上手くいかないときは何しても上手くいかない
センパイに会いに二年の教室に向かってると廊下でばったり君島センパイに会った。
流行りのセンター分けに、爽やかな顔立ち。おまけにサッカー部のエースっていうステータス。この学校一スペックが高い人だ。
「あれ? 愛名ちゃんじゃん? 二年の教室になんか用?」
そう言って君島センパイは笑った。爽やかなルックスから放たれる笑顔に不覚にもドキッとしてしまう。声もいいな。穏やか。
っておい。私にはセンパイがいるんだ。
と、私は必死に首を横に振った。
「はい。ちょっと幸島センパイに用があって」
「ああ、幸島ね」
幸島センパイの名前を出すと君島センパイの表情が不快そうに歪んだ。
「ねえ愛名ちゃん。幸島とは関わらないほうがいいと思うよ。その…悪影響だと思うんだ」
「……センパイを悪く言わないでください。悪影響なんかじゃ絶対ないです」
少しイラッとして強気な口調で言った。いくら君島センパイでも好きな人の悪口は許せない。
と、廊下の奥でようやく私の会いたいセンパイを見つけた。君島センパイに一言入れて私はセンパイのとこに向かう。
「センパイー!」
私が声をかけると、センパイはこちらに気がついた。
「おう。学校これたんだな」
一つ質問いいですか? なんでそんなにカッコイイんですか?
まず切れ長な目。カッコイイ。よく見ると顔も小さいな。ちょっとくせのある毛も可愛いし、体型はスラットしてる。モデルみたい。
てかそのセリフは私のこと絶対気遣ってますよね? それって好きってことですか? 好きってことでいいんですか?
ヤバイ。もうめちゃドキドキしてる。頭もパニックだ。センパイが白馬に乗った王子様にしか見えない。
「おい。大丈夫かよ」
センパイが一歩こちらに近寄ってきた。
「やめて! 近寄らないで!」
胸がドキドキで張り裂けそうになって思わず叫んでしまった。
「あ、ああ、悪い」
センパイは気まずそうに謝る。
違う違う違う。何をやってるんだ私は。バカなのか? バカなんだ。
「違うんですセンパイ! 全然近寄ってきてもダイジョブです! むしろウェルカムです!」
「お前さっきからなんか変だぞ」
ヤバイ。変なやつだと思われてる。なんとか弁解しないと。
そう思った矢先さっきの私の叫び声を聞きつけてか隣の教室からぞろぞろと二年のセンパイたちが出てくる。
「幸島がまた愛名ちゃんをいじめてる!」
「愛名ちゃんから離れろ!」
「毎度毎度あのストーカー男め!」
みんな口をそろえてセンパイを責め立てる。
「違うんです! 今のは私が悪くて!」
声を上げるがセンパイを責める声にかき消される。
「ちっ! これが狙いか!」
そう言ってセンパイは私を睨んだ。
違う。違うんです。ああもうどうしよう! みんなやめて! お願いだからセンパイを悪く言わないで! それから私たちを二人きりにして!
結局誤解を解くことはできず、センパイと別れてしまった。
……その後は午後の授業だったけど、昼休みの大失敗のせいで全く集中できなかった。
ボーっとしているとなにかが飛んできて、私の頭にぶつかって机に落ちる。
飛んできたのは丸めたプリントだ。投げてきたのは方向的に私の隣の席のエリ。こっちに向かってプリントを見ろ的なジェスチャーしてくるし間違いない。
私はプリントを広げる。
『どうだった?』
そう書いてあった。どうやら私の恋を気にかけてくれてるみたいだ。
『うまくいかなかった。センパイと会うと緊張しちゃって余計なことばかりしちゃう』
と、書いてプリントを丸めて先生にバレないようにエリに投げる。すると少し経ってまたエリがプリントを投げてきた。
『実際会うとダメならDMで話しかけてみたら?』
プリントにはそう書いてあった。
盲点だった。センパイとはSNSを交換してるし、いくらでもそっちで話せる。しかもDMなら会話に猶予もある。
『エリ天才』
と書いてプリントを返すと、エリはこちらにグーサインを送ってくる。私の気持ちを込めてグーサインを送り、センパイに『今暇ですかー?』とメッセージを送った。
しかし返事が授業にくることはなく、鐘が鳴ってようやく返信がきた。
『授業中なんだから暇なわけないだろ』
これが返事だった。真面目か。でもそういうところもいいかも。
「どうだった? DM作戦は?」
DM作戦の発案者のエリが話しかけてくる。
「授業中はスマホ見てないみたいで今返事きた」
私がセンパイとのDM画面を見せるとエリは呆れたように「真面目か」とぼやく。私と全く同じ感想。
「んで、昼休みのこと教えてよ。緊張してうまくいかなかったって言ってたけど、どんな感じだったの?」
あんまり思い出しくないけど私はエリに話した。
「ふーん。まあ、あんたが緊張しすぎなのにも問題あるけど外野が邪魔だねぇ。そうだ! 一緒に帰ろって誘ってみたら?」
い、いい、い、一緒に帰る! そんなこと——
「していいの! 付き合ってないのにそんなことしちゃっていいの!」
「いいに決まってんでしょ? 水族館デートしといて今更何言ってんの?」
た、たしかに。そういえばあれデートだったんだ! なぜあのときもっと頑張らなかった私!
後悔に苛まれつつもセンパイにメッセージで一緒に帰らないかと、誘ってみた。
『勉強するから無理』
返ってきたのは冷たい返事。
ガーンって効果音が聞こえてきそうなぐらい頭を抱える。
……いや待てよ。
これ、センパイの勉強に付き合えば解決じゃん!