一方的に勘違いしているときもある
しんどい。マジでしんどい。
私の心境とは真反対の綺麗なオレンジの空の下でため息をつく。
今日はなんにもうまくいかなかったな。昼休みにはセンパイに迷惑かけるし、勉強会では勝手に傷ついて早々と帰っちゃったし。
センパイと相川凛は両想い。私が入る余地はなさそう。それにたった一日で心がくたくただ。
……諦めよう。たぶんセンパイとは縁がなかった。
とぼとぼ歩いていると後ろから私を呼ぶ声がした。
その声を私が間違えるはずがない。振り向くとそこにはセンパイがいた。走ってきたのか息を切らしている。
「センパイ? なんで? 相川凛は?」
「なんでフルネーム? 相川は体育祭の委員の会議があるんだって」
ドクンと胸が高鳴り、胸にへばりついていたドロドロが吹き飛んでいく。
やめてくださいよ。こっちはもう忘れようとしてんのに。
「あの人を待ってなくて良かったんですか? 別に私に気を遣わなくても良かったのに」
「気を遣ったわけじゃねぇよ。お前に話もあったしな」
「じゃあDMとかでしてください。今日は一人で帰りたい気分なんです」
「なんで怒ってんだよ。急に勉強会参加したいとか言い出したり、今日はなんか変だぞ」
誰のせいだっての。
「別に怒ってませんよ。ただ相川凛との関係を先に言っといてほしかっただけです」
「相川との関係? ああ、相川と勉強するの知らせとけってことか」
「違います……」
しらばっくれやがって。
「相川凜といい感じなんでしょ? 私は……私は……」
「はぁ? 相川とはお前が思ってるような関係じゃねぇよ」
「じゃあなんで私と水族館行ったこと隠したんですか?」
「お前の家のこと隠すため」
え?
「ほら、相川、俺がお前を連れてきたこと不思議がってたし、水族館に一緒に行ったなんて言えば俺らのこと聞いてきたかもしれないだろ。俺のことだ。うっかりお前の家のことを話しちまうかもしれねぇ。だから適当にごまかしたんだよ」
センパイ…私のこと考えてくれてたんだ。それなのに私……
「相川の方も友達としか思ってねぇよ」
それはない。あいつは絶対センパイを狙っている。
「じゃあ俺の話いいか? 最初お前が俺に一生干渉しないこと条件に、噓だけどカップルになったよな?」
そういえばそうだった。
あのときはパパのことで必死だったな。
なんであんな約束しちゃったんだろ。
私って本当にバカ! バカぁ!
「……そうでしたね。わかりました。もうセンパイには関わりません」
いやだと叫びたい気持ちをグッとこらえて、私は声を振り絞った。
これでいい。
このままだと私も苦しいしセンパイにも迷惑かけてしまう。
気持ちを断ち切るちょうどいい機会だ。
ああもう! 泣きそう……
「違う。あれ、なしにしようと思ってな」
はい?
「俺も親はいない。両方な。お前の気持ちはよくわかるつもりだ。お前は一人じゃねぇ。なんかあったら頼れ」
この人はズルい。人があきらめようと思ってんのに、そんな優しい言葉かけてきやがって。
ムカつく…ムカつくぐらい好き。
「勘違いすんなよ。お前のパパに頼まれたからしかたなくだ。化けて出てこられても困るしな」
出た。センパイのスーパー言い訳タイム。これ意味あるの?
「……じゃあ遠慮なく頼りにします。でもセンパイは私の気持ち全然わかってませんよ。まあわからせてあげるんで大丈夫ですけど。私を本気にしたんだから覚悟してくださいよ」
「なんの話だよ」
センパイはよくわかってないようだった。
いいですよ。今はなんにもわからなくて。
もう決めた。この先どんだけ苦しくても、相川凜みたいなライバルが出てきても、私はセンパイを諦めない。
この想いを伝える日まで恋愛という名の戦争を戦い抜いてやる。
「んじゃなあ。気をつけて帰れよ」
そう言ってセンパイは踵を返す。
「ちょっと待ってくださいよ! 一緒に帰りましょうって!」
「今日は一人で帰りたい気分じゃなかったのかよ」
「気が変わったんです。帰りましょうよ!」
色々あったがセンパイと一緒に帰るという当初の目的にようやくたどり着いた。
ん? たどり着いたんだよな?
ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。私今センパイと二人っきりで帰ってる。冷静に考えたらヤバイ。ヤバすぎてヤバイしか出てこない。
当たり前だけど、横向いたらセンパイがいる。
し、幸せだぁ! 手握りたい。腕にしがみつきたい。ぎゅってしたい。
……いやいやいや、落ち着け。押さえろ私。
「そういや勉強会どうだった? 相川教えんの上手いだろ?」
センパイの口から女の名前が出てくるのはもやっとするけど、相川凜の指導能力は先生顔負けだ。
「はい……」
悔しいけど認めるしかない。
「一年のときから同じクラスなんだけど、あいつスゲーんだよ。誰よりも努力しててさ。頑張ってるやつってカッコイイよな」
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