『夏空に煌めく祈り』5
夜が明けて、季節は もうすっかり“夏モード突入”。
昨日の七夕まつりの余韻を ほんのり引きずりながら、
私は、今日も いつもどおりの制服に袖を通す。
教室の窓からは、もわ〜っとした空気と、セミの大合唱が押し寄せてくる。
「この季節、教室の窓って、開けるべきか閉めるべきか永遠に悩むよね……」
エアコンはあるけど、朝イチはまだ動いてないし。
開けたらセミの声がどっと入ってくるし、閉めたらムシムシ……
もうどっちもいや〜っ!……ほんと、夏って難易度高いな〜!
そんなことを思いながら、私は席に着いた。
ホームルームが終わったあと、教室内はちょっとしたお祭り騒ぎ!
だって今日は……期末試験の答案返却日!
「ひぇ〜〜〜っ、やっぱり返ってきた〜〜〜っ!」
私の前の席で、亜沙美が答案を見つめて震えていた。
「だ、大丈夫!?亜沙美っ……」
「こ、これは夢……そう、きっと夢なんだよチハルぅ……!」
机に突っ伏す亜沙美の頭を、私はそっとなでなで。
「ううっ、今回は英語が特にやばくて……“いず”と“あー”間違えてたの、何回あったと思う!?もう自分が信じられないっ……!」
「そ、そっか……うん、それは……うん、どんまいっ!」
全力で励ましながら、私は自分の答案を見直す。
うん、なかなかの好成績!ちょっと数学で計算ミスしたのが悔しいけど、
まあ平均は超えてるし、文武両道の名はギリ保てたっ!
「チハル、どうだった?」
声が聞こえたのは、少し離れた後ろの席からだった。
振り返ると、プリントを整えながら顔を上げたのは、隆之。
いつもの落ち着いた雰囲気で、ほんのり控えめに微笑んでる。
「えっ? 私? ……うーんと、まあまあ! 平均ちょい上ってとこかな〜」
私は答案を軽く伏せたまま、ちょっとだけ照れ笑い。
「ていうか、隆之はどうだったの? またすごい点数とったんじゃない?」
私がそう聞くと、彼はちょっとだけ眉を動かして答えた。
「物理と数学、98点だったよ。惜しかったな。記述の一文、字数オーバーで減点されてた」
「えっ……!? き、98点!? そ、それって、もう天才の域じゃん……!」
「いや、たまたまだよ」って言うけど、絶対“たまたま”じゃない。
すごすぎて、もう次元が違うよ~っ!
「ま、まぁ! 隆之は天才枠だからっ! 私はほら、健康と元気が取り柄だしっ!」
「それは……うん、間違ってない」
うなずかれたけど、ちょっと複雑ぅっ!
たしかに間違ってはないんだけど……なんていうか、もうちょっとこう、ねぇ?
「ふふっ……“健康と元気”って、すごく素敵なことですよ〜♪」
ぽわっと優しい声に振り返ると、窓際の席で、金髪のふわふわ髪を揺らしながら――
月城 愛衣が、にこにこ微笑んでいた。
「……わたしも、元気って一番だと思ってます。ねっ♪」
「えへへ……ありがと、あいちゃんっ!」
思わず、声に出してお礼を言ってた。
「そう言ってもらえると……なんか、がんばれそうな気がする!」
愛衣ちゃんのふんわりした笑顔に、
胸の奥がふわっとあたたかくなるような気持ちが広がっていった。
そんなとき、教室の後ろで誰かが叫んだ。
「保健体育だけめっちゃ点数よかった〜〜!!」
「うんうん、それも立派な才能だよねっ!」
――って、どこからか別のクラスメイトの声が飛んでくる。
答案返却の日って、こういうカオスな空気になるのが恒例。
点数がよくても悪くても、こうやって笑っていられるのが、なんだか嬉しい。
たわいもない会話で笑い合ってたら、ふと視線を感じて、窓際に目をやると……ヒカリと、ばっちり目が合った。
(あっ……)
思わず照れくさくて視線を逸らしちゃいそうになるけど――私は、にこっと笑って、ヒカリに小さく手を振った。
するとヒカリも、ほんの少しだけ、頷いて笑ってくれた。
(そうだ、数日前に約束したんだった! 今度、常盤町まで雑貨屋さんに行こうって――)
そのことを思い出しただけで、なんだかちょっとウキウキしてくる。
あのお店、気になってたし……ヒカリとなら、きっと楽しい時間になるよね。
午前中は、教室で試験の結果が返却されて、クラス中が一喜一憂していたけど、私はそこそこいい感じの点数で、ほっとひと安心。
そんな安堵の空気に包まれつつも――
心のどこかで、ずっとそわそわしてたのは、たぶん“午後の予定”のせい。




