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水族館は思ったより暗い

 天気は気持ちの良い青空が広がる快晴。穏やか日が差しており、少し熱をもった身体に冷たい風が心地よい。


 最高の散歩日和だが俺の隣には最低の女がいる。神宮寺だ。


 俺たちは今水族館の入り口の列に並んでいる。


 結局俺は神宮寺と水族館に行ってやることにした。

 もちろん、こいつのためじゃない。

 何度も繰り返すが俺はこいつが世界一嫌いだ。こいつにとって都合が悪いことが起こるなら、俺は全力でそれを応援する。

 ただ、断れば俺が悪者みたいになるし、付き合ってるのが嘘だとバレたら、こいつの指示がなくても神宮寺組の誰かが報復にくる可能性もある。

 精神衛生上よくなかったのと将来のリスクを考えた結果、しかたなく引き受けることにしたのだ。

 もう一度言っておくが、神宮寺のためじゃない。あくまで俺のためだ。


「どうですかセンパイ? オフの私は? 今日は結構気合い入れてきたんですよ」


 自信満々に言って神宮寺はその場でくるりと回る。

 黒いシャツに、シャツと同じクソ短いスカート。おまけに首にはチョーカーをしている。


 地雷系ってやつか?

 まあ、神宮寺は金髪だし、黒のコーデとマッチしてはいる。

 今のこいつと全く同じ姿の別人が今日のデート相手なら俺もウキウキになれただろう。

 だが忘れてはいけない。

 こいつの中身は毒を吐き散らし、人の言うことにはいちいち突っかかってき、おまけに自分の嘘で他人を振り回すような本当の意味での地雷女だってことを。


「お前以外がその服着てたら可愛いんじゃね?」

「それってセンスは良いってことですよね? 褒め言葉として受け取っておきまーす」

「お前ぐらい頭が空だとなんでもかんでも褒め言葉に聞こえんだな。羨ましいよ」

「そうやってすーぐちょっかいかけてくる。ホントはドキドキしてんじゃないですか〜?」


 いつもだったら煽り返してくるくせによっぽど自分のルックスに自信があるのか、今日の神宮寺には余裕がある。


 腹立つな。


「いくら私が可愛くてもちょっかいかけるのはやめてくださいよ。今日はラブラブのカップル的な感じでお願いします」

「おえー」


 ラブラブと聞いた途端一気に気持ち悪くなり、思わず嘔吐いてしまう。


「相変わらず失礼極まりないですね」


 呆れたように言うと神宮寺はこちらに手を伸ばしてきた。


「手、繋ぎましょうよ。その方がカップルっぽいでしょ?」


 その瞬間神宮寺が別人に見えた。真っ白いワンピースを着た女の子。ただし顔にはモヤがかかっている。

 嫌な汗が頬を伝う。


 なんでお前が__


「どうしたんですか?」


 その声で我に返った。目の前にいるのは神宮寺だ。


「……別に」


 逃げるように視線を逸らして俺は神宮寺の手を握った。


 帰ったら入念に手を洗おう。


 待ち時間を終えてようやく水族館に入館できた俺たちを出迎えたのは水槽のトンネルだった。上にも下にも両サイドにも魚がいる。

 幻想的な空間に俺は魅入っていたが、神宮寺はなんだか様子がおかしかった。体調が悪いような、イライラしているような、とにかく良い状態じゃないようだった。


「どうした? ラブラブなカップルを演じるんだろ?」


 よく見ると暗がりでもわかるぐらい神宮寺の顔は真っ赤だ。繋いでる手も小刻みに震えている。


「わ、わかんないです。自分から言い出しといてなんですけど、男の人と手を繋ぐとか初めてで。緊張してるみたいで」

「俺相手に緊張することねぇだろ」

「……わかってますよ。センパイ相手に緊張してる自分に腹立ちます。でも…こういうのに耐性ないんですよ」


 見た目ビッチのくせに、なんで男に耐性ないんだよ。調子狂うな。


 俺は神宮寺から手を離した。


「無理すんな。別に手なんて繋がなくてもカップルっぽさは演出できんだろ? とりあえず今日は楽しむことだけ考えてろ」

「は…はい」

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