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『命の輝き』5

最近、みっちゃんが「ちょっと疲れやすいんだよね」って呟くことが増えてきたんだ。


「部活がハードだからじゃない?」


「そうだよね! でも大丈夫、まだまだやれるよ!」


私も、深く考えずにそう返しちゃってた。


だけど——。


最近、みっちゃんの様子が、ちょっとだけおかしかった。


「ちーちゃん、なんか最近、ボールを蹴ると足が変な感じがするんだよね。」


ある日の放課後、帰り道でみっちゃんがぽつんと呟いた。


「変な感じ?」


「うん……なんだろう、力が入りにくいっていうか。」


「え、もしかして疲れてるんじゃない? 部活ハードだし……」


私がそう言うと、みっちゃんは いつもの調子で笑って「だよね!」って返してくれた。


でも、その笑顔が……どこかぎこちなく見えた気がした。心の中に、ちっちゃな違和感が生まれたけど、私は深く考えずに、そのまま流しちゃったんだ。


そして——。

その日は、いつも通りの放課後だった。


私はテニス部の練習が終わって、

みっちゃんたちサッカー部の様子を見にグラウンドへ行ってて——。


「ミツキちゃん、パスいくよー!」

誰かの声が響いて——


「うん!」って、みっちゃんが笑って。


その瞬間——


——バタッ。


え……?


みっちゃんの体が、ふわっと、力が抜けたみたいに崩れ落ちた。


「ミツキちゃん!?」


誰かの叫び声が響いた。

みんなが一斉に駆け寄ってく。


私も、気づいたときにはグラウンドへ全力疾走してた。


「みっちゃん、大丈夫!?」


みっちゃんは、息が荒くて、手足が震えてて。


「わかんない……急に力が抜けちゃって……」


「救急車呼んで!」


先生の大きな声が、グラウンド全体に響き渡った。

すぐに、駆けつけたもう一人の先生がスマホを取り出し、素早く操作を始める。


みっちゃんの手が芝生を つかもうとしてて、私はその手をぎゅっと握ることしかできなかった。


救急車のサイレンの音が、だんだん近づいてきて——


「みっちゃん……」


胸がギューって締めつけられる感覚。足が震えて、動かなかった。


……救急車が来て、みっちゃんが乗せられて、遠ざかっていく。


私は、その姿をただ見送ることしかできなかった。


気がついたら、病院の白い椅子に座ってて、ぼんやりと天井を見上げてた。


時間の流れがわかんない。なんだか、現実じゃないみたいで——。


「……お待たせしました。」


診察室のドアが開いて、先生が現れる。空気がピンって張り詰める。


「お父さん、お母さん、こちらへ。」


みっちゃんのご両親が静かにうなずいて、中に入っていく。


私は外で待つことになった。


みっちゃんは、病室のベッドで じっと天井を見てた。


「……ちーちゃん、私、どうしちゃったんだろうね。」


「……だ、大丈夫だよ。きっと、ただの疲れだよっ!」


それしか言えなかった。


どれくらい経ったかはわかんないけど……


やがて、診察室のドアが開いて、みっちゃんのご両親が戻ってきた。


「光希……」


お母さんの声が震えてる。


「ママ、どうしたの?」


みっちゃんが笑おうとしても……お母さんの目には涙が浮かんでた。


「……大丈夫だからね。これから、一緒に頑張ろうね。」


お母さんが みっちゃんの手を握る。


みっちゃんも、不安そうに手を握り返してた。


そのあと、私は病室の外で待つことになった。


(なにが起きてるの……?)


胸の中がざわざわして、手のひらが じんわりあったかくて。


私はただ、黙ってそこに座っていた。


病院の白い天井。無音の空間。


——みっちゃんが倒れたあの日から、時間が止まっちゃったみたいだった。


病室の中、みっちゃんは じっと自分の手を見つめてた。


ゆっくり動かそうとしても、うまくいかない。


「……昨日のこと、夢だったらいいのに。」


かすれた声が、胸に刺さった。


「ねぇ、ちーちゃん……私、サッカーできるよね?」


無理やり笑おうとするみっちゃんの目が揺れてる。


「大丈夫だよ! ちょっと休めば、すぐ元気になるよ!」


できるだけ明るい声で返した。


でもみっちゃんは、ゆっくり首を振った。


「……わかんない。体が、思うように動かないの。」


「疲れてるだけだよ! 今までがんばりすぎてたんだってば!」


「……そうかな。」


「そうだよ! みっちゃんは すっごくがんばってたもん! だから、ちょっと休んで、また一緒にサッカーしようよ!」


みっちゃんは しばらく何も言わず、ふっと笑おうとして……


「……ちーちゃん、ほんと、ポジティブすぎるよね。」


「えへへ、みっちゃんのためなら、いくらでもポジティブになるよ!」


私はそう言いながら、みっちゃんの手をぎゅって握った。


「だから、絶対に大丈夫! すぐまた一緒にボール蹴れるってば!」


「……うん。」


みっちゃんは、小さくうなずいてくれた。


私は——本当に、そうなるって信じてた。


でも、そのときの私は、まだ……


これがどんな病気なのかも、


なにが待ってるのかも、


何にも、知らなかったんだ——。

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