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『白と黒の贈り物』6

帰りの電車の窓から見える街は、

もうすっかり夜の顔になっていて、キラキラのイルミネーションが走ってた。


座席にどてっと沈みながら、私はトートバッグの中をこっそり確認。

じゃーんっ!クラフト体験で作った、シロのための“おそろいチャーム”♪


(うんうん、ちゃんと無事……よしっ)


シロに渡すのが、今からもう楽しみすぎて……

ついつい顔がゆるみそうになるのを、あわててごまかす。


「ふわ〜……あれ全部まわったの、今思えばけっこうすごくない!?」


あのあとディオンで、みんなとごはんを食べ終えたあと、

ちょっとだけ寄り道して――UFOキャッチャーにチャレンジっ!

亜沙美が「絶対取れるって~!」って力説してたけど、

景品が微妙にズレて、結局、隆之が最後に本気出してくれたというオチ。


スポーツショップでは、美咲と一緒に「これ似合いそう!」

「これちょっと高いけどカッコいい!」って、

テニスシューズやウェアを見てはしゃいで――


それから、隆之の言ってた科学部で使えそうな機材の専門店にも立ち寄ったら、

店内で隆之がよくわかんない機械をじーっと眺めながら、

「このセンサー、熱反応の誤差すごく小さいな……」なんてつぶやいてて、

わ、理系男子っ!ってなった私たち、そろってぽかーん。


結局、帰る時間が少し遅くなっちゃったけど――

ディオンで過ごした夕暮れの時間は、

最後まで、笑い声と楽しい思い出でいっぱいだった。


私の隣では、ヒカリが静かに座ってて、

その横顔は相変わらずきれいで――ちょっとだけ、さみしそう。


(……なんか、ヒカリ、元気ないような……)


ちょっとだけ胸の奥が、キュッとなった気がして。

私は、勇気を出して聞いてみた。


「ねえ、ヒカリ」


「うん?」


「帰ったら……シロに、会えるかなっ?」


ヒカリは一瞬だけ考えて、

それから、小さく笑ってくれた。


「……きっと、いるよ」


その言い方がちょっとだけふしぎで、

でもやさしくて、なんだかホッとした。


――そのとき。


(……シロー?聞こえる?)


私は、心の中でそっと呼びかけてみる。


『……犬神千陽か。ようやく思い出したか。我を呼ぶとは、良き兆しよ』


(……相変わらず偉そうだな〜〜っ!!)


『ふふ、冗談だ。我は今、そなたの帰りを待っている。例の“献上品”も楽しみにしているぞ』


(チャームのことだよね!?「献上品」って、言い方よっ!?)


電車のガタンゴトンという音の中で、

ひとりニヤけそうになって、あぶなかった〜〜!!


でも――


……ねぇ、今「そなた」って……言ってくれたよね


あのシロが。

前は「貴様」とか「愚かな人間」とか……あと、なぜかずっと「犬神千陽よ」ってフルネームで呼んできて、

なんかこう、距離感あるな〜って思ってたけど――


今は、たまに「そなた」って、

ちょっとやわらかくて、優しい呼び方をしてくれるときがあって。


名前じゃなくても……その言葉の響きから、

ちゃんと、“わたし”を認めてくれてる感じがするんだ。


……そっか。私、少しはシロに認められて……成長できたのかな


胸の奥が、じわ〜っとあったかくなって、

でも顔はにやけそうで、ちょっとだけ、窓の外に視線をそらした。


うぅ〜〜〜、なんか、うれしいっ……!!


なんかね、シロの声って……聞くだけで、安心しちゃうんだよね。

そのまま、胸の奥にぽっと浮かんだ想いを、そっと心の中でシロに届ける。


(……ねぇ、シロ。試練のときさ……わたし、ホントに助かったんだよ。

あのとき、シロがいてくれて――ほんとに、心強かった)


『――ふっ。礼など不要だ、犬神千陽。

我が名は白き守護の獣、《天の尾を継ぎし者》。

そなたの歩む道が試練の炎に包まれた時――我が牙は、闇を裂いたのだ』


(う、うわぁ……なんかすごいタイトルついてるぅ〜〜〜っ!?)


『だが……その時、真に我が側に立っていたのは、そなた自身でもある。

忘れるな、犬神千陽よ――強さとは、そなたの中にある力だ』


(あっ、最後ちょっとカッコイイ……!)


なんだか、気持ちがすうっと軽くなって――ふふっ、ちょっと元気出たかも。


***


日向町の駅に着くと、車内のざわめきがふわっと静まって、

外の空気がすーっと入り込んできた。


「は〜〜、帰ってきた〜〜っ!」

私は思わず、背伸びしながら深呼吸。


夜なのに、空気はまだほんのりあったかくて、

でも、お昼のジリジリとは違うやさしい風がふわっと通り抜ける。

まるで今日の楽しかった時間の余韻が、まだ心に残ってるみたいで――

ちょっと気持ちいい。


「じゃあ、また明日ね〜〜!」

「おやすみ〜〜!」


改札で、亜沙美と隆之、それに美咲ちゃんに「ばいばいっ!」って手を振って、それぞれの帰り道へと分かれていった。


そのあと、私と一緒に残ったのは――


ヒカリ。


「ねえ、シロって……日向公園の展望台で待ってるんだよね?」


「うん。たぶん、今もあそこにいると思う」


「じゃあさっ、行ってみようよっ!ヒカリの家からも近いし!」


ヒカリは少しだけ笑って、うなずいた。


「……うん。行こっか」


ヒカリと並んで歩くの、なんだか最近じゃすっかり“普通のこと”になってきたかも。

前はドキドキしてたのに、今は――うん、当たり前みたいに隣にいられるのが、

ちょっとだけ、うれしい。


二人でのんびり歩いて、日向公園の展望台まで来たとき――

足元に広がる町の灯がキラキラと輝いて、

それに応えるみたいに、空には満天の星がまたたいていた。


「わっ……すっごい!!星、いっぱい〜〜っ!!

まるで空がキラキラの宝石箱みたい〜〜っ♪」

と、私は思わず声に出した。


すると、隣で歩いていたヒカリが、

ふっと空を見上げながら、ぽつりと答えた。


「……ほんと、きれいだね。

星って、ずっとあそこにあるのに……

こうして立ち止まって、見上げたときにだけ――

その輝きに、やっと気づけるの。

……今日って、なんだか、そういう一日だった気がする」


……なんだろう、ヒカリの声が心にすとんって落ちてきて。

私は、小さく息を吐いて、そっとカバンの中をのぞいた。


カバンの中を ごそごそっとのぞくと、

クラフトで作った“もふもふチャーム・しろちゃんver.”が、ちゃんとそこにいてくれた。


(……よし。いまなら、ちゃんと渡せる気がする)


夜の展望台はしん……としてて、

風に揺れる木の葉の音と、私の足音だけが、静かに響いてた。

近くの外灯がぽうっと灯っていて、足元と手元をやさしく照らしてくれる。


「シーロ〜〜〜〜っ。いる〜〜〜っ!?」


夜なので ちょっと控えめに呼んだ、その数秒後――


ふわり。


月明かりの中から、白くてふわふわなシルエットが現れた。


「いた〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


私は一気にテンションマックス。駆け寄って、しゃがみこんで、

目の前のまっしろモフモフに、チャームをそっと差し出す。


「これね、今日、クラフト体験で作ったの!

ゲンキとおそろい!シロにも、絶対似合うと思って――」


シロは、静かに私を見つめて――

ひとつ、うなずいた。


(あ、これ“いいぞ”って意味だ)


「よーしっ、ちょっとだけじっとしててね〜〜……!」


首元に、やさしくリボンを通して。

肉球のパーツがちょこんと揺れて、

お花の刺繍が、月の光をふわっと受けてきらめいた。


「……できたっ!」


シロは首をかしげて、チャームが軽く揺れて――

それだけで、もう、ぜんぶ報われた気がした。


「ふふっ……やっぱり、似合うっ!シロは、かっこよくて、かわいくて、最高だよっ!」


『……ふむ。我が首に宿されたこの印――

これは“契約の証”と見ていいのだな?』


(いやいや、チャームだから!?ふつうの!!)


『……ふふ、冗談だ。……だが、これは大切にしよう。

いずれ訪れる戦いのとき――この絆が、我を守る力ともなるだろう』


(うわぁ、今さらっと未来にフラグ立てたよね!?!?)


でも――

その言葉が、ちょっとだけ心強く感じたのも、ほんとのことだった。


「ありがと、シロっ」


私は、チャームにそっと指を添えた。


「このチャーム、ずっと……つけててくれる?」


『当然だ。これは、そなたが“心で贈った”ものだからな』


(あ……ちょっと泣きそう……)


シロの毛並みに、そっと手を置く。

その温かさが、今日という日の締めくくりにぴったりだった。


――そのときだった。


背中のほうで、やさしい声がした。


「犬神さん」


振り向くと、ヒカリがそこに立っていた。

両手で何かを大事そうに包み込むように持っていて――

その手のひらには、白いリボンが、そっとのっていた。


「これ……受け取ってくれる?」


「えっ……それって……」


「クラフト体験のときに、実は犬神さんのために作ったの。

一緒に試練を戦ってくれて……ありがとう。

私、あのとき、本当にあなたが傍にいて心強かったんだ」


ヒカリの声は、いつもより少しだけ――やわらかくて、

でも奥のほうに何かこらえてる感じがした。


「犬神さんには、白が似合うと思ってた。

元気で、まっすぐで、あったかくて……そういう色」


胸の奥が、ぎゅってなった。


「……わ、わたしに……?ほんとに……?」


「うん。……よければ、髪、結ばせてくれる?」


「う、うんっ!もちろんっ!」


ちょっと照れくさくて、でもうれしくて、私は近くのベンチにそっと腰を下ろした。


すぐ後ろにヒカリが歩み寄ってくる気配。やさしく私の髪をすくい上げる指先は、

夜の空気よりもずっとあたたかくて、白いリボンがそっと結ばれていく感触に、

胸の奥がふわりと温かくなった。


(……なんだろ……なんか、ふしぎな気持ち……)


すこしだけひんやりしたリボンの感触と、

きゅっと結ばれる安心感。


「……できた」


ヒカリの声は、少しだけふるえていた気がした。


そっと振り向くと――

ヒカリは、やさしく微笑んでいた。


「うん。やっぱり、似合う」


「ありがと、ヒカリっ!

……わたし、このリボン、ずっと大事にするからねっ!」


精一杯の笑顔でそう言った私の胸の奥が、

ぽかぽかして、ふわっと優しい風が吹いたみたいに、あったかくなった。


白いリボンは、ちゃんと結ばれた。

――きっと、私とヒカリの絆も結ばれたような気がしたから。


言葉にしなくても、ちゃんと伝わる想いがある。

この夜空の下、そう信じられるだけで――なんだか、すこし強くなれた気がした。



第八話「白と黒の贈り物(後編)」へ続く――

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