『闇を裂く絆』2
学校を終えて帰宅すると、玄関でゲンキがしっぽをぶんぶん振って待ってた!
「ただいま、ゲンキ~っ!」
「ワン!」
ゲンキは元気いっぱいにぴょんっと飛び跳ねて、私の足元にぴとってまとわりついてきた。
もう、ただいまの大歓迎っぷりが毎日かわいすぎるの!私はしゃがみこんで、彼のふわふわの頭をなでなで。
「今日もいい子にしてた?」
ゲンキはうれしそうに「ふんっ」て鼻を鳴らして、私の手にすりすり。
その甘えん坊な仕草に、思わずにっこりしちゃった。
「ほんとに甘えん坊なんだから~。」
なでなでしながら、ふと……なんか変な感覚が。
(え、なにこれ……喉の奥から「ワン」って出そうになった!?)
あ、危なっ! とっさに口を押さえちゃったけど、自分でもびっくり。
え、わたし今ほんとに「ワン」って言いそうだった!? しっぽとかあったら絶対ぶんぶん振ってたよ!
「……あれ、私、なに考えてるの?」
思わずゲンキの頭におでこをちょこんとくっつけて、そっと聞いてみた。
「ほんと、不思議な気分……」
ゲンキはきょとん顔。でもすぐにうれしそうに鼻を私の頬にくすくすっと押し付けてきて、もう〜っ、かわいすぎっ。
耳をやさしく揉んであげながら、私もほわ〜っとした気持ちになってた。
ゲンキは目を細めて、すっごく気持ちよさそうなお顔。
「さ、着替えてこよっと〜。」
名残惜しいけど、ゲンキにちょっと待っててもらって、自室へ直行!
制服をぬいで、部屋着に着替えようとしてクローゼットを開けたとき——
ふと視線が止まったのは、机の奥の方。
そこには、いつも見える場所に大事に飾ってある透明なケース。
中には、ちょっと古びたテニスボールがひとつ。
そっと取り出して、じーっと見つめる。
このボール、小さい頃に迷子になった私に誰かがくれたもの——の、はず。
でも、誰だったのか、なんでくれたのか……記憶がぼんやりしてて、思い出せないんだよね。
——「……大丈夫。これ、あげるわ。きっとお守りになるからね。」
優しい声。どこか懐かしくて、ほっとする声。
でも、誰の声だったんだろう……?
泣きそうになってた私に、そっとこのテニスボールを差し出してくれたその人の手。
あったかくて、やさしくて……そのぬくもりだけは、なぜかはっきり覚えてるの。
それ以来、ずっと大事にしてるこのボール。
思い出の品ってだけじゃなくて、これがきっかけでテニスに夢中になったんだよね!
このボールを手にして遊んでるうちに、自然とラケット持って、
公園で夢中でボール打ってたっけ。
テニスボールをそっと握って、静かに目を閉じて……ふと、思い出すのは中学生の頃の記憶。
——ちーちゃん。
——みっちゃん。
お互いあだ名で呼び合ってた、あのころの私たち。
「また会いに行くからね、みっちゃん……。」
ぽつんと、小さくつぶやく。
ボールをそっとケースに戻して、しばらくじーっと見つめた。
中学の頃、大切だった友達との思い出が胸の奥でふわっとあったかくなる。
静かに立ち上がって窓の外を見ると、夕陽が地平線にしずみかけてて、空がすっごくキレイな茜色に染まってた。
「そろそろ行こうか、ゲンキ〜♪」
足元でまるくなってたゲンキが、ゆっくり起き上がってしっぽをふりふり。
バッグを肩にかけて、大きくひとつ深呼吸。
「ゲンキ、お散歩行くよ〜っ!」
ピコーンと反応したゲンキが、うれしそうに足元でくるくる回る。
私はストレッチするみたいに軽く伸びて、リードを持って玄関へ。
夕暮れの空の下、神社へ続く道へと、ゲンキと一緒に歩き出した。
街灯がまだ灯ってないちょっぴり薄暗い道。
ゲンキとならんで歩くと、なんだか空気がひんやりしてる気がする。
静かな住宅街を抜けて、神社への小道に入るころ——
ふと、背中に視線を感じた。
(……まただ。)
足を止めて、そーっと振り返る。
……けど、誰もいない。
風が吹いて、木々の影が揺れてるだけ。
「……気のせい、かなぁ?」
でも、この感じ……覚えてる。
この前も夜道で、まるで誰かに見られてるみたいな、ぞわっとする気配がした。
ゲンキもピクッと反応してて、耳をぴんっと立てて、鼻をくんくん。
周りの様子を警戒してるみたい。
「……行こう、ゲンキ。」
私はそっと息をついて、気を引き締める。
誰かがいるなら、あとでもう一度考えればいい。
今は——
私とゲンキ、二人で行こう。
犬神神社へ——!