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『闇を裂く絆』4

「……で、この祠の中に入るにはどうすればいいの?」


思わずそう聞いてしまった私に、シロは夜風を味わうみたいに鼻を鳴らして、目を閉じた。……と思ったら、次の瞬間、バシッと黄金の瞳で私を見据えてきた!


「犬神千陽よ、試練の門を開くには、貴様の“誓い”が必要だ。」


「誓い……?」


「そうだ。封印を強化する者として、貴様がこの試練に挑む覚悟を示すのだ。」


……なんか毎回言い方が仰々しいけど、大事な話っぽい……っ。


シロがズン、と一歩踏み出すと、その足元から光の波紋がふわあっと広がっていって、私は思わず祠に手を伸ばした。


すると、祠がほんのり光りだして……わわっ、ゆらゆらと空間に扉が現れた! まるで異世界アニメの入り口みたい!!


「これが……試練の門……?」


ヒカリがすっと近づいてきて、私の手をそっと握ってくれた。その手が、すごくあったかい。


「犬神さん、この扉はあなたの意志で開くものよ。覚悟があるなら……扉に触れて、誓いを立てて。」


覚悟、かぁ……。


私は一歩前に出て、ドキドキしながら扉に手を伸ばした。指先が触れた瞬間、光がピカッと広がって、私の胸の奥まで揺らされたみたいな気がした。


「私は――この封印を強化する。試練を乗り越える覚悟がある!」


扉がふわあっと光って、中がゆらめいて……えっ、なにこの空間!? きらきらした光と闇がまざりあって、夢の中みたい!


……って思ったのもつかの間、ふわっと体が浮いたような感覚。景色がぐるんと回って、私の視線が……やたら低い?


「な、なんで……地面が近いの!? えっ、なんで私……ゲンキになってるのーっ!?」


びっくりして叫んだはずなのに――


「ワンっ!? ……じゃなくて……え、今の……しゃべった!? わたし、しゃべれてる!?!?」


耳がぴくぴく、前足ふわふわ、しっぽまで生えてるしっ!?

しかも、あの首輪……ちゃんと私の首にカチッてハマってる〜〜っ!?!?


異世界の中なのに……声が出せる。言葉が通じる。

――だけど、だからこそ、この異変は現実なんだ。


「ま、まさか……この世界じゃ私、犬になる仕様なの!?」


パニックになりかけたその時、前に現れたのは……シロ。でも、なんか雰囲気がいつもと違う。


「やっと来たのね、犬神さん。」


えっ、シロが喋った!? いや、ヒカリの声だし!


「ヒカリー!? って、どゆこと!? シロが喋ったの!? ヒカリの声で!?」


「ここでは、私とシロがリンクしているの。彼の体を通じて、あなたに語りかけることができるのよ。」


「えぇぇ……!? ていうか私が犬になってるのも説明してなかったじゃん~!」


ヒカリ(シロ?)はちょっと楽しそうにクスクス笑ってた。


「それがこの試練のルールよ。さあ、覚悟を決めて——試練が始まるわ。」


ふえぇ……もう……。でもやるしかないんだよね。


『犬神千陽よ、貴様が今いるのは、“夢幻封界”と呼ばれる異界の領域……この次元は選ばれし者のみが踏み入れることを許される試練の舞台だ。』


「今の誰!? どっからしゃべったの!?」


『この世界において、肉体の言葉は不要。精神が交わることで、貴様に伝わるのだ。』


「ううぅ……便利だけど混乱するーっ!」


『この世界では“原初の姿”を宿し、その証として犬の形を取るのだ。』


「要するに……犬じゃないとダメってこと!?」


『そういうことだ、犬神千陽よ……さあ、この封界の理を受け入れ、試練へと進むがよい……!』


ヒカリと視線を交わした。彼女も犬の姿になってるけど、しっかりした目で前を見てる。


「でもヒカリって、首輪つけてないのに入れてるの?」


「あなたと握手した時に、私もリンクされたからなの。あなたが入れるなら、私も大丈夫。ただし、犬の姿じゃないとね。」


「ぐぬぬ……私だけなんか損してる気がするけど、仕方ないっ!」


そう言いながら、私は覚悟を決めて、一歩、前へ踏み出した。


その瞬間――空気が変わった。


ひんやりとした風が肌をかすめ、

耳の奥で“ピリピリ”とした音が広がる。


目の前の景色がぐにゃりと歪み、私は光の中をすり抜けるようにして、

どこか別の場所へと足を踏み入れた。


足元に広がるのは、石畳のような不思議な模様の広場。

空は闇に包まれ、まるで時が止まってしまったかのような静けさ――。

その静寂を破るように、遠くから低く唸るような音が聞こえてきた。


——ゴォォォ……。


空気が震える。

そして、霧の向こうから姿を現したのは――

まっしろな巨大な狼。


鋭い金色の瞳がこちらを見据えていて、毛並みは風にたなびき、

ただそこに“在る”だけで、空間そのものが緊張に包まれる。


「我が名は白の幻狼——この封印を守護する者なり。」


静かに告げられたその言葉は、空間の奥底まで響くようだった。


私は……その場で、ぺたんと座り込んでしまった。

足が、勝手に震えてる……!


で、でたああ……っ!


目が星みたいにきらきらしてて、牙がキラリ。すごい存在感っ!


……なんて、テンション上がってる場合じゃなかった。


私は一歩、また一歩と後ずさる。足が震えてるのが、自分でもわかる。


「ムリムリムリムリ……! なにあれ!? 怖いってばぁぁぁっ!」


声が裏返る。喉がからっからで、背中に冷たい汗がじわっと滲む。


(いやいや待って!? あんなのと戦うの!? 正気ですかー!?)


柴犬の姿でキャンキャン鳴きながら後ずさる私。

でも、足がもつれて転びそう。むしろ転んだ。


すると――


『落ち着け、犬神千陽。』


突然、頭の奥に直接響くような声が届いた。


(……えっ、シロ!?)


『お前はすでに犬神の力によって肉体を強化されている。

この試練を乗り越える力は、すでに備わっているのだ。』


その声は静かで、だけど確信に満ちていて――

胸の奥が、少しだけしゃんとする。


そして、私の前にすっと立ちはだかった、もう一匹の白い犬――ヒカリの姿。


「……チハル、大丈夫。私がいるわ」


あのときと同じ声。

でも今は、犬の姿になっていても、ちゃんとわかる。


「怖いのは当然。でも……背を向ける理由にはならない。

行くわよ、犬神さん。私と一緒に…!」


『恐れを越え、絆を信じよ――お前たち犬神が並び立つとき、真の力は目を覚ます。』


シロの心の声が、もう一度ふわりと降りてくる。

私は、四つ足のまま、ぐっと地面を踏みしめた。


「よ、よーし……やってやるっ! 行くよ、ヒカリ!」


「うん。並んで、前へ」


二匹の犬が、並んで一歩を踏み出す。


それは、ただの戦いじゃない――

“はじまりの一歩”だった。


白の幻狼がその場に重く一歩を踏み出し、低く響く声で告げた。

「 ここが試練の地――ならば見せてもらおう。お前たちが、この封印を託すに値する存在かどうかを。」


——シュウゥゥ……。


まるで音そのものが吸い込まれるように、あたりが不自然な静寂に包まれた。

その瞬間、私たちの視界が真っ暗になった。


「——えっ?」

目を開いているはずなのに、何も見えない。


「ヒカリ……そっち、見える?」


「……いいえ、何も……。」


突然、視覚が完全に奪われた。

周囲の気配は感じるのに、目では何一つ捉えられない。

白の幻狼が静かに佇み、その輪郭が徐々に揺らぎ始める。


「これで見えるものは何もない……お前たちの"本能"を試す!!」


その言葉と同時に、フィールド全体が漆黒の闇に包まれた。


「どこにいるの……!?」


私が戸惑いの声を上げるが、周囲には何の気配も感じられない。空間そのものが敵を飲み込んでしまったかのようだった。


その時、暗闇の中から突如として鋭い風切り音が響き、白の幻狼の鋭い攻撃が私たちに迫る。


「危ない!」


ヒカリが鋭く叫び、私はとっさにその声に反応して身をかわした。

二人は間一髪のところで幻狼の攻撃をかわすことに成功した。


ヒカリはハッと気づいたように耳をそばだてた。


「焦らないで! "聞いて、嗅いで、感じる"のよ!!」


ヒカリの声が響く。その瞬間、私は意識を切り替えた。視覚が頼れないなら、残された感覚を研ぎ澄ますしかない。


私は耳をそばだて、微かな音に集中する。


——ザッ。


わずかな足音。砂利がかすかに動く音が、遠くから聞こえた。


「……いた!!」


同時に、ヒカリも鼻をひくつかせる。


「この臭い……白の幻狼はそこね!」


二人の意識が重なった瞬間、二人は迷いなく走り出した。


——次の瞬間、勝負は決まる。


私が俊敏に動き、フェイントを入れて幻狼の注意を引く!


その隙にヒカリが背後から駆け寄り、素早く"囮の一撃"を繰り出す。しかし、それはあくまでフェイク!

私が一気に地面を蹴り、全力の体当たりで敵の動きを封じる!


「私が押さえる!!!」


「……これで終わり!!!」

ヒカリが瞬時に間合いを詰め、鋭い爪を閃かせる。


白の幻狼は最後の抵抗を試みるかのようにわずかに身を引くが、その動きを読むように私がさらに力を込めて押さえつける。


「今よ、ヒカリ!!」


ヒカリの瞳が鋭く輝き、まるで時間が止まったかのような一瞬——

ヒカリが鋭く地面を蹴り、一瞬で幻狼の間合いに飛び込む。その動きはまるで風が流れるように無駄がなかった。

爪を閃かせ、首元へ鋭い一閃を放つ。その軌道は迷いなく、まるで最初からそこを狙っていたかのように正確だった。


衝撃が響き渡り、ヒカリの爪が幻狼の首元に深く食い込む。瞬間、白銀の光がその衝撃を中心に放射状に広がり、空間が揺れるように震えた。


衝撃が響き渡り、幻狼の身体が一瞬硬直する。

そして、白銀の光が弾けるように霧となり、その姿が静かに消えていった。


二人の動きが完全にシンクロした瞬間——


白の幻狼の姿が霧のように揺らぎ、やがて静かに霧散した。

私は荒い息をつきながら、試練が終わったことを実感する。


そのときだった。静寂の中、どこからともなく、心の深奥に響く声が聞こえた。


『よくやったな、犬神の継承者よ。』


――シロの声……!


『この夢幻封界は、精神がそのまま力となる場。己が心の弱さに飲まれれば、幻に喰われるのみ。だが、お前は恐れを知り、受け入れ、それでも前へ進んだ。それが、真の強さだ。』


静かで、しかし確かな威厳を帯びた声が、まるで魂の芯に直接語りかけてくる。


『よく聞け。犬神千陽。力とは、ただ振るうものではない。何のために立ち向かい、誰のために手を伸ばすのか――その意思こそが、力を導く。お前の心に宿る“守りたい”という願いが、犬神の力を目覚めさせたのだ。』


少しだけ、目頭が熱くなった気がした。


『お前は、まだ未熟だ。だが、歩みを止めぬ限り、その魂は磨かれてゆく。忘れるな――夢幻を越える鍵は、常にお前の中にある。』


シロの声は、やがて波のように、穏やかに心の奥へと溶けていった。


――そのときだった。


空間にふわっと柔らかな光が立ち上がる。

まるで星が瞬くように、ひとつの光の粒がきらめいて――

それは“封印の鍵”となって、ゆっくりと浮かび上がった。


「……きれい……」


思わずつぶやいたその瞬間、

輝く鍵が、まっすぐ私の白銀の首輪へと向かってきて――


「えっ!? ちょ、ちょっとまっ……」


ぴかっ——!


首輪が光り、ほんのりと温もりを残して……ふうっと、空気に溶けるように消えた。

その瞬間、白銀の首輪に刻まれていた四つの刻印のうち、ひとつがふわりと白く輝き出した。

まるで、「はじめの一歩」を讃えるように、優しく、あたたかく——胸の奥が、ほんのり熱くなった気がした。


「な、なにこれ……」


私は胸元に手を当てて、そっと鼓動を確かめる。

――トクン、トクン。

少し早くなったそれは、どこか知らない場所に近づいている気がして。


今、確かに……何かが、自分の中で変わった気がする。


でも、それが“何”なのかは、まだうまく言葉にできなくて――


ただ、次に進まなきゃいけない。

そんな予感だけが、静かに、でも確かに私をつき動かしていた。

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