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『犬神物語』 〜転生少女と不思議な絆〜  作者: 犬神 匠
第八話 渡島編 後編
77/84

『白と黒の贈り物』30

食堂の扉が開いた瞬間――

私の目は、思わずまんまるに見開かれた。


ふわりと広がったのは、ほのかなハーブの香りと、

あたたかな照明に包まれた、映画みたいに上品な空間だった。


高い天井にはシャンデリアがきらきら揺れてて、

壁には、ふだん美術室でしか見ないような油絵が静かに飾られてる。

窓の外は、もう夕暮れのやさしい光が差し込んでて――

その光を反射して、テーブルのグラスやお皿がきらっと輝いてた。


広々としたフロアの中央には、重厚な木のテーブルが二列ずらり。

その上に並んだお皿は、どれもこれも、色とりどりで……


「わっ……すっご……! 本当にここ、別荘の中なのっ!?」


(まるで宝石箱をのぞいちゃったみたい……!)


長いテーブルが二列に並び、色とりどりの料理がずらりと並んでいる。

前菜にスープ、パン――奥ではシェフたちが手際よく料理を運んでいた。


「さぁ、皆さん。今日は、ちょっと特別な“高橋家別荘スタイル”でまいりますわよ」

玲奈先輩がふわっと笑いながら、手をひらり。


「コース料理の形式をベースにしながらも、皆さまの食欲にお応えして――

最初に数品並べた状態からスタートいたしますの。もちろん、順番通りに次のお皿も運ばれてきますわ」


……って玲奈先輩が説明したそのとき。


ちらっとヒカリの方を見たら――

いつも落ち着いてるあのヒカリが、わずかに目を見開いてた。


その瞳が、ほら……ほんの少しだけ、うるうるしてて…… まるで星屑がきらっと浮かんだみたいに、テーブルの灯りを受けて。


「……すごい。こんなに綺麗な食卓、初めて見たかも」


ぽつりとつぶやいたその声に、なんだかこっちまで胸がいっぱいになっちゃって。


「……気に入りましたか? 天野さん」


玲奈先輩が、すぐそばで静かに声をかけていた。

ヒカリは、ちょっとだけびっくりしたように目を向けて――それから、ふっと微笑んだ。


「……はい。とても」


その一言が、どこまでも素直で、あたたかくて。

玲奈先輩も、なんだか照れたみたいに小さくうなずいてたの、見逃さなかったよっ。


「うわぁ〜っ! ちー先輩っ! これ、ホンモノのコース料理ですよねっ!? なんかお誕生日みたいです〜っ!」


美咲ちゃんは、すでにテンションMAX。

瞳きらっきらで、テーブルの端から端まで走りそうな勢いだった。


「おぉっ……このナイフとフォーク、三本あるやつ……! 魔法使いセットかな?」

亜沙美はスマホで写真を撮りながら、感動の声を上げてた。


「え、なになに……“真鯛のポワレ 白ワインソース”? え、ポワレってなに……なんか、ドラクエに出てきそうな呪文なんやけど……」

天音ちゃんはメニューカードを見て、ふわ〜っとした顔で首をかしげてた。


「えっ、“コンソメロワイヤル”? ……それってスープなん? 王様みたいな名前やけど……」

「デザートは……“ジュレ・ド・フランボワーズ”? もはや詠唱! 詠唱始まったっ!」


私は思わず、口元をおさえてクスッと笑った。

でも、こんな素敵なディナーを準備してくださった料理人の皆さんにも、

心から感謝しなきゃって思った。

(ありがとうございますっ……!早く食べてみたいなぁ)

 

他にも、隆之、長谷川先輩、先生たち、合宿参加の部活メンバーがぞろぞろと席についていく。


私もヒカリ、美咲ちゃんと並んで、テーブルの中ほどの席にちょこんと座った。

なんか、こう……すごい。背筋、ぴしっとなる。


「いただきますっ!」


一斉に響いたその声と、お皿やカトラリーの音で、ダイニングは一気ににぎやかになった。


(わぁぁ……ほんとに、夢みたい……!)


私がそんなふうにうっとりしていた、そのとき――


「……ちょっとだけ、足りなかった時のために……」


となりでゴソゴソと音がして、美咲ちゃんがリュックの口を広げていた。


「やっぱり……パン入ってるぅ〜〜〜っ!?(笑)」


思わず笑っちゃう。

美咲ちゃんの、どこまでも準備万端な“パンパンリュック”――きっと、今日も大活躍する予感がした。


***


「ふわぁぁ〜〜〜……っっ!」


お湯の中で思わず、声がとろけちゃった。

天井の高い、ひのきの大浴場。

ほのかな木の香りが鼻にふわ〜って抜けて、目を閉じたくなるくらい気持ちいいっ!


「今日のごはん……マジでやばかった……」

天音ちゃんが、ふぅ〜っと長く息を吐いて、湯船のふちに腕をかけながらぽつり。


「ローストビーフ……三切れ食べたあたりで、もう……昇天しかけたですっ……!」

美咲ちゃんが湯面からぴょこっと顔を出して、目をキラキラさせながら感想爆発!


「“ジュレ・ド・フランボワーズ”とか……名前だけで魔法やったわ……」

天音ちゃんも頷いて、しみじみと。


「ふふっ……あのコンソメスープ……ひとくちごとに癒されたわ」

ヒカリが目を閉じながら、ちょこんと静かに言うんだけど――

その口元がちょっとだけふにっと緩んでて、なんか可愛かった。


「わたしね、真鯛のポワレのとき、“これが、ポワるってことなんだ〜”って、なぞの納得してたっ(笑)」

そう言いながらわたし、湯船の中で足をパチャパチャ揺らしちゃう。


(あ〜〜〜、今わたし、ワンコだったら間違いなく“全力ごろ〜ん”してるっ! 

しかも湯けむりスパモードっ!)


***


タイル張りの洗い場には、しとしとと流れるシャワーの音。


「……あら、あなたたち、少しは静かにしたほうがよくてよ?」


玲奈は、しっとり濡れた髪を指先で整えながら、湯気の向こうでキャッキャとはしゃぐ声に眉をひそめた。


「ふふっ、みんな楽しそう……いいお湯みたいですねぇ」


愛衣は隣でのんびり髪を泡立てながら、ふわふわ笑顔を浮かべる。シャンプーの香りがほんのりと広がって、まるで子犬のような柔らかい空気が漂っていた。


「いや〜〜っ☆ ウチらも負けてらんないってカンジじゃな〜い? こーゆーときはリラックス大事っしょ〜っ♪」


亜沙美が笑いながら体にお湯をかけると、湯気がふわっと立ちのぼった。


やがて三人は、静かな内湯のひとつに肩まで浸かって、ぽかぽかとお湯の温もりに身を委ねていた。


「……それにしても、チハルさんたち。最近、ずいぶんと親しくなってきたわね」


玲奈の言葉に、愛衣がうなずく。


「ええ……とっても、素敵な関係です。ふふっ、見ているだけで、心がぽかぽかしますねぇ」


「だよね〜〜! なんか青春っ☆って感じ〜っ! みんな、良い仲間だよねっ♪」


少しだけ、誰も言葉を発さずに、お湯の音だけが響いた。


その沈黙の中で――愛衣は、そっと目を閉じて呟く。


「……こうして、みんなが笑っていられるのって、ほんとうに、奇跡みたい……」


玲奈がふと、横目で彼女を見る。だが、何も言わずに、ただ湯の中で腕を伸ばし、目を閉じた。


「……ま、奇跡は努力でつかむものですわ」


亜沙美はというと、ふわふわの髪を持ち上げながら、突然思い出したように言った。


「この旅館って……なんか、娯楽施設とかあったりするんですか〜?」


亜沙美の問いに、玲奈はゆったりとした仕草で髪をかき上げながら、

すこしだけ口角を上げた。


「ありますわよ。父の趣味でして、二階奥に小さなゲームルームを

設けておりますの」


「マジで〜!? どんなのが、あるんですかっ☆?」


「ふふ……ネオジオの筐体に、ワニワニパニック。エアホッケーも。あとは行ってみてのお楽しみですわね」


「うっわ〜っ、それはテンション上がるやつぅ〜っ♪ あとで絶対行く〜〜っ!」


「……ふふっ。賑やかになりそうですねぇ」


愛衣がふわりと笑い、玲奈も

「……まぁ、たまには童心に帰るのも一興ですわね」と目を閉じた。


(そして彼女たちはまだ知らない。

翌日、そのゲームルームで“データと重心の鬼”が誕生することを――)

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