部活は終わった時が一番楽しい
ダンスメンバーにエントリーして一日が経った。
今日から本格的な練習の始まりだ。私とエリと鏡花は放課後、体操服に着替えて集合場所の体育館に向かった。
今日はセンパイと話してない。例の噂があるからだ。
私は噓でもセンパイと付き合ってる気がして悪い気はしてないけど、センパイがめちゃくちゃ嫌がってる。この状態でセンパイに会いに行けば嫌な顔されるのは間違いない。
だから噂が収まるまでは我慢。
……まあ、嫌がられてる時点で脈はないのかもしれない。ていうかない。
でも諦めない。
絶対私を好きにさせてやる。
その気持ちを胸にダンスの練習が始まった。
まずは簡単な準備運動と筋トレ。腕立てしたり、腹筋したり、ランニングしたり、最初は痩せそうだと思ってちょっとワクワクしたけど、ヤバイ……もうきついかも。
それでようやく振り付けの練習が始まる。
「神宮寺! もっと腕伸ばして!」
「ステップ違う!」
「真面目にやってよ!」
——めっちゃ怒られた。でも残念ながら私が悪い。自分でもわかるぐらい動きがダメすぎた。ごめんなさい。これでも真面目にやってます。
休憩時間、私は体育館の隅っこで三角座り。見ての通りへこんでる。
「神宮寺って子、ダンス下手すぎでしょ」
「正直やめてほしいよね。ああいう子が一人いると私たちの質も下がるし」
周りから聞こえてくる言葉が胸に刺さる。
なに言われてもしかたない。実際足引っ張ってるし。
「愛名、大丈夫ー?」
「愛名は動きにメリハリがない。意識すればマシになる」
エリと鏡花が私のとこまで来てくれる。二人も練習で疲れているはずなのに。友達っていいな。
「うん! 私頑張るよ!」
「うんうん、いいねぇ。元気があって」
「それでこそ愛名」
休憩時間が終わり再び練習時間がやって来る。二人のおかげでちょっぴり元気を取り戻した私ははりきって練習に挑んだけど、やっぱりたくさん怒られた。
◇◇◇◆◇◇◇
私が何度も止めてしまったダンスの練習もようやく終わる。
後片付けは三年生がやるということで一、二年は解散となった。でも私は足を引っ張りまくったから、ちょっとでも役に立とうと、三年生のセンパイたちを手伝うことにした。
「ねえ、神宮寺」
モップをかけているとセンパイの一人が話しかけてくる。この人は姫島センパイ。このダンスチームのリーダー。練習中、特に厳しかった人だ。というか思い返してみれば、この人にばっかり怒鳴られてたな。
また怒られるのかな? 怖い。
「ごめん。厳しく言い過ぎた。私ダンスの練習になるとついつい熱くなっちゃうんだよね」
「はえ?」
予想外のセリフに間抜けな声が出てしまう。
「そだよー。姫は熱くなりすぎ」
「初心者なんだからもっと優しく教えてあげないと」
他のセンパイたちが口々に言う。練習のときはピリピリしてたのになにこの和やかな空気。部活終わりの更衣室みたい。私部活やったことないけど。
「全然! 私こそ運動音痴で申し訳ないです」
手首をブンブン振りながら私も謝る。
「てか姫島センパイ、ずっと思ってたんですけどめちゃくちゃ綺麗ですよね!」
姫島センパイは眉目秀麗って言葉が似合うきれいな顔立ちをしていた。相川凜と同じ系統かな。肩まで伸びた髪にはウエーブがかかっていて、そこから色気が滴っていた。
「そ、そう? 神宮寺に言われると嬉しい……」
姫島センパイは顔を真っ赤にして視線をそらす。
えげつないぐらい可愛い! 私も今度これセンパイにやってみよう!
「愛名でいいですよー。神宮寺って堅苦しいでしょ?」
「わかった。じゃあ私のことも雪って呼んで」
「了解です!」
私と雪センパイが話していると他のセンパイたちも声をかけてきた。
「私も愛名ちゃんって呼びたーい!」
「神宮寺って噂通りほんとに可愛いね」
「その代わり絶望的に運動音痴だけどね。天は二物を与えないんですな」
「ちょっと怒りますよ!」
こんな具合でセンパイたちと仲良くなった。センパイたちと話していて思ったことがある。
あの人にも愛名って呼ばれたい。今度それとなく言ってみようかな。いやムリだ。ムリムリ。絶対照れて言えない。
そんな葛藤をしている間に片づけは終わった。もうへとへとだ。
「愛名、先帰ってていいよ。私らはもうちょい残るから」
「え? まだ帰んないんですか?」
空はもう真っ暗。もうクタクタのはずだし、明日も学校なのになにするんだろう?
「みんなでダンスのプログラムの話し合い。私ら今年で最後だからさ。悔いが残らないようにやれることはやっときたいんだ」
そうだ。私はまだ入ったばっかで自覚ないけど、三年生にとって今年の体育祭は最後の体育祭。
『頑張ってるやつってカッコイイよな』
センパイ、今実感しました。
「私足引っ張らないようにめっちゃ練習します。だから最高の思い出にしましょうね!」
この瞬間私の中で何かが変わった。何が変わったのかは自分でもよくわからない。でもより一層やる気になった。
 




