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『白と黒の贈り物』23

わたしたちを乗せてくれるチャーターバスは、思ってたよりずっと大きくて綺麗で、まるで“どこか遠く”へ連れてってくれる観光バスみたいでした。


点呼も終わって、いよいよ乗車!って空気のなか、ちー先輩がバスのステップに足をかけた――その瞬間。


「犬神、ここ危ないから気をつけろよ」


って、すぐ後ろから、やさし~く声をかけてきたのは――


長谷川先輩っ!


しかも、ちょっとだけ手も添えちゃって!?

あ、あの、お兄ちゃん系イケメン枠が……っ!


ちー先輩と長谷川先輩って、なんだかんだ仲が良くて、

そういうの、もう見慣れてるはずなのに……


(ううぅぅぅっ。

やっぱりヤキモチやけちゃうのです~~っ!!)


わたしの中の“恋敵センサー”が、ブーブー鳴ってた。


そして今、その人がすっごく自然に、すっごくやさしく――ちー先輩に、手を差し伸べていた。


「……あっ、ありがとうございますっ!」


ちー先輩は、ちょっとだけ照れた顔で、その手をギュッと握った。


――はい、今ここで、わたしの中の何かが爆発した!!


(な、な、なに今の!? なにその……ぎゅっ!? ぎゅっ!!?)


……わたしのすぐ前を歩いてた隆之先輩が、「チッ……」って小さく舌打ちしてたの、ちゃんと耳がキャッチしましたからねっ!?!?


あの人も、あの人で、絶対ヤキモチ焼いてるぅぅぅぅ!!

でも、問題はそこじゃなくて――


(やばいっ!このままじゃ、ちー先輩の隣の席っ、

わたしの特等席が取られちゃうっ!!)


バスの通路を進んでいくちー先輩を、息をのんで見つめるわたしたち。


そして――

 

「わぁっ、ここ、窓側〜! わたし、ここにしよっ!!」


ぽすん。

ちー先輩は無邪気な笑顔で、ぽんっと窓際に座っちゃった!!


次の瞬間――


「隣、空いてる?」

「その席、俺が先に見てたんだけど?」

「わ、わたしっ、隣いいですかっ!!」


まさかの――

恋の椅子取りゲーム、争奪戦勃発ぅぅぅぅっっっっ!!


男子も女子も、微妙な間合いを取りながら、

ちー先輩の隣を狙ってバチバチの火花っ!!


(こ、これは……戦争……!)


ターゲットは、ちー先輩の“隣”!!

窓際はすでにちー先輩が着席済み――

空いてるのは、たったひとつの、特等席!!


参戦者:男子2名――そして、わたしっ! 美咲ですっ!!


(戦場に立ってるのに……なぜか一歩出遅れてる感……!!)

(いや、負けないっ! 負けられないっ!!)


今まさに、恋の椅子取りゲーム、開☆戦☆っ!!


そんな火花が飛び交う中――

ふわりと、静かな声が差し込んだ。


「……ここ、いい?」

その声は、ふんわりと優しくて、静かに流れる風のようで。


ヒカリ先輩が、さりげなく

ちー先輩の隣に、すっと腰を下ろしていた。


「うんっ! ヒカリちゃんが隣でうれしい〜!」


ちー先輩のその笑顔で――



全てが、終わった。


(ああああああぁぁぁぁっ!?!?)


(ちー先輩の隣、取られたぁぁぁぁぁ!!!)


わたしのすぐ前――

隆之先輩は、見たことないくらい静かに肩を落としてて……そのすぐ隣では、長谷川先輩も、なぜか深いため息。


(えっ、長谷川先輩まで……!?)


――たぶん、ちがう。

たぶん、ただの風。たぶん、偶然。


でも、わたしの妄想センサーにはバッチリ見えてました。

今このバスの通路に――“がっくり男子たち”が誕生してるっ!!


だけど――わたしは、ここで、負けるわけにはいかないっ!!


(……ならば。ならばっ!!)

(最後の手段を、取るしか……ないっ!!!)



「せ〜〜んぱ〜〜〜いっ!!」


ドンッ!!(荷物を棚に)


ぴょ〜〜んっ!!(勢いよく前に飛び出して――)


天井に“ゴンッ”と軽く当たってしまった!


「きゃっ……あ、あぅぅ〜〜……」


(あっ……ちょっとだけ、天井に……)


ストンッ!!(そのまま、ちー先輩の膝の上に着地)


「み、美咲ちゃんっ!? 大丈夫っ!?」


「わたし、ちっちゃいし、軽いですからっ!! 

だ、大丈夫ですからっ!!」


わたし、もう止まらなかった。

止まれなかったんですっ!!


ちー先輩が、わたしの頭をそっと撫でてくれた。

「いたいのいたいの、飛んでけ〜♪」


(……ヨシヨシ……されちゃった……っ!!)


(や、やった……わたし、ひざの上だけじゃなくて……

ちー先輩の手も、もらえた……。)


心の中でこっそりガッツポーズしてた、そのとき――


「……マジでやりよった……この子、伝説やで……」


天音ちゃんが、頭を抱えて崩れ落ちてた。


「ウチ、渡島へ向かうバスの中で、愛衣ちゃんに“膝に乗ってみる〜?”って言われた時、秒速で断ったんやからなっ!!」

「…まさか、ほんまに実行する猛者が出てくるとは……思わんやん!?」


「それな〜っ! てか普通、乗れないって!

発想が神よね!?」


亜沙美先輩がそのあと続いて


「いや美咲ちゃん、すっごいジャンプして――

真上から、ちょこんって乗ったけどさ!?

まるで、ゴルフで【ホールインワン】したのかと思ったよ!?!?」


肩を震わせながらツッコんでくれてた。


「ち、ちがいますぅ〜〜っ!!」


わたしはぷるぷる手を振って否定して――でも、


「わたし、ドライバーとかじゃないです〜っ!

もっとこう……パターで……やさしく……ふわって……ちょこんって……」


モゴモゴと説明する自分の声が、だんだん小さくなっていく。


(わたし、ちっちゃいし、軽いし……だから、ちょっとだけ……ね?)


わたしは、ふにゃふにゃになりながら、ちー先輩の膝の上で静かに勝利をかみしめていた。


(やっぱり……ちー先輩って、あったかい……)  


ふと横を見ると、ヒカリ先輩は穏やかに、

わたしの顔を優しく見つめてくれていた。


そのまなざしには、

――どこか、全部をわかってるような、

そんな不思議なあたたかさがあった。


(……もしかして、ヒカリ先輩は知ってるのかな)

(わたしが、ちー先輩のことを“特別”に想ってるって……)


それに……なんだろう。


ヒカリ先輩のその目の奥に、

まるで、もっと昔から――

わたしたちのことを、ずっと知っていたみたいな、

そんな優しい光が浮かんでいた気がした。


(……わたしと、ちー先輩……)

(なんとなく……ヒカリ先輩には、全部見透かされてる気がします……)


だからわたしは、ちょっとだけ背すじを伸ばして――

ヒカリ先輩に、えへへって、ちょっと照れながら笑いかけてみた。

 

ちょうどその瞬間――

ヒカリ先輩の瞳が、ふわっとわたしのほうを見てくれた気がして……胸がきゅっとなりました。


(……なんだか、ちょっと不思議な気持ち。)


そんな余韻に包まれていたその時――


「……それはそれとして、さっきのホールインワンで、使ったクラブ……気になりすぎる……」

ぽそっと呟いたのは、まさかの亜沙美先輩でした。


その瞬間――

場の空気が、一瞬ピタッと静まり返る。

誰もが何か言いかけて、口をパクパクさせたまま固まって……

次の刹那――その“隙”をついて、即興大喜利大会・開幕!


天音ちゃんが、すっと手を挙げる。

空気がわずかに張りつめたまま、ひとつ息を吸う。


「愛の倶楽部クラブや」


その一言を、真顔で放つ。


「って!! 漢字にしたら爆発力ヤバない!?」


「なにそれ……入会希望者、殺到するやつじゃん……!!」


「登録料はな、気持ち一つでOKやで」


「やめてぇぇ〜〜〜〜っ!!なんなんその完璧な愛の営業トークぅ!!」


……そこへ、まるでタイミングを測ったかのように――


「ふふっ……わたしのクラブ、ですか〜っ?」

愛衣ちゃんがにこ〜っと微笑みながら、ふわふわの金髪を揺らした。


「入ってみますか〜? 会員証、しっぽスタンプ付きですよ〜?」


「やめて!? なんで“愛衣クラブ”が公式みたいな顔してんのぉぉぉ〜〜〜〜っっ!!」


天音「えっ、スタンプあんの? それって何に使えるん?」


亜沙美「ちょ、ちょっと待ってウチ、入会したくなってきた!!」


 

「ふふふ……ホールインワン、素敵な青春ねぇ〜♪」


――その言葉が、バスの前にやさしく降ってきた。


声の主は、なんと杉本先生っ!


ずっと見守ってくれていた先生の、ふわっと微笑むそのひと言が、大喜利の嵐だったわたしたちを、静かに包み込んでいく――


(し、しめたっ!? 今のでこの空気、まさかの杉本先生が……しめちゃったの!?!?)


もう誰がボケで誰がツッコミなのか、わからない。

バスの中は、完全にカオスと化していた。


嵐のような笑いとテンションが、

一瞬で「ほんわり青春モード」へと変わっていったのでした。


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