『白と黒の贈り物』5
先輩たちとのフェルト体験――とっても楽しかった~っ。
作ってるときは夢中だったけど、
気づけば、胸の中がぽかぽかしてて。
……わたし、ずっとこの時間が続けばいいのになぁって思ってました。
クラフト体験コーナーを出ると、
空気がすこしだけ、しっとりしていました。
モールの照明も、ほんのりオレンジがかっていて、
人の流れも、ゆるやかに“帰る時間”の雰囲気に変わってて――
……そんなとき。
「ねぇねぇ〜〜、そろそろお腹すいてない?ご飯食べて帰らない?」
って、河田亜沙美先輩の声が聞こえた瞬間――
わたしの中の何かが、カチッってスイッチ入りました。
「食べますっ!!!」
……って、勢いよく言ってしまってました。
我ながら、ちょっとびっくり。でも、もう止まりません!
みんなが「えっ?」ってわたしを見てきたけど、
わたしは拳をぎゅっと握って、正直な気持ちを叫びます。
「だって……今日、いっぱい歩きましたし、いっぱい作りましたし……
エネルギー、もうすっからかんなんです〜〜!!」
……って言ったタイミングで、
お腹が「ぐぅ〜〜っ」て鳴りました。
あ、ナイス……タイミング。
「即答すぎじゃない!?」
「美咲ちゃん、反射で返事してない!?」
「えへへっ……本能です♪」
ほんとは、ちー先輩と もうちょっと一緒にいたくて……
って、そんなことは、ここでは言いません。
ちー先輩が「ふふっ」って笑ってくれただけで、
今日も最高な一日だったなって、思えるから。
「それじゃあ、フードコート行こっか」
って、越智隆之先輩が落ち着いた声で言ってくれて、
みんなで わいわい移動。
……この時間が、もっと続けばいいなぁって。
そんなことを思いながら、わたしはお腹を優しくさすってました。
フードコートに着くと、いろんなお店から漂ってくるにおいが、
お腹に直接、語りかけてきました。
(たべろ……たべろ……ぜんぶたべろ……)
……なんて言ってないけど、わたしには聞こえました。
「ちー先輩、わたしちょっと見てきますね〜っ!」
って、わたしはトレイを手に、軽やかに出撃!
──数分後。
わたしのトレイは、
ちょっと大きめの“おぼん”じゃ収まりきらなくなってました。
ラーメン。
焼きそば。
牛丼(大盛り)。
からあげ定食(ごはんは普通)。
ポテトL。
ピザ(1/4サイズ)。
たこ焼き。
プリンアラモード、アイス×2、黒糖タピオカラテ。
あと、ヘルシーの気持ちを込めて――わかめスープ。
「美咲ちゃん、それ……何人分?」
って、河田先輩がちょっと笑ってて、
「いやいやいやいやいや!!」
って、ちー先輩はお盆を見比べて絶叫してました。
「ちー先輩は……お豆腐ハンバーグと、雑穀米と、サラダ……?」
「比べないで!?こっちは“地球にやさしい”バランスごはんなの!!」
「わたしも、バランス重視です〜♪」
「……“量のバランス”おかしいからね!?」
みんなが口々に言ってくれて――
でも、わたしの食欲は、もう止まらない。
「いっただきま〜すっ♡」
わたしは順調に食べ進めていきました。
ラーメン、焼きそば、牛丼、完了。
からあげ定食、ほぼ消滅。
プリンアラモードのフルーツ部分、いい感じに口直し。
ポテト、ラスト5本!
「ねぇ……ちょっとだけ、一口もらおっかな……」
って、ちー先輩が、わたしのたこ焼きを指さしました。
「もちろんですっ♡はい、あ〜〜んって……あっ、やっぱお皿で!」
「いやいや、なんであ〜んの流れだったの今!?///」
ちー先輩は、ちょっと赤くなりながらたこ焼きを一つ取って、
おそるおそる口に運びました。
「……う、うまっ!?なにこれ、外サク中とろっ……ずるいっ!?」
「ふふっ、あげてよかったです〜♪」
そんな わたしたちのやりとりを見ていた河田先輩が、
スプーンを持った手を止めて、静かに言いました。
「……美咲ちゃん、あんた本気で“胃袋が別次元”すぎるからね……?」
「……胃の処理速度、どうなってるんだ。物理法則を無視してる」
って、越智先輩が冷静に分析しながら、ぼそっと追加。
その言葉に続いて――
今度は、ふっと笑ってから、ちょっとだけどや顔で言い放つ声。
「そういえばさ、美咲ちゃん――この前、学食でカレーおかわりしたんですよ~って、めっちゃ嬉しそうに報告してくれたの!
あ〜、この子ほんとに食べるの好きなんだな〜って思ってたけど……
今日ので、もう確信したわ…。」
「完全なる、食のチャンピオン。うちのチームのエネルギー担当」
「……もはや兵站部隊」
「ほ、褒められてますか……それ……?」
でも、嬉しい。
みんなと一緒に食べて笑えるこの時間、ほんとに嬉しい。
だから――
つい、言ってしまいました。
「……あ、そうだ。スイーツラウンドは別腹ですので、あとで第二弾行ってきますね〜♪」
「まだ食べるのぉぉぉぉ〜〜〜〜っ!?!?!?!?!?!?」
ちー先輩がスプーンを取り落としかけて、
河田先輩と越智先輩は同時に固まってた――そのとき。
「……ねぇ、ちょっと待って……」
って、河田先輩がぽつりとつぶやいた。
「なに?このインパクト?いや……そうじゃなくて――」
「“学校で噂の爆食女王”って……まさか……っ!」
越智先輩がピクッと反応して、わたしの料理をじーっと見つめる。
「……お昼に学食で、“日替わりプレミアム5品セット(チキン南蛮・しょうが焼き・だし巻き玉子・サラダ・冷奴)+肉うどん+ミニカレー+ライス特盛+ポテト”を完食した一年生がいたって噂、知ってるか……?
しかも、プリン3個と杏仁豆腐とメロンソーダで〆たらしい……
それだけでも驚きなのに、食べ終わった直後に購買へダッシュして――
“焼きそばパン、カレーパン、コロッケパン、たまごサンド、明太フランス、チョコドーナツ、からあげ棒、フライドチキン”を抱えて戻ってきた。
それを見てた先輩が、「お前それ全部食べんのか?」って聞いたら――
『え、これはおやつですけど?』って、ニコッて笑ったらしい……
昼休み終了5分前、すべてのトレイが空になってて、
購買の店員さんが『……彼女、また来るわね』ってつぶやいたって話だ……」
「うそでしょ……都市伝説かと思ってたのに、まさか現実だったなんて……!」
「もはや学食神話だよ!? なんで一言も残していかなかったのその日っ!!」
「その正体が……美咲ちゃんだったなんて〜〜〜っ!?!?」
「え、えっ!?そんなに食べてた……でしたっけ!?
あっ、でも……甘いのとしょっぱいのって交互にいけるから、案外スイスイいけちゃって……」
「いや、スイスイって言う量じゃないよね!?!?!?!?」
「ちょっとあんた、本人が一番びっくりしてるじゃんっ!!」
って、河田先輩のツッコミ炸裂!!
「いや、でも……たしかにこのラインナップ、もはや称号持ち……」
「……胃袋の女神。もしくは伝説の満腹戦士」
「……うちのパーティーに絶対必要な回復役(カロリー的に)」
「ちょっ……そんなに持ち上げられると、ちょっと恥ずかしいです〜〜〜っ!」
……でも内心では、にやけそうなくらい、うれしかった♡
わたしは、にこっ♪
それに――
今日がこんなに楽しかったなら、
もうちょっとだけ、続けたっていいよね?
「ふふっ。これくらいじゃ終われませんからっ♡」
わたしが残りのピザ(1/4サイズ)を食べて、ちー先輩がたこ焼きを半分こして――
河田先輩がつっこんで、越智先輩が静かに呟いて。
わいわい、にぎやかなテーブルの輪の中で――
ふと、天野ヒカリ先輩の方を見た。
ちゃんと笑ってるけど、
でもなんだろう……あの目。
少しだけ、遠くを見てるみたいで。
……胸の奥が、ちょっとだけひゅってなった。
「天野先輩……スープ、冷めちゃいますよ?」
声をかけると、天野先輩は小さくうなずいて、
ふっと微笑んだ。
でもその笑顔が――
どこか、少しだけ寂しく見えたのは、気のせい……かな?
(……気のせい、だといいな)
そう思いながら、
わたしは残ってた黒糖タピオカラテをストローでくるくる混ぜた。
みんなで笑って、食べて、はしゃいで。
今日の一日、ほんとうに――
「まるで、宝箱みたいな時間でしたっ♪」
わたしはそうつぶやいて、
こっそり、ちー先輩の笑顔をずっと見つめてしまいました。




