『この世界で、もう一度』2
授業が終わると、私はすぐに家に帰ることに決めた。
春の風が心地よくて、温かい日差しが頬を撫でていく。
なんだか、歩くたびに軽くなる足取り。
最近、なんだか疲れてたけど、ゲンキが待ってると思うだけで、急に元気が湧いてきちゃうんだよね!
玄関のドアを開けると、あっ、やっぱり待ってた!
ゲンキ、しっぽをフリフリしながら、私の方にダッシュ!
柴犬のオスで、目がキリッとしてて、毛がフワッフワ!
この子が帰ってくるのを毎日楽しみにしてるんだよ、きっと。
「ゲンキ!ただいま!」
私は笑顔でゲンキに駆け寄って、膝をついてぎゅっと抱きしめる。
ゲンキはすっごく嬉しそうにしっぽを振って、顔を腕にすり寄せてきた。
その温かさ、やっぱり最高に安心するんだよね。
ああ、ゲンキ、私の心の元気の源!
そのとき、ふと口から出そうになった言葉があった。
「ワン……」
あれ?あれあれ?
ちょっと待って、今私、何言おうとしたんだろう。
ワンって、私、犬じゃないよね?
でも、なんでか無意識に出ちゃったのかな。
そうだよ、私は犬じゃなくて人間だってば!
……あれ、なんか変な感じ。でも、まあいいや。
「もう、私は犬じゃないんだから……。」
ふぅーっ……。
思いっきり深呼吸して、胸の奥まで空気を吸い込む。
ちょっとだけ、落ち着いてきたかも。
そんな私の気も知らずに、ゲンキはしっぽをブンブン!
わたしの腕に、すりすり顔をうずめてくる。も〜、くすぐったいってば〜!
……でも、その温もりがね、なんかこう、心にじんわり染みるんだよね。
あったかくて、柔らかくて――ちょっとだけ、安心しちゃった。
でも、心の中では、もや〜っとした違和感もくすぶってた。
たぶん、前世で犬だったときの記憶が、まだどこかに残ってるせいかも。
だって、気を抜くと、つい「ワンっ」て言いそうになっちゃうんだもん!
おかしくない!? いや、おかしいでしょ!?(自覚はある!)
でも、そんな私のことを丸ごと受け止めてくれるのが――
ゲンキなんだよね。
ゲンキは、私のいちばんの親友で、どんなときも味方でいてくれる。
泣きたくなったときも、へこたれそうなときも、ゲンキがそばにいると、
「うん、なんとかなるかも!」って思えるんだ。
ほんとにもう、世界一頼れるワンコなんだからっ!
「今日は何して遊ぼっか?」
そう言った私の声に、ゲンキはパァーッとしっぽをブンブン振って、部屋の隅に向かって一目散!
うわっ、いきなりスイッチ入った!?
「待って〜っ!」
思わず笑いながら、私もダッシュでゲンキを追いかける。
そのままリビングへレッツゴー!
……で、その途中。なんとなく視線が窓の外に向かっちゃって――
「あれ? 空、なんか霞んでる……。春の黄砂かな? それとも花粉のせい?」
なんて思ってたら、ガチャッて玄関のドアが開く音が聞こえた。
「――あっ、ママが帰ってきた!」
「おかえり、千陽。」
聞き慣れた、あったかい声。
耳に届いた瞬間、私の顔が自然にほころぶ。
「おかえりなさ〜い、ママっ!」
ママはにっこりしながらバッグをソファに置いて、まずはゲンキをなでなで。
ゲンキも「へへ〜ん♪」って顔でしっぽをふりふり。
私のところに来て、そっと手を置いてくれた。
その瞬間、心がふわっと溶けるみたいに安心して――
「ママの手って、なんでこんなに落ち着くんだろう」って思った。
「今日はどうだった? 学校。」
「うんっ、元気に過ごしたよ! ちょ〜っとだけ寝ちゃったけど、楽しかった!」
私がちょっと照れながら言うと、ママがふふって笑って――
「また寝ちゃったの?」
「えへへ。でも、そのぶん勉強もがんばったんだよ! 健康のことも、いっぱい調べてきたの!」
「さすが千陽ね。健康には気をつけないとね。」
その言葉が、嬉しくて。私はにっこにこでうなずいた。
そのとき、ゲンキが「ボクも忘れないで〜!」って感じで、部屋の隅をくるくる回ってた。
「ゲンキも元気ね〜」
「うん! 彼はほんっと、私の元気の源っ!」
私がニッコリ言うと、ママも同じように微笑んでくれる。
ゲンキは私たちの会話を聞いてるみたいに、しっぽをぴょこぴょこ振りながら、楽しそうに見守ってた。
「さぁ、今日は何かおいしいものでも作りましょうか?」
ママの声に、わたしの目がパッと輝く!
「うんっ! ヘルシーなやつがいいな〜! 最近、気になるレシピ見つけたんだ〜!」
ゲンキはそんな私たちのやり取りが楽しいみたいに、またまたぴょんぴょん駆け回ってる。
――毎日、こうしてゲンキと過ごせる時間があるってこと。
それがきっと、私にとっての一番のしあわせ。
……うん、ほんとに、そう思うんだ。
ゲンキと一緒に外に出ると、ひんやり爽やかな風がほっぺをすり抜けて――
「うわぁ〜! これはもう、お散歩日和ってやつじゃん!」って心の中で小さくガッツポーズ。
空はスカッと青くて、ぽかぽかの日差しがちょうどいい感じ。
歩くだけで、体も心もぽかぽかしてくる。うん、これはもうテンション上がるしかないっ!
「さぁ、行こう、ゲンキ!」
私が声をかけると、ゲンキはしっぽをブンブン振って、私の足元にピョコンと駆け寄ってきた。
そんな可愛い姿を見てたら、なんだかこっちまでムズムズしちゃうくらい元気が湧いてくる!
いつもの散歩道を並んで歩きながら、私はゲンキに話しかける。
「ねぇゲンキ、今日もいい運動になるね〜! あ、そうそう! 最近ね、野菜をたっぷり使ったヘルシースープのレシピ見つけたんだ〜。今度作ってみようと思ってるんだよ♪」
ゲンキはピン!としっぽを立てて、私の方をチラッと見ながら軽快に走る。
その顔が、なんかちょっとドヤ顔で、「えっへん!」って言ってるみたいで、思わず笑っちゃった。
「そうだよね! 元気が一番っ! おいしいご飯で、さらに元気モリモリになろうねっ」
私の言葉に合わせて、ゲンキが「ワンッ!」と吠えた!
おお〜、まるで会話してるみたいじゃない!?
そのまま走り出したゲンキの後ろ姿を見て、私もつられて走り出す。
いつもの道。いつもの景色。
でもなんだろう――今日はいつもより、心がふわっと軽い。すっごく、いい日な気がする。
しばらく歩いていると、前のほうに見覚えのある人影が。
「あっ、新居田さん!」
「おや、千陽ちゃん、ゲンキも元気だね。」
にこにこと笑いながら手を振ってくれる新居田さん。
手には収穫したばかりの新鮮お野菜がたっぷり入った袋!
「こんにちは、新居田さんっ! ゲンキも超元気ですよ〜!」
私が元気よく答えると、ゲンキはうれしそうに駆け寄っていって、
「なでて〜♪」って顔でしっぽふりふり。
新居田さんは優しくゲンキの頭をなでなでしてくれた。
「いい子だねぇ。元気が一番だよ。」
「はいっ! ゲンキは私の元気の源なんです!」
ちょっと照れながら言ったら、新居田さんはにっこり笑って、
なんと! お野菜の入った袋を私に手渡してくれた!
「それじゃあ、これ、持って行きなさい。」
「えっ!? わ、わぁ〜! ありがとうございますっ! こんなにたくさん……!」
袋の中をチラッと覗いて、もうテンションMAX!
私の大好きな野菜がカラフルにぎっしり。これはもう、ヘルシーメニューまつり決定♪
「うんうん、新鮮だから、しっかり食べなさい。これを食べると、元気が出るぞ!」
「はいっ! がんばって食べます!体の中から元気になります!」
「健康には気をつけなきゃね、特に若い時からしっかり食べることが大事だ。」
「はーいっ、メモしておきますっ!」
私はしっかりうなずいて、大事そうに袋をぎゅっと抱えた。
ゲンキは、なんだかうれしそうに私の隣でトコトコ歩いてる。しっぽもリズムよくふりふり♪
「本当にありがとうございます! 新居田さんの野菜、いつもおいしくって、家族も大好きなんです!」
新居田さんは嬉しそうに目を細めて、うんうんと頷いた。
「そう言ってくれると嬉しいよ。……そうだ、夏になったら、収穫体験してみるかい? トマトがちょうどいい頃になるからさ」
「えっ、いいんですか!? やってみたいですっ、楽しそうっ!」
「ふふ、元気があっていいな。じゃあ、またね。元気でな!」
「はいっ、また〜っ!」
手をぶんぶん振ると、新居田さんはにっこり笑って、畑のほうへと戻っていった。
私はゲンキと並んで歩きながら、手にした袋をじ〜っと見つめる。
中には新居田さんから頂いた新鮮なお野菜がたくさん!
ぴっかぴかで、見るだけで元気出そうっ♪
「ゲンキ、これでまたお野菜生活スタートだよっ♪元気に過ごそ〜!」
よ〜し、サラダにスープにおひたしに……ふふふ、私の健康レシピがまたひとつ進化しちゃうかもっ♪
ゲンキは「ワンッ!」と応えてくれて、私の横をぴょこぴょこ歩き続ける。
ほんと、今日はいいお散歩日和。
こうやってゲンキと歩く時間が、なんだかどんどん宝物になっていく気がする。
さてさて、次は何しようかなっ? 楽しいこと、いっぱい考えちゃお〜!




