『夏空に煌めく祈り』12
放課後――。
七月の終わりとは思えないほど、教室の中は夏の空気でむんむん。
でも私はなんだか心がふわっとしてて、あの時の事を思い出して、ちょっとニヤけそうになる。
雑貨屋さん、海のカフェ、光希のお見舞い。
ヒカリと一緒に過ごしたあの一日――
いろんなことがありすぎて、もうちょっと夢みたいだった。
そんな中。
「えー、みなさんに連絡がありますー」
担任の先生が、ホームルームでおもむろに口を開いた。
(あ、来た。絶対なんか来るぞこのテンション……!)
「来月、八月の第一週から――臨海学習を行います!」
「うおおお~~!?」「マジで!?」「海だ! 合宿だ! 夏フェスだ~~!!!」
教室が一気に沸いた。いや、もう夏祭りの縁日状態!
「今回の合宿先は、日向町の海岸の先に浮かぶ小さな島――『渡島』です。宿泊は現地の旅館で、二泊三日の予定です」
おおお~~っ!!
な、なんか本格的っ!!
そこへ――
「――それと もうひとつ、追加でお知らせがありますわ」
ふいに、教室のドアがスライドして――
現れたのは生徒会長でもあり、日向高校が誇る“貴族の星”、高橋玲奈先輩!!
サラサラの金髪に、ぴしっとした立ち姿。
でもって、手には扇子を持ってて、なんかもう完全にイベント始まった感……!
放課後の教室。
西日に染まる窓際で、玲奈先輩が静かに扇子を閉じた。
「それでは――改めて、発表いたしますわね」
静かだった空気が、一気にぴんと張りつめた。
私も思わず背筋を伸ばす。
「今年の臨海学習は、八月上旬からの三日間、海辺の自然体験施設で行われます。そして――」
玲奈先輩が、ふわりと優雅に笑った。
「そのあと、希望者のみ――わたくしの別荘にて、二泊三日の“追加夏合宿”を開催いたしますわ。
この合宿はテニス部の夏季強化合宿を兼ねておりますけれど、
他の部活動の皆さまも、交流と親睦の場としてご自由にご参加いただけますのよ」
「えっ!?」
「べ、別荘!? それって……どこにあるんですか!?」
ざわめく教室。
玲奈先輩は、そっと扇子を手元に添えると、優雅に微笑んだ。
「別荘は、海が一望できる静かな島の高台にありますの。
昼間は青く澄んだ水平線、夜には満天の星――まるで時が止まったかのような、そんな場所ですわ」
(……今、なんて?)
チハルの胸の奥が、なぜかふっと反応した。
「そうそう。そしてちょうどその期間中、日向町のお祭りもあるのです。別荘からは、花火もよく見えるんですのよ?」
「花火!? お祭り!? やったぁ~~~っ!!」
教室が一気に盛り上がった。
「えっでも、お祭りってことは……浴衣とか?」
「ご安心あそばせ♪」
玲奈先輩が上品に微笑む。
「別荘には、浴衣を人数分そろえてありますわ。柄もサイズもバッチリですし、ご希望があれば着付けも手伝います」
「……えっ、えっ、もしかして無償!?」
「もちろんですわ。夏を楽しむ準備は、すでに整えてありますから」
その瞬間、女子たちの目がきらっきらに輝いた。
「玲奈先輩、最高~~~!!」
「マジで一生ついていきます!!」
玲奈先輩は微笑みながら、すっと手を掲げて皆に告げた。
「もちろん、海水浴やレクリエーション、自由参加の体験イベントなどもご用意しておりますわ。
ご自身のペースで楽しめるよう、無理のないスケジュールにいたしましたの」
(自由参加なんて……なんだか、ゆるっと楽しく過ごせそうで、ちょっと幸せかも……♪
それに――もしも浴衣を着て、みんなで並んで花火見られたら……きっと、ずっと忘れられない夏になる気がする……♪)
「ただし――肝試し大会は“任意参加”とさせていただきますわね」
(えっ……な、なんか……その響きだけで じんわり怖いんだけど……?)
でも……
なんだか、ワクワクしてる。
胸の奥がふわっと高鳴ってて、昨日までの“日常”から、またひとつ、“物語”が動き出す気がする。
「それでは、参加希望者は来週までに申請をお願いいたします。準備はすでに整っておりますわ」
玲奈先輩が、扇子をぱたんと閉じて――
目をすっと細めて、優雅に笑った。
「さあ、皆さま。本当の夏がやってきますわよ」
私は思わず、うなずいた。
(夏……本番、ってやつだね)
私も思わず口元をゆるめて――
(花火……浴衣……夏合宿……)
(ふふっ、なんか、楽しみになってきたかもっ)
渡島での臨海学習。
そしてその先に待っている――夏合宿。
私たちの夏本番が、動き出す――!
(――みんなで、笑って過ごせる夏になりますように)
そして、季節は8月(第八話)へと続く――。




