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『封(と)じられし視線の記憶』2

——探索当日。


「えっ、犬神先輩、今日どこか行くんですか?」


テニス部の後輩、美咲ちゃんがキラキラした目で声をかけてきた。


「んー、ちょっと旧校舎で調査をね。」


「えええ!? 旧校舎って、あの七不思議の噂があるところですよね!? 怖くないんですか!? 犬神先輩、すごいです!!」


「いや、そんな大げさなものじゃ……」


「犬神先輩が行くなら……私も応援しに行きます!」


「えっ?」


「えええ!? 美咲ちゃんも来るの!?」


「こ、怖いけど……いっ、犬神先輩が行くなら、私も行かなきゃ!」


「ふふっ、いいじゃない!」


亜沙美がニヤニヤしながら私の肩をポンって叩いてくる。

え、これほんとに行く流れ!? でも美咲ちゃんのその顔、なんか断れない~!


こうして、美咲ちゃんも仲間入りして、私たちは いざ、旧校舎へと向かうことになった。


***


「本当に こんなところに来るの?」


亜沙美が、めちゃくちゃ不安そうな声を出す。


日向高校の旧校舎って、今はもう使われてないけど、昔は学園の中心だった建物。

そんな場所には、“七不思議”っていう有名な噂があるのだ……

うぅ、聞けば聞くほど怖くなる!


夕方の放課後、七不思議探索のために、私たちは旧校舎の前に集合してた。


「犬神先輩、今日は よろしくお願いします!」


美咲ちゃんが元気よく挨拶してくれる。


「うん、美咲もね!」


そう言って頷いたけど、なんか……美咲ちゃん、ちょっとモジモジしてる?


「……あの、犬神先輩って、ちょっと長いですよね?」


「えっ?」


「いや、その……もっと呼びやすい感じにした方がいいかなって……。」


「別に気にしなくていいよ?」


すると、美咲ちゃんは しばらく迷ったあと、顔を真っ赤にしながら、思い切った感じで口を開いた。


「じゃ、じゃあ……『ちー先輩』って呼んでもいいですか!?」


「えっ!? ちー先輩……?」


突然の呼び名にびっくりして、目がまんまるになっちゃった。


「えっと、その……短くて可愛いし……! 私、小さい頃“みーちゃん”って呼ばれてたんですよ。なんか響きが似てて、ちょっと親近感あるっていうか!」


「おー! いいじゃん、ちー先輩!」


亜沙美がノリノリで乗っかってくる。こらこら〜。


「まあ、響きも よろしいですわね。」


玲奈先輩まで優雅に微笑んでるし!?


「う、うん! いいよ、美咲!」


「ありがとうございます、ちー先輩!!」


満面の笑みでガッツポーズする美咲ちゃんが、もう、ほんと可愛くて……思わず私、ふふって笑っちゃった。


なんか、ちょっと照れくさいけど……この呼び方、悪くないかも。


ちらっと横を見ると、隆之がちょっとだけ複雑そうな顔をしてたけど、何も言わずに旧校舎を見つめてた。


……え、もしかして、なに? いじけてる??


そんなことを考えてたら、美咲ちゃんの頭のあたりに目が止まった。


「……あれ? 美咲、そのヘアピン……猫?」


「え? あっ、これですか?」


美咲ちゃんは ちょっと照れた顔で、髪を指でなぞる。


そこには、小さな猫のシルエットがついたヘアピンがついてた。ぴょこんって耳がついてて、かわいい!


「かわいいね。それって……もしかして、猫が好きとか?」


「はいっ、大好きなんです! ちー先輩って犬派ですか?」


「うん、どっちかっていうと……犬派かな?」


「やっぱり そうなんですかー! 私、昔から猫派で。なんか、猫ってミステリアスで可愛いところがたまらなくて……!」


美咲ちゃん、すっごく嬉しそうに話す。

猫の話になると、普段の元気さとはまた違って、ちょっと落ち着いた感じになるんだなぁ。


「……ふふっ、猫っぽいかもね、美咲。」


「えっ、そうですか!? 嬉しいっ!」


その無邪気な笑顔に、なんだか緊張してた気持ちが、ふわっと

ほぐれていく気がした。


そして私たちは、気を引き締めなおして――


旧校舎の扉を、そっと開けた。


***


扉を開けた瞬間、もわって埃っぽい空気が漂ってきて、ゾクッとする感覚が走る。なんか、見られてるような……そんな感じ。


(よし、気合い入れていこっ!)


旧校舎の中は ひんやりしていて、外の夕暮れとは まるで別世界みたいな静けさ。


その中を進んでいくと、前を歩く長谷川先輩が、ふと私に声をかけてきた。


「お、犬神、足元に気をつけろよ。床が歪んでるみたいだからな。」


「え? あ、ありがとうございます…!」


って、あれ? そのすぐ後ろから、なーんか微妙な溜息が聞こえた気が……。


「……別にチハルは そんなにドジじゃないし。」


……え、隆之!?


声がちょっと尖ってる!? え、なになに、怒ってるの!?


「ん? まあ、念のためにな。」


長谷川先輩は気にしてない様子で、すたすた先に進んでいくけど、隣の隆之は明らかにモヤモヤしてる顔してる。

私、思わず瞬きしちゃった。……この空気、なに!?


(……え、もしかして……ヤキモチ?)


えっ!? いやいやいや、そんなわけ……いやでも……


「ふふっ。」


うわっ!? 玲奈先輩の含み笑いが聞こえてきた!!


背筋がピーンってなる私。そ、そんな含みある笑い方やめてー!


「ねえヒカリさん? あの二人、なかなか面白いですわね?」


ヒカリは静かに微笑んで、こくんと頷いた。


「……確かに。」


「隆之くん、なかなか素直になれないタイプですわね。」


「そうね。でも、そこが彼らしいわ。」


玲奈先輩は くすっと微笑みながら、隆之の背中を見つめたまま、優雅に歩いていった。


(……なんか隆之、機嫌悪い? でも、なんでだろう? 別に私、何かしたわけじゃないし……。うーん、よくわかんないけど、とりあえず探索に集中しなきゃ。)


私は なんとも言えないモヤモヤを抱えながら、みんなと一緒に旧校舎の探索を続けるのだった。


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