『闇を裂く絆』3
犬神神社の鳥居が見えてくると、ゲンキは嬉しそうに「ワン!」と一声あげて、ぴょいっと先に駆けだした!
「わっ、ちょっと待ってよ〜、ゲンキ〜!」
境内には誰の姿もなくて、ひんやりした静けさに包まれてた。……うん、ちょっとだけ雰囲気、違うかも?
私は一歩足を踏み入れて、周りをきょろきょろと見渡す。
「やっぱり……なんか、空気がピリッとしてる気がする……?」
そのとき、不意に視界の端に違和感が飛び込んできた。
「……あれっ?」
そこに、ぽつんと、小さな祠が立っていた。
「こんなところに……祠なんて、あったっけ?」
私は眉をひそめながら、そろ〜りそろ〜りと祠に近づいていく。
見覚えがないはずなのに、なんでだろ……なんか、すっごく懐かしい気持ちになる……。
「でもでも、絶対ここに前は何もなかったはずなのにっ?」
頭の中がハテナでいっぱいになってると、
「やっぱり気づいたみたいね。」
ふいに、ふわっと優しい声が背後から聞こえた!
「ひゃっ!?」
びっくりして慌てて振り返ると、そこにはヒカリとシロが立っていた!
「ヒカリっ!? シロまで!? ど、どうしてここにいるの〜っ!?」
ヒカリはふんわり微笑んで、こっちを見つめてる。
シロはちょっぴりカッコつけた感じで、夕暮れの風にたてがみ(?)をなびかせながら近づいてきた。
「フフ……この刻を待ちわびたぞ、犬神千陽よ。」
「えぇぇ!? なんか始まった!?」
ヒカリは祠に目を向けながら、静かに言った。
「あなたを導くためよ。」
そして、シロがさらにドドンと続けた!
「犬神千陽よ、目覚めの刻はすでに訪れている。結界の力が弱まっている今、この封印を再び強化せねば、この地は深淵の闇に飲まれ、二度と光を見ることはない……。」
「ちょ、ちょっと待って待って待って!? 話のスケールが急にファンタジーすぎない!?」
私は両手をブンブン振りながら、慌ててシロに突っ込んだ!
「要するに、この祠の封印を強化しないと町が大ピンチってこと!?」
「ふっ……犬神千陽よ、貴様にはまだこの言葉の真の意味が理解できぬか……哀れなことよ。」
「そ、そういう言い回しじゃなくて、もっと分かりやすく話してよ〜っ!」
ヒカリがクスクス笑いながら、「シロはね、初めて会った時からずっと、そんな芝居がかった話し方なのよ」って肩をすくめる。
そして、ふっとまじめな表情に戻って、
「今朝、先生が言ってたでしょう? 100年前の大災害のとき、日向町だけが無傷だったって話。
……実はね、それって――犬神様の結界のおかげなの。」
ヒカリの声は、静かで、でもどこか真剣で。
「でも、その結界の力が弱まってきてるの。
この祠の封印を強化しないと……本当に危ない状態なの。」
「えぇっ……!? じゃあ、やっぱりこの祠ってすごく大事なやつ!?」
「そのとおりだ、犬神千陽よ。貴様は選ばれし者——今こそ、試練の刻だ!」
「し、試練って、な、何をするの!? え、まさかこの中に入るの!? なにがあるの〜っ!?」
シロの前足がふわりと動くと、空間に淡い光が走り、静かに一つの“かたち”が現れる。
浮かび上がったのは――白銀の首輪。
月の光をまとったような、澄んだ輝きがゆっくりと空中を漂っていた。
よく見ると、その首輪には、神秘的な文様で描かれた四つの刻印が刻まれていて、どれも静かに、でも確かに存在感を放っていた。
「……え?」
「犬神千陽よ、これを貴様に託す。」
「ちょ、ちょ、まっ……なんで私が首輪!?!? 人間ですよ!? ほら見て、この手足! 二足歩行!!」
思わずその場で、くるっと一回転っ!
スカートのすそがふわっと広がって、
「ほらほらっ、ねっ? わたし、完全に人間スタイル!!」って、ちょっと必死にアピールしちゃう。
しかし、シロはすっごい真顔で言った。「これは犬神神社に伝わる秘宝。貴様がこれを身に纏うことで、封印を強化する力が覚醒するのだ……!」
「いやいやいや、どー見ても犬用だよコレ!? ゲンキにぴったりサイズだよ!?」
私はゲンキの方をチラッと見る。
「ゲンキにつけてもダメ〜?」
するとゲンキは――ぷいっとそっぽを向いて、
なんだかすご〜く微妙な顔をしてる。
耳がちょっとだけペタンとして、
「え、ボクは遠慮しときます〜」って言ってるみたいな空気感。
私が目をぱちぱちさせて見てると、
今度はそろ〜りそろ〜りって距離を取ろうとしてて、もう、笑うしかないっ!
「フッ……逃げるか、犬神千陽よ。」
「逃げてないってば〜!!」
ヒカリは微笑みながら「でも、きっと犬神さんになら似合うと思うわ」とか言ってくるし!
「もう……これが試練ってやつなの!?」
私はしぶしぶ首輪を受け取ったけど――
その重みと、じんわりとした温かさに、心の中がそわそわして落ち着かない。
こんな不思議なことが、現実に起こってるなんて。
(シロって、何者……? ていうか、私……これからどうなるの!?)
ぐるぐると頭の中で考えが回る中、私は自然とヒカリの方を見ていた。
その横顔は、どこか静かで……でも、どこか人間離れしたような、そんな雰囲気があって――
「ねぇ、ヒカリ……あなた、いったい何者なの?」
気づけば、胸の奥からこぼれていた。
ヒカリは静かに、でもどこか優しげに答えた。
「私は……あなたと同じ。犬神に選ばれし者よ。」
その瞬間、私の胸の奥がざわざわ〜って騒ぎだした。
「……私と同じ……?」
ヒカリの言葉は優しいのに、まるで遠くから聞こえてくるみたいで、ちょっとだけ寂しく感じた。
「じゃあ、ヒカリ……あなたの本当の正体って……?」
そう問いかけながらも、胸の奥がざわざわして、ドキドキが止まらなかった。
だけどヒカリは、何も言わずに、ただ静かに――私を見つめ返していた。
……まるで、“答えを知る覚悟はある?”って、試されているみたいに。