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『夏空に煌めく祈り』9

海が見えるテラス席――

それだけで、なんか、ちょっと特別な時間が始まる気がした。


「うわあ……ほんとに、海が見える……!」


カフェの奥に案内されて、ヒカリと並んで腰を下ろした瞬間、

目の前に広がる青い海と、きらきら光る波――

潮風がちょっとだけ甘くて、ミントみたいな匂いが混じってた。


「いい場所、選んでくれてありがとうっ」


私がそう言うと、ヒカリは「ふふっ」と小さく笑ってくれた。


(ああ、その笑顔、好きだなぁ……)


なんて、心の中で こっそり思ってたら――

メニューがすっごく可愛くて、思わず前のめりに。


「えっ!? このトマトとモッツァレラのパニーニ、めっちゃ美味しそう〜!」

「一昨日サトシと採ったトマト思い出すなぁ。あれ、ほんと甘かったんだよっ!」


「ふふ、チハルって……トマト好きなんだ?」


「うんっ!ビタミン豊富で、美肌効果バッチリで~!」


そう言いながら、すでに私はオーダーを決めていた。

もちろん、トマトのやつ一択。あと、期間限定のレモネードも!


ヒカリは、何にするのかなぁって、こっそり横目で見たら――

メニューを見つめる横顔が、すごく静かで、なんか……凛としてた。


(私服でこんなに落ち着いた雰囲気って、すごいなぁ……

ううん、ヒカリって、やっぱりどこか特別な空気をまとってる気がする)


って、考えてたら、ヒカリがふいに顔を上げた。


「私は……このサンドイッチにしようかな。あとアイスコーヒー」


「了解でーす♪ じゃあ私、頼んでくるねっ」


レジで注文して、席に戻って――

ちょっとドキドキしてる自分に気づいた。


(なんだろ……ただのランチなのに、心臓、ちょっとだけ速い……?)


――しばらくして、お料理が運ばれてきた。


ヒカリの前に置かれたプレートには、トマトの赤とバジルの緑が映えるサンドイッチ。

横にはキラキラ光るアイスティーのグラス――

どちらも、まるで雑誌の中の一枚みたいに、きれいだった。


「わぁ~! ヒカリのやつ、めっちゃ映えてる~~~!」


思わず声が出ちゃって、私はスマホを取り出す。


「その……写真、撮ってもいい?」


「えっ、私のを?」

ヒカリが少し驚いたように笑った。


「うんっ!そのプレートと、ヒカリの笑顔がもう……最高のコンビネーションって感じで!」


「……ふふ。じゃあ、どうぞ?」


ちょっとだけ照れたように笑ってくれて――

その瞬間を、私は迷わずカシャッと撮った。


スマホの画面に映った、海とサンドイッチと、ヒカリの笑顔。


画面をそっとスリープにして、スマホをバッグにしまう。

それだけのことなのに、なんだか胸の中がポカポカする。


潮風がふわっと吹いて、ヒカリの髪がすこしだけなびいた。

その横顔が、まるで映画のワンシーンみたいで……

思わず、ドキッとしちゃった。


(ヒカリって、やっぱり絵になるなぁ……。いや、待って、私、どこ見て――!?)


慌てて目線を逸らして、お冷を一口。うん、冷たい!美味しい!(気のせいか緊張してたかも!?)


それから、ちょっとだけ間をおいて――

私は、ふわっと気持ちがあふれてきたのをそのまま口にした。


「今日はね、ほんとに来てよかったな〜って。

なんか、すごく……うれしいっていうか!」


「ふふ、私も。こういう時間、悪くないわね」


ヒカリが そっと笑ってくれた。

それだけで、また心の中に“いい感じのスクショ”が保存されていくような気がした。


(……もう、フォルダいっぱいになっちゃいそう……!)


潮風がちょっと甘くて、夏の香りがふわっと鼻をくすぐる。


「ね、ヒカリ」


「ん?」


「なんかさ、こうやって一緒に歩いたり、雑貨屋さん見たりしてると……色々思い出しちゃうんだよね〜」


ヒカリが、そっとグラスを置いて、私の方を見た。


「……たとえば?」


「中学のころね。光希って子と、よく一緒にこの町で遊んでたの。

あの子、今もずっと入院しててさ……」


私はちょっと空を見上げる。


「たまに会いに来てるんだけど、なんか今日は――

ヒカリとここまで一緒に来たからかな、いつもよりちょっと……会いたくなっちゃって」


ヒカリの指が、グラスのふちで止まる。


「……大切な子なんだね」


「うん。小さい頃からの幼馴染で、中学のときも、ずっと一緒だったから」


そのときだった。


ヒカリが、ふっと海の方を見つめて、それから――

小さく、でもしっかりとこっちを向いて言った。


「……チハルが大事にしてる子なら、私も会ってみたいな」

「よかったら、一緒に行ってもいい?」


「えっ……ほんとに? う、うんっ! もちろんだよっ!」


言った瞬間、自分の声がちょっと大きくなった気がして、思わず照れ笑い。

ヒカリは、くすっと笑ってくれた。


その笑顔は、ほんの少しだけ切なさを含んでいたけど――

ちゃんと優しくて、胸の奥がほわってあったかくなった。


(……なんか、今日この町に来てほんとによかった)


ランチを食べ終えたあとの、静かな午後。

カフェのテラス席。目の前には、きらきら光る海。

その風景と、優しい風が――そっと、私の背中を押してくれた気がした。

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