好きな人
——笹原視点——
つーわけで前の話でちょろっと登場した神宮寺組の組員、笹原でーす。まずは自己紹介。いちおう女で高二。趣味はイケメン鑑賞。よろしく。
うちの役目はお嬢の安全の確保。お嬢のことは嫌いじゃないし組には世話になってるから、責任持ってお嬢の身は守るけど、最近気の進まない新しい仕事ができた。
それはお嬢が幸島に関わんないように見張ってとくこと。芝山サンからの命令だ。
どうしたもんかねぇ。実は最近、お嬢から恋愛相談を受けてる。もちろん幸島のこと。お嬢は本気であいつに惚れてる。
幸島がクソ男だったらうちも心おきなく邪魔できんだけど、悪い奴じゃなさそうだしなぁ。
まあでも仕事だし、やるっきゃないかねぇ。
お嬢ごめんね。
◇◇◇◆◇◇◇
「うちと付き合ってくんない?」
「は?」
ここは校舎裏。目の前には首を傾げる幸島。
いきなりどした? って思うかもだけど見ての通りだ。幸島に告った。
これがうちの作戦。名づけて、うちが幸島と付き合って、お嬢に幸島を諦めさせよう!
男はダラダラ引きずるけど、女は切り替えが早い。
幸島が誰かと付き合っちゃえば、お嬢も切り替えて他の男にいくっしょ。その誰かをうちがやるのは幸島に脈ある女子が他にいないから。
うちの見立てじゃ同じクラスの相川も幸島のこと好きそうなんだけど、なんかあの子不器用で全然進展しなそうだからうちが一肌脱いだわけだ。
まあ間違いなくお嬢には嫌われるだろうけど、しゃーない。
幸島は悪い相手じゃないけど、良い相手でもない。正直お嬢と釣り合ってないし。
あの人にはもっと良い人がいる。
「返事は?」
「ごめん。笹原のことよく知らないし」
ちぇ。陰キャクンだから告れば落ちるって思ったけど、そこまで甘くなかったか。冷静に考えたらうちなんかより百倍可愛いお嬢が落せてないんだからいきなりじゃ厳しかったな。
でも今は好意が伝わったらオッケー。
「そっか。こっちこそいきなりごめんね。でもうち、諦める気ないよ。よく知らないから付き合えないっ
てことは知ってくれたらワンチャンあるってことでしょ?」
一撃で仕留めるつもりだったけど、それがダメなら長期戦だ。徐々に好きにさせてやるよ。
「悪い。他に好きな人がいるんだ」
なっ!
マジかよ。噓だろ。
幸島に振られた。本気じゃなかったけどショックだわ。
てか好きな人いんのかよ。もしかしてお嬢! おめでとうじゃん! 芝山サンには悪いけど、もうこのままハッピーエンドでいいわ。
……いやいや待て待て。相川って可能性もあるぞ。放課後ずっと一緒に勉強してるし。さっきも言ったけど相川の方も幸島に気がありそうだし。
どっちだ? お嬢か相川。
気になる。恋愛漫画読んでる気分。うち漫画好きなんよ。
あーでも他校の女子って可能性もあるな。
もう仕事なんて関係ない。幸島の好きな人が知りたい。




