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タキサイキア現象

 二話続けてうち、笹原視点。


 今日はずっと幸島のことを観察してた。あいつの好きな人が気になったからだ。直接聞いてやろうとも思ったけど、告った手前気まずかった。


 幸島が一日の中で接触したのは二人。


 一人目は我らがお嬢。最初はいい感じで話してたのになぜかケンカになり、挙句の果てにはお嬢の親衛隊が駆けつけて最悪の事態に。

 まあケンカの理由は検討つくけど。たぶんいつものやつだ。お嬢が照れて幸島に強く当たって、それに幸島がキレて、あとはわかんでしょ?


 ……全く。お嬢はなにやってんだかなぁ。


 二人目は相川。フツーに楽しそうに話してたな。お嬢には悪いけど、お似合いだと思った。


 で、学校も終わってうちが何してんのかっつーと、幸島の後をつけてる。

 幸島の好きな人はお嬢でも相川でもないかもしれない。でもうちの学校には二人以外に幸島と絡みある女子はいない。


 となると他校の女子だ。


 もしそうならその子と放課後会うかもしれないっしょ? だから後をつけてるわけ。まあいないかもしれないけどね。

 にしてもちゃんと見ると幸島イケメンだな。鼻筋通ってるし、顔立ち整ってる。暗いからなしだけど。おっと。こんなこと言ってたらお嬢にキレられる。


 ブー!


 そんなことを考えていると心臓が飛び跳ねるようなクラクションが鳴った。

 音のほうを見ると私に迫るトラックが。

 車の運転席にいるオッサンはめちゃくちゃ焦ってる。もしかして止められないのか。


 てかうちやばいじゃん。このままじゃはねられる。


 幸島の観察に必死で全然気づかなかった。

 トラックの動きがスローに見える。でも身体は微動だにしない。


 こりゃ終わったな。まあいいか。うちが死んで悲しむやつなんていないだろうし。


 すると突然身体が動いた。誰かがうちを押したんだ。


 振り返るとそこには幸島が。幸島は……


「……え?」


 鈍い音が鳴った。


——芝山視点——


 俺を引き取った日、親父さんはこう言った。


「お前の父親はお前が産まれる前に見ず知らず女の子を救うために迷わずトラックに突っ込んで命を落とした。母親はお前を産んでから必死に働いて、無理がたたったのか病気になって死んだ」

「そうだったんですか」


 俺は物心ついたころから施設にいた。自分の親のことなんて知りもしなかった。


「ああ。つらいだろう。でも知っておいてほしかったんだ。お前の親は決して無責任な人間なんかじゃない。他人のために命を張れる立派な親だった」


 言葉も交わしたことはなかったが、俺はあの日からもういない親の背中をずっと追ってる。


 親父さんの傍には小さな女の子がいた。親父さんの足元に隠れておびえたように俺を見ていた。


「その子は?」

「ああ。俺の娘の愛名だ。仲良くしてやってくれ」


 ちらりと見える彼女の顔を見た途端、叫びたくなった。

 可愛すぎる。出会ったばかりだったが、俺はこの子に命を捧げようと誓った。


 幸島が笹原をかばってトラックにはねられた。幸い、命に別状はないらしい。

 俺の足は自然と病院に向かっていた。


 奴の病室の前には今にも泣きだしそうな笹原がいた。


 良かった。怪我はないみたいだ。


「芝山サン…うち……」

「なにも言うな。お前が無事でよかった」


 それだけ言って奴の病室に入る。


 奴は頭に包帯を巻き、足をギブスでガチガチに固定され、ベットに横たわっていた。


 頑丈な男だ。


「あ? なんでお前が?」


 俺に気づくと、奴は鬱陶しそうな顔で俺を見る。


「……貴様の過去を詮索した件、すまかったな。誰にも話すつもりはない。それだけ言っておきたかっただけだ」


 幸島を認めたわけじゃない。だがお嬢様の恋路に口出しするのは控えるとするかな。


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