女子会
——神宮寺視点——
昼休みを告げるチャイムが鳴る。
机を囲う友人二名に私は重要事項プロジェクトKを告げることにした。
もしこの重要事項が外部に漏れれば、多くの人々の人生が狂うかもしれない。
だが彼女たちならきっと力になってくれる。
「私…恋しちゃいました」
「「「詳しく」」」
パパが死んで一週間が経った。最初はなにもやる気が起きなくて三日間家でボーっとしていた。でもこのままふさぎ込んでいたら、それこそパパに心配されると思って学校に復帰した。
友達と話すと元気が出た。気持の整理もついてきて……ついてくるとある気持ちにぶち当たった。
「愛名が好きな人って誰? やっぱり君島センパイ?」
そう聞いてくるのはギャルめの女の子。おっぱいがでかい。この子の名前は三田エリ。んで、エリが言ってる君島センパイは二年で一番イケメンって言われている人。
「違うよ。二年は二年だけど」
正直ちょっと前までは気になってた。でも今はあの人のことしか……
「愛名顔赤い」
そう指摘したのは眼鏡をかけた大人しそうな女の子。機械みたいな淡々とした声で何考えてるかよくわからないけどめっちゃいい子だよ。名前は音無鏡花。
エリと鏡花、この二人が私の親友だ。
「別に、赤くなってないし」
「かわい~。よっぽどその人のことが好きなんだね。で、誰なの? まさか幸島センパイじゃないよね。あんなド陰キャと……」
センパイを悪く言われて腹が立ち、私は思わずエリを睨んでしまう。
「え? 幸島センパイなの?」
私の視線で察したのか気まずそうにエリは言う。私は無言で頷いた。
「えー! やめといたほうがいいって! それより君島センパイにしときなよ。あたしの見立てじゃ脈ありだよ」
全く。エリはなんにもわかってない。センパイは君島センパイに負けないぐらいカッコイイ。てか世界一カッコイイ。
「私はお似合いだと思う」
鏡花の一言にまた顔が熱くなる。お似合い…かな。嬉しいな。
「そうだよ。愛名も幸島センパイのこと嫌ってたじゃん。なんでそうなっちゃたの?」
「実はね——」
私はセンパイが好きになったきっかけを家の話を交えないで二人に話した。
「へー。ドラマみたいな話」
「現実は小説よりも奇なり」
まあ、そういう反応にもなるよね。パパを安心させるために仲が悪いセンパイと偽造カップルになったら、がちで恋しちゃったなんて。
「幸島センパイって…長いな。これからは幸パイで」
なんかエリに略されちゃった。
「愛名は幸パイとお父さんが死んで以降会ってないの?」
鏡花までの幸パイ呼びだ。順応早いな。
「会ってないよ。ふさぎ込んでたとき、何回か連絡よこしてくれたけどね」
「気にかけてはくれてるみたいだね。とりあえずこくっちゃえば?」
「いやいやいやいやいやいや。ムリだよ! ムリ! 絶対ムリ!」
私は両手と首をブンブン振る。エリは何を言い出すんだ。そんなことできるわけない。
「あんたねぇ、もうちょい自分に自信持ちなよ。あたしが保証したげる。あんたは可愛い。現に今この学校で一番人気ある女子はあんたなんだよ。そんな子に告られたら男は骨抜きだよ」
私ってそんな人気だったんだ。悪い気はしない。自己肯定感が満たされる。なんだかいける気がしてきた。
「うん。私やってみるよ!」
「あんたなら絶対ダイジョブ! 応援してるよ!」
「やめといたほうがいい」
告る気満々の私とエリに鏡花の冷静な一言が刺さる。
「たしかに想いを伝えるのは大事。でも幸パイには有効じゃない気がする。ずっと前から思ってたんだけどね、幸パイは愛名を嫌ってるっていうより嫌おうとしてる感じがする」
「どゆこと?」
エリはキョトンと首を傾げる。
「幸パイは愛名のこと嫌ってないってこと」
なにそれ。めちゃくちゃ嬉しい。
「でも嫌おうとしてる」
「何で?」
「さあ、私にはそう見えるってだけ。でもそうだとしたら単純に嫌ってるよりも複雑だと思う。今は慎重にいくべき」
鏡花の言うことはややこしくてよく分からないけど、告ったらやばいかもってことはわかった。
じゃあどうしたらいいの!
「安心して。愛名が幸パイを好きになったみたいに、幸パイの気持ちも変わってきていると思う。少なくとも以前の幸パイならいくら落ち込んでるとはいえ、愛名に連絡なんてしない」
たしかにそれはそうかも。
「今はゆっくり距離を詰めたほうがいい。そうすれば少しずつ幸パイの気持ちも変わってくと思う。なにかあったら相談して。私たちが力になるから」
「そうだよ。幸せ報告待ってる」
二人は私にグーサインを送る。
泣きそうになった。なんていい友達なんだろう。この子たちになら、いつか私の家のことも——
「うん! とりあえずまだセンパイに一回も話しかけてないから声かけてくる」
昼休みはもうすぐ終わりそうだったが、私は二年の教室に向かった。
◇◇◇◆◇◇◇
「恋っていいですな~。あたしらもしたいね」
愛名の背中を見ながらエリがぼやく。
「そうだね。でも恋はするものじゃなくって落ちるものっていう。相手が見つかるまでは愛名の応援」
「応援いる? 愛名ならいけんでしょ?」
「たぶんそううまくはいかない。厄介なライバルがいる」
「ライバル? 誰?」
エリはそう聞き返したが鏡花は顎に手をやり、なにか別のことを考えてるみたいだった。
「ねえ、幸島幸斗って名前どこかで聞いたことない?」
「え? 入学までにってこと? うーん。そう言われてみればあるかも?」
「私はある。絶対どこかで」
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