『夏空に煌めく祈り』3
お昼の時間が近づいて、キッチンに立った私は――まさに今、集中モード!
「さ〜てとっ! 今日のメインは、トマトの冷製サラダと、キュウリの浅漬け! そしてそして〜! 焼きたてチーズトマトのトーストでフィニッシュだよっ!」
テンションはMAXだけど、動きは冷静そのもの。
だって、せっかく採れたての野菜なんだもん。絶対おいしくしてあげなきゃっ!
「このトマト、甘くて濃くて、もう香りだけで栄養摂れてる気がする〜〜……!
……この香り、うん、やっぱり“リコピンの香り”だよねっ!」
リコピンって、実は無臭らしいんだけど、トマト独特のフレッシュな香りを嗅ぐと、私の中ではもうリコピンの代名詞!
あの太陽をいっぱい浴びた感じ。夏の空気を凝縮したみたいな、元気になる香り。
そう、“元気チャージの匂い=リコピンの香り”!
「ふふっ、ちょっとだけ おしゃれな盛り付けにして……パセリひとふり……っと!」
ちょうどそこへ、さとしがリビングにやってきた。
「わ〜!すごい! 本当に、ごはん作ってる……!」
「ちょっと! “本当に”ってどういう意味っ!? 私だって、やるときはやるんだよっ?」
「う、うん。美味しそう!色もなんか、プロっぽい!」
ふふーん♪ このサラダ、まさに“太陽のめぐみ盛り合わせ”だもん!
私はキッチンで、にんまりとトマトを見つめながら、手を止めずにパンにスライスをのせていく。
「チーズトマトのトースト、いっきまーすっ♪」
厚切りのパンに、オリーブオイルをほんのちょびっと塗って、薄くスライスしたトマトを並べる。もちろん、朝採れの甘〜いトマトたち!
「ここでポイントっ! チーズはトマトを包みこむようにたっぷりめに……うんうん、この“とろ〜り予告”感、大事だよね〜!」
とろけるタイプのチーズを贅沢に乗せたら、トースターに入れて、スイッチON!
「……わくわくの待ち時間スタートっ!」
チーズがぷくぷくしはじめて、こんがりいい匂いがふわ〜ってしてきた頃
――私は、トースターの前に正座して、じ〜っと見守る。
「よしっ! 焼き目、きたーっ! 黄金色の奇跡、完成ですっ!!」
トースターから取り出すと、カリッと香ばしい音と、チーズのとろ〜んに私のテンションは最高潮!
「さっ、できあがり! “犬神きょうだいの健康ランチ・夏野菜スペシャル”! 召し上がれっ♪」
二人並んでダイニングに座って、せーので「いただきます!」
まずはトマトのサラダをひとくち――
「……ん〜っっ!! ジューシーで、甘くて、口の中が夏〜っ!!」
「わっ、ほんとだ……トマト、こんなに甘いの!?」
「だよね だよねっ!? リコピン全開って感じでしょ!!」
私のテンションに、さとしは、ちょっとびっくりしつつ、でも笑ってくれてる。
うん、こういう“家族のごはん時間”って、ほんと、いいなあって思う。
「キュウリの浅漬けも食べてみてねっ。水分たっぷりで、カリウムもあって、熱中症対策にもバッチリなんだから!」
「……うん、パリパリしてて、さっぱりしてる!僕、これ好き!」
「でしょ〜っ? 夏の最強おかずだからっ♪」
「……じゃあ、これも食べてみるね。チーズトマトのトースト」
さとしが ちょっとおそるおそる、でも興味津々にひと口かじった、そのとき――
「……うわっ! チーズ、とろとろで……トマトあまっ!」
「ふふ〜ん♪ 採れたてトマトと、とろけるチーズの奇跡のマリアージュってやつだよっ!」
「パンもカリカリしてて、お店のパンみたい……」
「でしょでしょ!? 焦げないギリギリを見極めるのがポイントなんだから〜っ」
ふたりで「うまっ!」って言いながらトーストをかじって――
「よーしっ! 今日の健康ミッション、大成功〜!」
大げさなガッツポーズをしてみせたら、さとしがまた笑ってくれた。
……そんなときだった。
「ただいま〜。おっ、いい匂いがするな〜」
玄関から入ってきたのは、――うちのパパ!
普段は地元の役場で、町の文化財を守るお仕事をしている。
で、犬神神社のことは“担当エリア”みたいな感じらしい。
「お昼、お姉ちゃんが作ってくれたんだ。すっごくおいしいよっ!」
さとしが自慢げに言ってくれて、私はちょっと照れちゃった。
「お、そりゃ楽しみだな。……そうだ、二人に ちょっとお願いがあってな」
パパはそう言って、首にかけたタオルで汗をぬぐいながら続けた。
「今日、犬神神社では七夕祭りの飾り付けの最終準備をしてるんだ。
夕方から人が来る予定でな。町の文化財係としても、しっかり盛り上げないといけなくてな〜」
「短冊はもう用意してあるから、さとしと千陽もよかったら飾りつけの準備をちょっと手伝って、それから願いごとを書いて笹に飾ってきてくれないか?」
「短冊っ!? わーっ、それ、書きたいっ!」
「僕も行きたい! えっと、お願いごと……なににしようかな〜」
ランチのあとに七夕なんて、なんだかすごく特別な一日になりそう!
「よ〜しっ。食べ終わったら準備して、笹に願いごと、結びにいこっか!」
夏の一日は、まだまだこれから。
“おいしい”と“たのしい”と“願いごと”が、ぎゅっと詰まった、まるで宝箱みたいな午後が――待ってる!




