『白と黒の贈り物』4
わたし、犬神千陽は――ただいま、テンション継続ぽかぽか中っ!!
亜沙美たちと水着コーナーを出たその瞬間――
私の心の中が、ずっと ぽかぽかしてたんだ~。
試着のドキドキも、お財布との真剣勝負も、なんか全部が宝物になりそうな感じで。
ふふっ、きっとこの夏、忘れられない一日になるっ!
そして、私たちは隆之と再合流っ!
「おまたせ〜〜っ!」
「……ちょうど終わった?」
隆之は、スマホから顔を上げて、私たちを見た。
ちょっとだけ――目が合ったような気がして、
うわっ、今の一瞬で心のなか、勝手にスキップした気がした。
「う、うんっ! もう……最高に可愛いの、見つけちゃったもんね〜♪」
……って言いながら、なんか、自分でもちょっと声が上ずってた気がする。
隆之は、「そっか」ってだけ言って、また少し目をそらした。
でも、そのほんの一瞬――
絶対見たよね?目の端で、こっち……見てたよね……!?
私の方はっていうと……
なんか、胸の中でピコピコハンマーに叩かれたみたいな衝撃だった。
ていうか、うっかり目が合ったら――
今日買った水着を見せるとか、ムリすぎない!?
見せるとか、そういうレベルじゃない……っ
難易度……高すぎっ!!
「ふ、ふふっ……見せないけどね……」
声がちょっと裏返ったの、自分でもわかった。
だって、まだ恥ずかしいし……!
これは――とっておきのサプライズなんだからっ!
……もう、ほんと、いろいろ照れくさいっ!
私がそう思っていたそのとき――
そのタイミングで、ヒカリがすっと前に出て、
すごく自然な声で言った。
「……ねえ。さっき、少しだけ見つけたんだけど――
この階で、クラフト体験のイベントやってるみたい。……ちょっとだけ、やってみたいなって。」
えっ!?クラフト体験!?
やばっ、それ、めっちゃ楽しそうじゃん!!
「やるやる〜〜っ!!」って、いの一番に反応したのは亜沙美だった。
「そういうの、めっちゃ好き!思い出作りにもなるし、最高じゃんっ!」
にこにこ笑いながら、もう半分走りかけてる勢い。さすがすぎる〜〜っ!!
私もすぐに「うんうんっ!」ってうなずいて――
「私も行く〜!だって、ね?
ちょっとね、サプライズで作りたいものがあるんだ〜♪ゲンキと一緒に、シロのために!」
「え〜〜っ!気になるんだけどそれっ!」
って亜沙美が笑ってるけど、こっちもサプライズだから秘密っ!
「じゃあ、あたしも作っちゃおっかな〜……ふふ、好きな人のために♡」
「えぇっ!?そ、それも気になる!!」
でも絶対に教えてくれないやつ〜〜っ!!
「わたしは……猫耳っぽい飾りがついたヘアゴムを作ろうかな〜って思ってます♪」
って、美咲ちゃんも相変わらず可愛いこと言うし〜っ!
そんなやりとりを聞いてた隆之が、ちょっと苦笑いしながらぽつり。
「……楽しそうでなにより。俺は見守り係でいいかな」
って言いながらも、手元にあるリーフレットをちょいちょい気にしてるの、わたしは見逃してないっ!
もしかして、隆之もちょっとだけ気になってる……?ふふっ♪
***
私たちは、わいわい話しながらクラフト体験のコーナーへ足を踏み入れた。
明るいテーブルが並んでて、カラフルなリボンやパーツがずら〜っと並んでる。
うわ〜、まさに工作天国っ!!
お姉さんっぽい店員さんが、クラフト体験の説明をしてくれた。
「お好きな材料を自由に使って、リボンやキーホルダーなどを作れますよ〜♪」
道具も揃ってるし、手ぶらでOKって言われて、テンションさらにアップ!
クラフトコーナーのテーブルに着いて、
それぞれが材料を選び始めたころ…
ふと、視線の先で、ヒカリが手を止めた。
「わ、珍しい……ヒカリがこういうの手に取るのって。」
ヒカリが選んだのは――髪に結ぶ用の、白と黒の細いリボン。
その2色を手のひらに乗せて、じっと見つめてる。
ていうか、えっ? 黒のリボン……?
「ヒカリ、黒のリボンするんだー? なんか、ちょっと意外!」
思ったまんま、私は声に出しちゃった。
ヒカリは一瞬だけ手を止めて、でもすぐにこちらを向いて、
そのまま目をそらさず、静かに言った。
「……これはね、大切な友達のために。だから、黒も必要なの。
髪に結んであげるリボンにしようと思ってるから。」
その言葉の響きが、優しくて、まっすぐで――
胸の奥がほんのり、ふわって、あたたかくなった。
……その“ともだち”って誰なんだろう。
でも、聞かなくていいって思った。
ヒカリの中では、ちゃんとその人に向かって気持ちが届いてるんだってわかるから。
「……んっ……待って、これ……」
そのあと、ヒカリがリボンパーツを手に取り、
テーブルの上でゆっくり形を整え始めたんだけど――
……う、うん。がんばってるのは、すっごく伝わってるよっ。
「ヒカリ、そのリボン、今ちょっと裏返しになってるかも〜っ!」
「こっちは、ねじれてるよ〜〜!」
って亜沙美と美咲ちゃんも手を止めて助け船を出してくれて、
ヒカリはちょっとだけ困った顔で、
「……こういう手作業、あまり得意じゃないの。」
って ぽつり。
そっか……
ヒカリって、なんでもできそうに見えるけど、こういうのは ちょっと苦手なんだ。
でも、それでも――
「……わたし、不器用だけど……ちゃんと、作りたいから。」
リボンの端をそっと押さえて、真剣な顔で形を整えるヒカリの手。
その動きは たどたどしくても、まっすぐで――とても、綺麗だった。
ふふっ、ヒカリ……がんばれっ♪
ヒカリが、白と黒のリボンと格闘してる横で、
私も そ〜っと、こっそり自分の作業を始めた。
じゃんっ!
今日は、サプライズ用・シロのためのスペシャルチャームを作っちゃうのだ〜っ!
材料選びもめっちゃ悩んだんだけど、
白いフェルトと、ちっちゃい肉球パーツ、あとお花の刺しゅうテープ……
これを組み合わせて、もふもふ感も出しつつ、ほんのりやさしさ全開にする予定っ!
「ふふふ……これはね、ゲンキとお揃いで、シロにあげるからね〜〜っ♪」
……って、ちっちゃくつぶやきながら作ってたら――
「ね〜〜チハル、それって……もしかして好きな人にあげるやつ〜〜っ?♡」
……って、突然横から亜沙美が、にやにや顔で のぞき込んできた!!
「な、なんでそうなるのーっ!? ちがうもんっ、これはゲンキとシロのっ!」
「え〜〜〜?でも、そのこだわり方、完全にラブ入ってる〜〜♪」
「ラブ入ってないよっ!?ゲンキとシロへの友情と感謝と、あと……もふもふ分がたっぷり入ってるの!!」
「もふもふ分ってなに〜〜!?笑」
きゃ〜〜、もうっ!!
亜沙美のノリにのせられたら、ツッコミが間に合わないよ〜〜!
……って、わちゃわちゃしてたら。
ちょこん、と隣から美咲ちゃんの声が。
「ちー先輩も……誰かに、あげるんですか?」
「えっ……?」
ふいに聞かれたその一言に、私の手が、ぴたって止まった。
「だ、誰かって……え?いや、これはその……ゲンキと、シロと、えーと、その……」
「ふふっ、なんとなく聞いてみただけです〜♪」
にこっ。
……って、美咲ちゃんが笑った。
でも、その笑顔、なんとな〜〜〜く、ちょっとだけ……
目が笑ってないような、気のせいのような、そうでもないような……?
う〜〜ん?
なんか、すっごく探られた気がするんだけど!?
ていうか、私って、そんなに“好きな人にあげますオーラ”出てた!?
いやいや、そんなことないもん!
これはゲンキとシロのための、友情チャームですっっ!
全員の手元が静かになってきたころ。
クラフト体験も、いよいよフィニッシュっ!
「よ〜〜し!完成〜〜っ!!」
って、最初に手を挙げたのは、やっぱり亜沙美だった。
「見て見て〜っ、これは“ラブわんこキーホルダー”♡」
……ラブ……わんこ……きーほるだー……?
名前だけで詰め込みすぎなのに、めちゃくちゃ可愛い!!
「首輪のタグ部分がハートになってて、そこにちょこっとだけ“秘密のイニシャル”入れてあるの♡」
「見た人にはバレないけど……あたしだけ、わかるっていう……ふふっ、そういうのロマンじゃない?」
「おぉぉ〜〜っ!めっちゃ工夫されてる〜っ!」
「でもまあ、これを誰かにあげるとかは……ちょっと、ね? まだ勇気出ないかも〜〜っ!」
そして、美咲ちゃんが手のひらにちょこんと見せてくれたのは――
猫耳パーツと、ちいさな鈴がついたヘアゴム。
リボンの結び目が、ちょっとだけハート型になってて……
さりげないのに、あざと可愛さが詰まってるっ!
「これ、歩くたびにチリン♪って鳴るんです~」
美咲ちゃんは、ちょこんとヘアゴムを揺らしてにっこり。
「……ちょっと目立っちゃうけど、かわいいから気に入ってて♡」
も、もう~っ!! それ反則級にかわいいでしょ~~~っ!?
なにその、音まで可愛い装備っ!!
「これ……“誰かの好きな人”のために、作ってみたんです♪」
「え~~~っ!? なになに!?誰の好きな人っ!?!?!?」
思わず身を乗り出して聞いちゃったら、
口元を少しだけゆるめて、上目づかいでじーっと見てくる。
その目が「ちー先輩、わかってくれましたか?」って、語ってる気がして――
ドキッとした……。
……う、うそでしょ。
今の笑顔、なんかもう反則級だったんだけど!?!?
こっち見てる目が、完全に“猫系あざと全開モード”でっ……!!!
「ふふっ、ヒミツです。でも……その人が笑ってくれたら、それでいいなって♪」
……っ!?!?
いやいや、気のせい!? でも――
あの笑顔、目線、声のトーン……
全部が、なんかこう……私の心をくすぐるような感じで!!
ど、どゆこと!?!?
“誰かの好きな人”って、それって――
えっ、もしかして、わたし……!?!?!???
「ち、ちょうどいいしっ! わ、わたしも言っとくけどっ!」
なぜか急に謎の対抗心スイッチが入って、
私は自分の“もふもふチャーム”を胸元でふりふり。
「これねっ! ゲンキとおそろいで、シロにプレゼントするために作ったんだよ〜〜っ!」
「えっ、あっ……わ、わたしもゲンキくんにあげたいです~~~♡」
「わわっ、ずるいっ! じゃ、じゃあ今のナシで!!今のナシでぇぇっ!!」
って、私があわあわしてる横で、
美咲ちゃんはまた、にこにこ笑って――
ほんの少しだけ、何かを隠してるような目をしてた。
(……あれ……もしかして……)
え? ちょっと待って……
も、もしかして――私たち、お互いに“匂わせ合戦”してる!?!??
やばいやばいっ、私、完全に流れ乗せられてるぅぅぅ~~~っ!?!?
……で、でも。
だったら――私だって、負けてられないもんっ!!
「……えっと、わたしのも、見てもらっていい?」
ちょっとだけ照れながら、両手でそ〜っと差し出したのは――
「もふもふチャーム・しろちゃんver.」!!
白いフェルトにちょこっと丸みをつけて、耳と肉球パーツをちょんっ♪
リボンは淡い黄色で、あったかい雰囲気に仕上げてみた!
「これはね、シロにあげる用の……
ゲンキと“おそろい”のチャームなんだ〜!」
「わぁ〜〜っ!ふわふわしてて、かわい〜〜♡」
「刺しゅうのお花、めっちゃきれいじゃん〜!」
「優しい色づかい……犬神さんっぽいね」
みんながそう言ってくれて、
私の胸の奥も、じんわり、ぽかぽかに。
「うん……シロにも、ゲンキにも、笑ってもらえたら嬉しいなって。
“思い出”って、形に残すと……もっと大切になる気がして、えへへっ♪」
ちょっぴり照れながら、でも気持ちはちゃんと込めて――
言えた、かも。
「次、ヒカリかな〜?」
って亜沙美が言ったそのとき――
ヒカリがそっとテーブルに置いたのは、
左右対の――黒いリボン。
結び目は少しだけ歪んでるけど、
それでも、すごく丁寧に、真剣に作られたってわかる。
「これが……黒のほう」
そう言って、ヒカリは少しだけ手元を見下ろす。
……あれ? ちょっと待って。
「えっ、それって……ツインテール用……?」
「うん。……両方で、ひとつ。
ちゃんと“並んで”つけられるように、ふたつ作ったの」
あっ、そっか……そういうことか。
左右対の黒いリボン。
どちらか片方だけじゃ、きっと意味がないんだ。
「……すごく、ヒカリらしいね」
ヒカリはふっと笑って、目を伏せた。
その笑顔が、やわらかくて、
でも――どこか、遠くを見てるみたいで。
(……友達って、ツインテールの女の子、なんだ)
私の胸の中に、ぽとん……って、
小さなしずくが落ちた気がした。
べつに……気にしてないけどっ!?
いや、気にしてないよ!? ほんとに!!
……でも、ちょっとだけ。
ちょっとだけ、なんか――きゅうって、した。
黒のリボンを見せてくれたあと、
ヒカリは、もうひとつ――やわらかな白いリボンもそっと取り出した。
シンプルなデザイン。
でもリボンのふちに、銀色の糸で細かく縫い目が入ってて、やさしくきらめいてる。
「それは……白のリボン? もしかして、自分用?」
そう聞いたら――
ヒカリは、一瞬だけきょとんとして、
それから、ちいさく――でも、はっきりとうなずいた。
「……うん」
その返事が、どこかほんのり温かくて、
私まで「ふふっ」てなっちゃった。
(ヒカリにも、“お気に入り”があるんだなぁ……)
そう思ったら、ちょっと胸があったかくなって、
私もそのリボンをそっと見つめた。
小さな白い結び目に、ヒカリのやさしい想いがぎゅっと詰まってる気がして。
白いリボンの余韻が、まだ胸の奥にぽわんと残ってたんだけど、
そんな中、ふと顔を上げると――亜沙美の声が明るく響いた。
「じゃあ、次は……隆之くん!最後お願いしま〜す!」
って亜沙美がマイク(※もちろんイメージ)を渡したら――
隆之が、どこからともなく真顔で静かに立ち上がる。
「……俺の、これ。」
って出してきたのは――
……えっ!? なにそれ!?
リアル柴犬!?動いてる!?本物!?いや、フェルト!?
「うわああ!?それってもしかして……ゲンキ!?!?」
「関節に針金入ってるから、ポーズ変えられる」
「本気すぎ〜〜っ!!!クラフト体験の域、完全に飛び越えてる〜〜っ!!」
「……作ってるうちに、なんか……楽しくなってきて」
「絶対、初めから本気出してたでしょそれぇ〜〜〜〜!!」
みんなで爆笑して、拍手して、
クラフト体験、最高の思い出に残るフィナーレだった。




