンソーダを半分ほど飲み終えた亜沙美が、くるっと身を乗り出すようにして声を上げた。


「この別荘に……地下にゲームルームあるって噂、本当ですか〜っ!?」


そのひと言に、部屋の空気がぴくっと動く。


「えっ!? ゲームルーム!?」

「マジで!? 地下!?」


チハルが目をキラッキラにさせて、反応した。


玲奈は、紅茶の瓶を指先でそっとまわしながら、微笑みを浮かべた。


「……ええ。父の“ちょっとした趣味”でして。地下に、小さな娯楽室を作ってあるの」


「小さなって言って、どうせすっごいやつなんでしょ〜〜〜っ!?☆」

亜沙美が瞳を輝かせながら身を乗り出す。


「ふふっ……そこは、見てのお楽しみですわ」


「いこっ!ねぇみんなっ、地下だよ!?ゲームルームだよ!?これは行くしかないでしょ〜〜〜っ!!」


チハルがぴょんっと立ち上がって、バスタオルをぱたぱたさせながらはしゃぐ。


「汗かいても大丈夫なんやろ?」

天音がちらっと玲奈を見やる。


「もちろんですわ。お部屋にもシャワーとバスタブがございますし、もう一度温泉に浸かっていただくのも、おすすめですわね」


玲奈は、にこりと優雅に微笑む。


「わわっ……っ!!」

「な、なにそれっ、ぜったい最高じゃ〜〜〜んっ!!」


チハルが、ぱぁっと顔を輝かせて、思わず両手でほっぺを押さえながらくるくる回る。


「じゃあ……行きますかっ?ねぇっ、みんなで〜〜っ!!」

美咲もぴょこっと立ち上がって、瓶をそっと棚に戻しながら、にこにこ笑顔で声を弾ませる。


「レトロゲーム、あるかな〜っ♪」

ワクワクが止まらない様子で、亜沙美がみんなを先導する――


その背中に、玲奈がひとこと、ぴしりと声をかけた。


「……なお、ゲームは夜九時までとさせていただきますわ。

それ以降は、お静かにお過ごしくださいませ」


「「「はぁ〜〜〜〜〜〜いっ!!」」」


そして――

笑い声と足音に包まれながら、一行はわいわいと地下へと向かっていくのだった。


地下への階段を降りていくと、そこには、ほんのりと明るい照明が灯った廊下が続いていた。

木の壁と黒いフロアがどこか落ち着いた雰囲気を醸していて、別荘の中とは思えない静けさがある。


「うわぁ……この感じ……なんか、秘密基地みたいっ」


チハルがぽそっと呟いたその先――


廊下の突き当たりに、ひとつの木の扉が見えた。

取っ手に手をかけた玲奈が、ふっと微笑む。


「では――開けますわよ」


ぎぃ、と音を立てて扉が開かれると、

中には色とりどりのランプが灯るレトロゲームの楽園が広がっていた。


……その扉の横には、さりげなく貼られた注意書きの札があった。


※ご利用は21:00までとなります。

それ以降はお静かにお過ごしください。ご協力をお願いいたします。


まるで美術館のようなフォントで書かれたその札に、

チハルは「わ、ちゃんとしてる……!」と、思わず背筋を伸ばす。


――が、次の瞬間。


「うわっっ!!なにこれっ!!やばっ!!」

「ほんとにゲームセンターじゃんっ!すご〜〜〜〜っ!!」


扉の向こうに広がる光景を目にしたチハルと美咲は、目をまんまるにして、

そのまま勢いよく中へと駆け込んでいった。


奥にはネオジオの筐体が並び、

その隣にはエアホッケー台、ダンスダンスレボリューション、さらに懐かしのワニワニパニックまで――!


「これは……ウチのパパも泣いて喜ぶラインナップです〜〜〜〜〜っ!!」


美咲が興奮気味に叫ぶ。


「ふふっ、これは……“昭和レトロ”ってやつですね〜〜〜っ♪」


愛衣も目をきらきらさせながら、ゲーム機に顔を近づけている。


「ネオジオ……久しぶりやなぁ。

昔、近所の子らと集まって、ようゲーセンの片隅で遊んでてん。

この筐体のボタンのカチカチ音、なんや懐かしすぎて泣きそうやわ〜……」

天音が目を細めて、懐かしむように筐体を見つめた。


「すごいな。これ……すべて稼働してるのか?」

隆之がすっと近づいて、ひとつひとつのゲームを点検するように眺めていく。


「当たり前ですわ。父の“趣味”ですもの」

玲奈が肩をすくめながら、ちょこんとプリクラ機の前のソファに腰を下ろした。


「というわけでっっ!!」

亜沙美が前に出て、手を高く掲げる。


「ここからは“真夏のゲームフェスティバル”開催で〜〜〜〜っす☆」


ぱちぱちぱち〜〜〜っ!

拍手が響き、まるで夏祭りのような空気が広がっていく――



「ふふ〜……せっかくだから、最初はこれから、どうですか〜?」


愛衣がそう言って指さしたのは――

カラフルなライトが瞬き、左右に設置されたパネルがやけに存在感を放つ、リズムダンスゲーム。

その名も、ダンスダンスレボリューション。

略してDDR。


「……気になってた。少し、挑戦してみようかしら」


画面を見つめながら、ヒカリが静かにステップ位置に立つ。

部屋着の裾がふわりと揺れて、足元のライトに淡く色が映った。


“鬼モード・選択中”


「えっ、ヒカリ!?それ……最高難易度じゃ……っ!」

チハルの声も届かぬまま、ヒカリは冷静に画面を見つめ続ける。


「……大丈夫。足さばきなら、得意なはず」


だけど――


♪タッタカッターン!!♪


軽快すぎるイントロと、

文字通り“人間離れ”したステップ数に、ヒカリの足がついていかない!


ドッタン!バッタン!ズザッ!!


「…………っ!? あれ……っ、踏み……にく……っ」


どたばたッ!!

ステップミス連発!!


ヒカリ、まさかの――地団駄っ!!!


「……くっ……ま、まだいける……!!」

ダダダダダッ!!!


表情は真剣そのものなのに、

足元だけは、まるで拗ねた子供が駄々をこねているみたいにバタバタと!


チハル「えっ、ちょっ!?ヒカリっ!?それ、“ステップ”っていうか……」

美咲「じ、地団駄ですぅ〜〜〜っ!!」

天音「……怒ってるん?ゲームに?」

愛衣「ふふ〜……あれはもう、“舞”ではなく、“闘”ですねぇ〜〜っ♪」


そして――

“MISS MISS MISS GREAT MISS”


画面は、容赦なく告げた。


GAME OVER


「…………」


ヒカリはしばらく無言のまま、

足元のマットをじっと見つめていた。


(……どうして、私、こんなに悔しいのかしら……)


次の瞬間――

ヒカリ、リトライボタンをポチッ。


第二ラウンド、開戦っ!!


――その様子を後ろから見ていた、美咲と天音が、顔を見合わせる。


「……ヒカリ先輩、なんだかんだで、すっごく負けず嫌いですね……っ」

美咲が少し笑いながら言うと、


「うちらも……やる?」

天音がネオジオの筐体を指さす。


画面には、昔ながらの2D格闘ゲーム。

選択キャラは、すでに美咲:お団子髪のちびプロレスラー vs 天音:長髪クール系剣士。


「よぉしっ……いきますよぉ〜〜〜っ!!」

美咲のスイッチ、オン。


ネオジオ対戦、開幕!!


続く戦いの火花と、DDRでバタバタするヒカリ――

地下のゲームルームに、賑やかな“夏合宿の夜”が響き始めた。



「おりゃ〜〜〜っっ!!必殺ドロップキックです〜〜っっ!!」


画面内で、小柄なキャラが華麗に跳ねる。

ボタンをバチバチ連打しているのは、美咲――

その顔は真剣というよりも、ほとんど“ごはんにありつく時”と同じ表情。


「ちょっ、ウチのキャラが……ずっと浮いてるやん……」


天音は両手で操作しながらも、どこかほんわか笑っている。

選んだキャラは、クール系の長髪剣士。

なのに――ジャンプからの連続攻撃で、一方的に追い詰められていた。


「やっぱりこのゲーム、楽しいです〜〜〜〜っ!!

 わたし、パパとよくやってたんですよっ。ネオジオ好きなんです〜〜っ!!」


「わぁ〜、すごいな美咲ちゃんっ!めっちゃコンボ決まってるっ!」

「かわいい顔して、容赦ないな〜〜……」

後ろで見ていたチハルと亜沙美が、きらきらしながら声をかける。


「えへへ〜〜っ、対戦は遠慮しないのがルールですっ!」

美咲がちょっとだけキメ顔で言ったその瞬間――


「せやけど……そろそろ、ウチの番やでっ」


天音が、くいっと指を鳴らす。


次の瞬間――


ドカッ!バキィ!ズババババッ!!!


「うわっ、えっ!? あれっ!?動け――わっ!? えっ、えええっ!?!?」


美咲のキャラが画面の端に追い詰められ、

天音の怒涛のコンボが止まらない!


「ここからは、ずっとうちのターンやぁっ!!」


天音のキャラがシュパッと切り込み、ジャンプキャンセルからの空中斬撃!!

バッキン!バッシィ!!キラキラエフェクト乱舞!!


「え、えええ〜〜〜っ!?!?」

「ちょ、ちょっとぉっ!!」


「あのっ……まだ“私のターン”来てないんですけどぉぉぉ〜〜〜っっ!!」


後ろで見ていたみんなが、ぷっと吹き出す。


「それが格ゲーや! うちは止まらへんで〜〜っ!!」

「なんせ、格ゲー部門では“日向のクイーン”って呼ばれてたんやからな〜♪」


「えええ〜〜〜〜っっ!?!? そんなの聞いてません〜〜〜〜〜〜っ!!」


天音のコンボは止まらず、画面の美咲キャラはぴょんぴょん跳ねて宙を舞う!


「や、やめてくださいっ! 空飛んでるだけで、着地できないんです〜〜っ!!」


わちゃわちゃ大騒ぎの中で、ネオジオ筐体のスピーカーからは勝者ボイスが流れていた――


『Perfect Victory』


天音、静かにピース。


「……うち、ちっちゃい頃からこれだけは強いんよ」


美咲は、ほっぺをぷくーっとふくらませたまま、

ちょこんと天音の隣に座り込んだ。


「も、もう一回っっ!!」


――このあと、二人のバトルは、

“笑いが一段落したところで幕を下ろした”という――。



ゲームルームの片隅――

明るいランプの灯りが瞬くなか、やや静かなベンチスペースに、玲奈・亜沙美・長谷川の三人が腰を下ろしていた。


「明日の午後は海水浴、その後バーベキュー、夜は肝試しに花火大会……流れに無理がないか、もう一度確認しておきたいわね」


「はいっ!広報用のスケジュール表も、修正バージョン作ってありますよ〜っ☆」


「備品チェックは任せろ。肝試しのルートもさっき再確認してきた」


それぞれに役割を確認し合いながらも、どこか和やかな空気が流れていた。

夏合宿という一大イベント――生徒会にとっても、一つの晴れ舞台だった。


と、そこに。


「生徒会長〜、こんなところにいらしたんですね〜〜」


ふわりとした声と共に、ひょこっと現れたのは――

生徒会書記の柚葉だった。手にはミニノート。


杉本柚葉。生徒会の縁で玲奈や亜沙美とは親しく、そして美咲とは同じ一年生の友人。

どこかほんわかした雰囲気をまといながらも、抜群の事務処理力を誇るしっかり者だ。


「明日のイベント内容、私の方でもチェックしておこうと思って……

 肝試しの順路と、花火の設営場所、もう一度整理したくて」


「助かるわ、柚葉さん。いつもありがとう」

玲奈がやわらかく微笑むと、柚葉も照れくさそうに小さく会釈を返す。


そのやりとりの最中――


「うう〜〜〜っ……天音先輩っ、ひどいですぅ〜〜〜〜〜っ!!」

後ろから泣きそうな声とともに、ふらふら〜っと戻ってきたのは、美咲だった。


「わ、わたしのターン、一瞬で終わっちゃったんですけど〜〜〜っ!?!」


「……うちのターン、終わってへんかっただけや〜♪」

天音が後ろでのほほんと手を振る。


「ふふっ、美咲ちゃんらしいな」

柚葉がくすっと笑って、すぐに手をひらひら。


「美咲ちゃんもここにいたんだね〜。じゃあさ……ちょっと気分転換に、ワニ叩いてみない?」


「えっ、ワニ……って、まさかっ、ワニワニパニックですか〜〜っ!?」


ぱあぁっと顔を輝かせる美咲。

その隣で、柚葉も小さく頷く。


「うん、あそこの台、今ちょうど空いてるから。一緒にどうかな〜って」


「やりますっっ!!」

目をキラキラさせた美咲が、いちごミルク片手に勢いよく頷く。


「よーしっ、次は負けませんよぉ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」


ふたりは笑いながら、並んでゲーム台へと駆けていった。

その背中は、まるで小さな“仲良しコンビ”のようで――


その様子に、亜沙美がふっと微笑む。


「ふふっ、可愛い〜〜♪」


そして間もなく、ゲーム台の方からは

「バシンッ!」というワニを叩く音と、

「きゃあっ!?」「そっちじゃないよ〜〜っ!」と、にぎやかな声が響きはじめる。


そのとき――


バスケットシュートゲームの前で、

「よ〜〜しっ! いっくよ〜〜っ!!」

チハルが勢いよくボールを放り投げる。


そのフォームは少しぎこちないけれど、

跳ねるように動きながら、夢中になってシュートを繰り返す姿は―― フォームは荒いのに、伸びしろだけがまぶしい。


「チハル、ほんっと楽しそうだね〜〜っ」

亜沙美が目を細めて、嬉しそうにメロンソーダをちゅっと飲む。


「ほんとうに……ああして、何にでも夢中になれるのって素敵ですわね」

玲奈も紅茶をそっと口に運びながら、

やわらかく微笑んだ。


長谷川はふたりの会話に軽く相槌を打ちつつ、

そんなチハルの姿を、静かに見つめていた。


「……犬神に、バスケの楽しさを教えてやるかっ」


ぽつりと呟いた声には、

どこか兄のような、やさしい響きがあった。


ポケットに手を入れ、コインをひとつつまみ上げると、

すっと立ち上がる。


「ちょっと、様子見てくる」


その言葉に、亜沙美が「ふふっ、がんばって〜」と背中を押すように笑った。


そう言って背を向けた長谷川に、玲奈は言葉をかけなかった。ただ、そっと、微笑むだけ。


(ほんと、わかりやすい人ですわね……)


少女たちの笑い声が交錯する中、

ゲームルームには、またひとつ、新しい空気が流れ始めていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ