どこにでも嫌なやつはいる
嫌いなやつっているか?
俺にはとびっきりのやつがいる。
「なぁ…相川。ここどうすんの?」
「そこは…まず因数分解をして……」
「へー。なるほどな」
こんな具合で俺が勉強で行き詰まったら手助けしてくれるのが相川凛。名前からしてわかるだろうけど女子だ。
髪が長くて清楚っぽくておまけに美人。でも、顔立ちがしっかりしていて迫力があるのと、私に関わらないでオーラがこれ以上ないほど出てるせいでちょっと近寄り難い。本人にそういう意識はないらしいけど。
ああ、もちろん。相川は嫌いなやつじゃないぜ。彼女は俺の唯一の友達だ。
「さすが相川。わかりやすい」
相川は成績上位者。超優秀なのである。
「幸島君の飲み込みが早いからよ」
幸島は俺の名前。幸島幸斗。名前に幸せが二つも入ってるんだ。覚えやすいだろ?
「嬉しいこと言ってくれんじゃん。んじゃ、俺はそろそろ帰るわ。今日もありがと。お疲れ様」
「私こそ。人に教えるのって自分の勉強にもなるから」
俺は黒のリュックサックに教科書を詰め込んで席を立った。
「ねぇ……幸島君」
「ん? 何?」
「……ううん。なんでもない」
相川は首を横に振りながら言った。でもなにかに悩んでいるような複雑な表情を浮かべていた。
「そっか。まあ…なんかあったら言えよ」
無理に聞き出すのもどうかと思ったから、とりあえずいつでも相談しやすいようにそれだけ言っておくことにした。
「ありがとう。また明日ね」
「おう。また明日」
相川と別れを済ませて俺は教室を出た。野球部かサッカー部か、気合いの入った声がうっすらと聞こえる。
俺はこの学校が嫌いじゃない。荒れているわけでもないし、向こうはどう思ってるかわからないけど相川という友達もいるし。
一つだけ不満があるとすると__
廊下を歩いていると、この世で一番会いたくない人物に出くわしてしまう。
金髪ボブで、あどけなさが残る愛らしい顔立ちした女。こいつの名前は神宮寺愛名。一個下の後輩で俺の不満そのものだ。
「げっ!」
思わず声を上げると神宮寺は睨んでくる。
「人の顔見るなり…げっ…なんですか?」
甲高い声が耳に響く。最悪だ。よりにもよってこいつに会うなんて。
「待て待て。やめよう。このままいったら絶対喧嘩になる。今日のところは会わなかったことにしようぜ」
俺はこのクソガキに大人の提案をした。こいつとの出会いはたしか今みたいに廊下ですれ違ったとこからだ。
なにが原因かはもう覚えてないが、喧嘩になった。
それ以降こいつとは顔を合わせるたびに揉めている。
「ふん! だいたい…げっ! はこっちのセリフですよ。センパイの陰気な顔が視界に入って…不愉快です」
かっちーん。俺が大人の提案をしてやったのにこいつ。
「あーあー…これだからクソガキは。こっちが大人の対応してやってんのに。だから面はガキ臭いままだし… ちびなんだよ」
「クソガキぃ? 一個しか変わらないですよね? 一年多く生きてるだけで横柄な態度。こんなセンパイにはならないようにしよっと」
「俺が言ってんのは精神年齢のことだ。俺が十七だったらお前は五歳だ。幼稚園児。よく横柄なんて言葉知ってたなぁ。カシコイでちゅねー」
「私が五歳だったらセンパイは赤ちゃんですかね。あ! そういえばセンパイ…教室では全然しゃべりませんよね? それこそ赤ちゃんみた〜い。しゃべり方教えてあげましょうか?」
その後も神宮寺と揉めていると何人かの生徒が集まってきた。
「また愛名ちゃんがいじめられてる!」
「やい! 幸島! 愛名ちゃんに近寄るな!」
みんな口々に言うが、一貫してるのは一つ。俺が悪者だってこと。
神宮寺愛名は可愛らしいルックスと、愛嬌ある振る舞い、それから誰とでも仲良くできるコミュ力で、アイドル的な人気を博している。
そんな彼女がインキャと揉めてたらこの通り。みんなアイドルの味方ってわけだ。
俺はイライラを表すように舌打ちして逃げるようにその場を去った。
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