設定はマジである
映画が始まるまでの時間潰しのため、映画館近くのカフェを回ってみたが昼どきということもあってか、どこも満員だった。
ショッピングという案も出たけど、お互い特にほしいもも気になっているものもなくて却下。
それで辿り着いたゲームセンターだった。
映画館の近くに三階建ての広いゲームセンターがあった。ここなら時間潰しににもってこいだろう。
一階はクレーンゲームコーナー。フィギアやでかいぬいぐみ、お菓子などが景品になっている。
ぶらぶら回っていると相川がシンプルなクマのぬいぐるみの前で足を止めた。キラキラとした瞳でぬいぐるみを見つめ、自分とぬいぐるみを隔てるガラスに手を置く。
「それほしいのか?」
「い、いいえ」
我に返ったようにガラスから手を離して相川は首を振る。
「そうか」
俺はまた歩き始めるが、相川の足は動かない。やっぱりクマのぬいぐるみを見つめている。
「やっぱほしいんだろ?」
「……うん」
彼女は恥ずかしそうに俺から視線を外す。
「意外だな。相川こういうのが好きなんだ」
「絶対そう言われるから認めたくなかったの。私だって女の子よ」
「あいあい」
俺はスマホで相川が興味津々のぬいぐるみとよく似たものをネットで探す。
「いいの見つけたぜ。これ。似てんだろ? 値段千円ちょっとだし、クレーンゲームで取るよりよっぽど__」
と、ネットで見つけたクマのぬいぐるみを見せて、そっちを買うように勧めてみたが、相川は俺をジトーっとした目で睨む。
「面白みがない人」
その言葉が俺に火をつけた。
「……わかったよ。取りゃいいんだろ。取りゃ」
「自信あるの?」
「こう見えても俺はこの手のゲームは上手すぎてな、地元じゃアームって呼ばれてたんだぜ」
「変なあだ名ね」
俺はクレーンゲームの台に百円を入れる。五百円入れたら六回プレイできると書いていたが、一回で取れば関係ない。
クレーンゲームの基本。ぬいぐるみとかの場合は物そのものじゃなく、タグの部分を狙う。
これさえわかっていれば楽勝だ。
一回目、タグにかすりもしない。
二回目、同じような感じ。
三回目、もうタグなんて無視して取りにいったらアームのパワーが足りず、途中でクマのぬいぐるみが落ちてしまう。
四回目……
五回目……
「さっきから何してるの? アームさん?」
「うるせぇ。集中させろ」
その後も何十回も粘ったが……取れる気がしない。もうプライド捨てて最初から五百円突っ込んで六回プレイしてんのに取れない。クソ。
「私がやってみようか?」
何度やっても取れそうにない俺を見かねてか相川がそんなことを言い出した。
「おいおい相川さんよぉ、素人のお前に何ができんだ? 玄人の俺がこんなに苦労してんだぜ。これはお前の得意な勉強とは違うんだ」
「腹が立つ言い方ね。良いから、一回やらせてよ」
俺はしかたなく相川にアームの操縦を譲った。
どうせ無理だ。クレーンゲームにビギナーズラックはない。むしろビギナーからお金を貪るのがこの悪徳マシーンの手口である。
相川が操縦するアームはぬいぐるみをしっかりと掴み、そのまま離すことなく景品を出口まで運んだ。
え? 嘘でしょ?
「取れたけど?」
「お、おう。そうだな。取れたなぁ。まあでもたしかアームって一定の資金を入れたら強くなるみたいな設定があるんだよ。だからたぶん、ちょうどアームが強くなったんじゃね? あと言ってなかったけど、俺今口に口内炎できてんだよね。それとやっぱここは地元と違うし、アウェイだし。あと__」
「言い訳見苦しいわよ」
……。
「ああ、わかったよ! 認めるよ! 認めます! お前のが上手い! はい、ぬいぐるみ」
と、景品口からぬいぐるみを取り出して相川に渡す。
「いいの? 幸島君のお金で取ったものでしょう? いただけるのならお金出すわ」
「いらねぇよ。俺だって男の子だ。カッコつけさせろ」
「うん。ありがとう」
クマのぬいぐるみをギュッと抱きしめて相川は嬉しそうに微笑む。
こういう顔もするんだな。相川って。
「でも本当にアーム強くなる設定はあるから」
「まだ言うの? それ?」
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