『命の輝き』3
——光希と初めて言葉を交わした、遠いあの日のこと。
それは、私がまだ“ちっちゃかった頃”の思い出。
「おじゃましまーす……」
ママと一緒に、おともだちのおうちに遊びに来た。
でも、ちょっとだけドキドキする。
ママとミツキちゃんのママはとっても仲良しだけど、
私はミツキちゃんと あまりお話ししたことがないから。
お部屋の中を、きょろきょろとのぞく。すると、お庭でミツキちゃんが笑いながら、白いモフモフのワンちゃんと遊んでいた。
「……犬、好き?」
ミツキちゃんのママが、にっこり笑いながら私に声をかけてきた。
「えっ? あ、うん! だいすき!」
私が大きな声でこたえると、ミツキちゃんのママはやさしくうなずいた。
「ミツキがね、ユキと遊んでるの。よかったら、いっしょにどう?」
お庭のミツキちゃんが、ユキの背中をぽんぽんとたたきながら、こっちを見て笑ってくれた。
「ユキね、すっごく元気なんだよ! 走るのも、遊ぶのもだいすきなの!」
ユキ。お庭で はねまわってる、まっしろのワンちゃん。
「……ユキ?」
「うん。雪の日にね、ママがひろってきたの。ちっちゃくて、まっしろで……まるで雪みたいだったから、ユキって名前にしたの。」
ミツキちゃんがユキちゃんの頭をなでると、ユキちゃんはうれしそうにしっぽをフリフリ。とっても楽しそうだった。
(いいなぁ……私も、あのワンちゃんと遊びたい……)
そう思ったら、そっと手がぎゅってなる。
「……あの、わたしも犬、さわりたい。」
ドキドキしながら声をかけると、ミツキちゃんが ぱちんと目を大きく開いて、
私を見つめた。
「……いいよ。」
ちょっとだけ、はずかしそうな声。
それから私は、ミツキちゃんとユキちゃんに そーっと近づいた。
最初は やっぱりちょっとドキドキしてたけど、ユキちゃんのあったかいぬくもりにふれたら、それもどこかへ行っちゃった。
ユキちゃんのあったかさにふれた瞬間、私の中で何かがパァッとはじけたみたいだった。
「ワン!」
思わず、ユキちゃんに向かって うれしそうにほえちゃった。
するとユキちゃんも、「ワン!」って元気にこたえてくれて——
「えっ? いまの、ちはるちゃん?」
ミツキちゃんがびっくりした顔で こっちを見る。
けど、すぐに くすっと笑って、次の瞬間——
「ワン!」
ミツキちゃんもユキちゃんみたいに、わんわんって元気にほえてくれた!
なんだかすっごく楽しくなって、わたしたちはお庭でころげ回りながら、
わんわん言って、いーっぱい笑った。
「ねえ、ミツキちゃんのこと、みっちゃんって呼んでもいい?」
私が聞くと、ミツキちゃんは ちょっと真剣な顔で考えて……
「うん。いいよ。私もちーちゃんって呼ぶね!」
こうして、私とミツキちゃんは、ただのご近所さんじゃなくて、ほんとうのおともだちになったんだ。
***
それからしばらくして、今度は、みっちゃんが私のお部屋に遊びに来た。
「へぇ〜、ちーちゃんの部屋って、なんだか落ち着くね!」
みっちゃんは、きょろきょろしながら部屋を見まわしていた。すると、ふと机の上にあったボールに気づいて、小さな声をあげた。
「ねえ、これってなぁに?」
みっちゃんが手に取ったのは、ちょっとすりきれた黄色いボール。手のひらに
すっぽり おさまるくらいの大きさで、ところどころに小さなキズがついていた。
「あ、それはね……」
私はボールを見つめながら、ゆっくり話し始めた。
「ずっと前にね、ある日迷子になっちゃったの。泣きそうだったときに、ある人がこのボールをくれたんだ。『これを持ってたら大丈夫』って。」
そっとボールをにぎりしめると、そのときの安心した気持ちがよみがえってくる。
「それ以来、このボールは私の大切な たからものなの。」
みっちゃんは、じっとボールを見つめたあと、ふんわり笑って、「へぇ〜、そんな大事な思い出があるんだね」ってやさしくうなずいた。
「うちのパパもね、サッカーが大好きで、よくいっしょにボールけって遊んでるよ!」
それから、ちょっと照れたように こう続けた。
「それにしても、ちーちゃんって ほんとに犬好きだよね。ユキともすぐ仲良くなっちゃったし。」
「うん! わたし、犬がだいすきなんだ。でもね、うちでは飼えないの……だから、またユキちゃんに会いに行くね。」
「もちろん! ユキも きっと楽しみにしてるよ!」
みっちゃんがニッと笑って、元気いっぱいに言ってくれた。
***
そして年月が過ぎて——春。
新しい制服に袖を通して、私たちは ついに中学生になった。




