表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/76

『夏空に煌めく祈り』12

放課後――。


七月の終わりとは思えないほど、教室の中は夏の空気でむんむん。

でも私はなんだか心がふわっとしてて、あの時の事を思い出して、ちょっとニヤけそうになる。


雑貨屋さん、海のカフェ、光希のお見舞い。

ヒカリと一緒に過ごしたあの一日――

いろんなことがありすぎて、もうちょっと夢みたいだった。


そんな中。


「えー、みなさんに連絡がありますー」


担任の先生が、ホームルームでおもむろに口を開いた。

(あ、来た。絶対なんか来るぞこのテンション……!)


「来月、八月の第一週から――臨海学習を行います!」


「うおおお~~!?」「マジで!?」「海だ! 合宿だ! 夏フェスだ~~!!!」


教室が一気に沸いた。いや、もう夏祭りの縁日状態!


「今回の合宿先は、日向町の海岸の先に浮かぶ小さな島――『渡島わたりじま』です。宿泊は現地の旅館で、二泊三日の予定です」


おおお~~っ!!

な、なんか本格的っ!!


そこへ――


「――それと もうひとつ、追加でお知らせがありますわ」


ふいに、教室のドアがスライドして――

現れたのは生徒会長でもあり、日向高校が誇る“貴族の星”、高橋玲奈先輩!!


サラサラの金髪に、ぴしっとした立ち姿。

でもって、手には扇子を持ってて、なんかもう完全にイベント始まった感……!


放課後の教室。

西日に染まる窓際で、玲奈先輩が静かに扇子を閉じた。


「それでは――改めて、発表いたしますわね」


静かだった空気が、一気にぴんと張りつめた。

私も思わず背筋を伸ばす。


「今年の臨海学習は、八月上旬からの三日間、海辺の自然体験施設で行われます。そして――」


玲奈先輩が、ふわりと優雅に笑った。


「そのあと、希望者のみ――わたくしの別荘にて、二泊三日の“追加夏合宿”を開催いたしますわ。

この合宿はテニス部の夏季強化合宿を兼ねておりますけれど、

他の部活動の皆さまも、交流と親睦の場としてご自由にご参加いただけますのよ」


「えっ!?」


「べ、別荘!? それって……どこにあるんですか!?」


ざわめく教室。


玲奈先輩は、そっと扇子を手元に添えると、優雅に微笑んだ。


「別荘は、海が一望できる静かな島の高台にありますの。

昼間は青く澄んだ水平線、夜には満天の星――まるで時が止まったかのような、そんな場所ですわ」


(……今、なんて?)


チハルの胸の奥が、なぜかふっと反応した。


「そうそう。そしてちょうどその期間中、日向町のお祭りもあるのです。別荘からは、花火もよく見えるんですのよ?」


「花火!? お祭り!? やったぁ~~~っ!!」


教室が一気に盛り上がった。


「えっでも、お祭りってことは……浴衣とか?」


「ご安心あそばせ♪」


玲奈先輩が上品に微笑む。


「別荘には、浴衣を人数分そろえてありますわ。柄もサイズもバッチリですし、ご希望があれば着付けも手伝います」


「……えっ、えっ、もしかして無償!?」


「もちろんですわ。夏を楽しむ準備は、すでに整えてありますから」


その瞬間、女子たちの目がきらっきらに輝いた。


「玲奈先輩、最高~~~!!」


「マジで一生ついていきます!!」


玲奈先輩は微笑みながら、すっと手を掲げて皆に告げた。


「もちろん、海水浴やレクリエーション、自由参加の体験イベントなどもご用意しておりますわ。

ご自身のペースで楽しめるよう、無理のないスケジュールにいたしましたの」


(自由参加なんて……なんだか、ゆるっと楽しく過ごせそうで、ちょっと幸せかも……♪

それに――もしも浴衣を着て、みんなで並んで花火見られたら……きっと、ずっと忘れられない夏になる気がする……♪)


「ただし――肝試し大会は“任意参加”とさせていただきますわね」


(えっ……な、なんか……その響きだけで じんわり怖いんだけど……?)


でも……

なんだか、ワクワクしてる。

胸の奥がふわっと高鳴ってて、昨日までの“日常”から、またひとつ、“物語”が動き出す気がする。


「それでは、参加希望者は来週までに申請をお願いいたします。準備はすでに整っておりますわ」


玲奈先輩が、扇子をぱたんと閉じて――

目をすっと細めて、優雅に笑った。


「さあ、皆さま。本当の夏がやってきますわよ」


私は思わず、うなずいた。


(夏……本番、ってやつだね)


私も思わず口元をゆるめて――


(花火……浴衣……夏合宿……)

(ふふっ、なんか、楽しみになってきたかもっ)


渡島での臨海学習。

そしてその先に待っている――夏合宿。


私たちの夏本番が、動き出す――!


(――みんなで、笑って過ごせる夏になりますように)


そして、季節は8月(第八話)へと続く――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ