2−39 2年の魔獣討伐演習(4)
旋回して一度距離を取った魔獣は、より高い高度を飛んでいる。
こちらの攻撃がどちらも300ft以下の高度で行われたから、
攻撃には高度による限界があると思っているんだろう。
でも、高度は問題じゃない。
距離と飛行経路の予測が問題なんだ。
旋回速度からこちらの上空の飛行経路を予測し、
魔法子コントロールの網を張る。
もうなりふり構っていられない。
両手を上空に向けて兎に角、魔法子を多くコントロールする。
奴の今の高度、400ftとその下300ft、200ftにも網を張る。
ここまでして奴が降下滑空する前に400ftでアイスボックスで固める。
勿論、奴は降下して速度を得て旋回しようとする。
だから300ftで再度アイスボックスで固め、
羽に付着した氷を厚くし、羽の滑空性能を下げてやる。
氷が付着してもはや滑空機能を半ば以上失った奴は落下速度を下げられない。
そして200ftで全身をアイスボックスで固める。
相手は風属性だから氷を溶かせない筈!
滑空も出来ず、奴は私の近くに落下した。
木を4本も薙ぎ倒して墜落したのだ。
だが逆にアイスボックスの氷が奴を守った。
氷漬けの魔獣は飛竜で、その全身は健在だった。
この飛竜の風魔法は羽に空気を流して揚力を発生させる物の様で、
風魔法で浮上する、等という事は出来ない様だ。
だが、口の周りに魔法子が集まっている。
伝説では飛竜は火を吐くという。
それは火魔法なのだろう。
それを許して泥仕合にする訳にはいかない。
背嚢に付けてあった短槍を掴む。
飛竜の比較的柔らかいと思われる首の周りの氷を一部だけ溶かし、
強化魔法まで使って短槍を刺す。
ほんのちょっとしか表皮を傷つけられなかったが、
無理やり凍らせるしかない。
兎も角周りの魔法子をかき集めて短槍の先に氷結魔法を付与し、
飛竜を冷却する。
ほんの僅かな傷でも、首周りはやはり表皮が薄い。
何とか体内冷却を始める。
当然飛竜の頭部周囲の魔法子を奪い続ける。
でないと自爆覚悟の火魔法を飛竜に使わせる事になる。
内部の喉から頭部を凍らせようとするが、
何しろ飛竜の表皮の魔法防御が強力だ。
周囲の魔法子を根こそぎ使っているのに中々頭部まで凍らない。
漸く口の周りの魔法子の集まりが霧散した。
冷えすぎた脳が活動を停滞し始めたのか、
そもそもさっきから氷漬けで呼吸ができない事が効いたのか。
再度強化魔法を使って飛竜の首を更に傷つける。
全然傷つかない…
私ったらか弱いから、と誰も信じてくれない言い訳を心の中でする。
更に強めの強化魔法を使って短槍を突き立てる。
ちょっと魔法の通りが良くなった気がする!
後は冷却に専念するだけだ。
何とか頭部は凍った。
もう一度強化魔法で短槍を突き立てる。
よし、今度は少し刺さった。
これで胴体も凍りつくだろう。
物音が収まって暫くしたからか、護衛騎士も生徒達もやってきた。
アーサーがまず声をかけてくれる。
「エレノーラ、大丈夫なのか!?」
「頭部は凍ったのでもう動かないと思います。
全身凍らせるので少々お待ち下さい。」
全員が安堵の息を吐く。
護衛隊長が尋ねる。
「どうやって倒したんだ!?」
「アイスボックスで飛べなくしただけです。」
冷凍に専念しているフリで子細は語らない。
言いたくないんだよ。
というか本当に凍らないんだよ、表皮の僅かな傷を通しているから。
「兎に角、狼煙を上げて回収班を呼んだ方が良いと思いますが…」
「分かった。」
マイクが言い出す。
「俺、生きてる飛竜って初めて見るよ。」
生きてる内に見えたのか!?
疑問のジト目でマイクを見る。
「な、何だよ?」
「生きてる内に見えました?」
「え、今見てるじゃん。」
「死んでますよ?」
ギルバートもアーサーもマイクを見る目が笑ってる。
「お前、凍らせるのに忙しいんだから細かい事に拘るなよ。」
「はーい、死体を凍らせるのに忙しいでーす。」
ギルバートもアーサーもマイクの肩を叩いてくすくす笑っている。
ああ、平和だ。
でも、今回の事は二重の意味でランディーに怒られそうだ。
凍結を完了した後、さすがに地面に座り込んだ私の背嚢を
アーサーが下ろしてくれる。
「すみません。」
「良いんだ、大変だったから疲れてるよね。」
サイドポケットに突っ込んだ水筒を渡してくれる。
一口飲むと、喉が乾いていた事に気づく。
どっと疲労が全身に襲ってくる。
その時、回収班がやって来て総長が声をかけてくる。
「エレノーラ、大丈夫か!?」
「疲れているだけで怪我はありません。
大丈夫です。」
疲れた声になってしまった。
聞かれたくない事に答えたくないという気持ちもこもっている。
「こいつは何で、どうやって倒した!?」
「こいつは飛んできた奴で、
100ft高度でアイスボックスで固めて落としました。
首筋に短槍で傷を付けて、そこから全身凍らせました。
もう生きてない筈です。」
100ft離れての魔法発動は出来ない事はない。
ランディー位の魔導師なら、の話だが。
もちろん、総長の意見は違う。
飛行中の飛竜を凍らせて落とす等という芸当を出来る魔導師など、
伝説の魔導師でも無理だろう。
確か最期に飛竜を撃退した伝承では弓矢と火魔法で押し返しただけだ。
しかもこいつがこういう言い方をするのは言いたくない事を
言わない時だ。
シンシア嬢について聞いた時と同じ様に拒絶の姿勢を感じる。
戻ってから聞くしかないか。
一行はそのまま同行して演習の終着地点に移動した。
ポイントが消されたみたいです。
残念ですが、ご期待に応えられずに申し訳ない、
と思っています。
というタイミングで感想があり、
こちらはポジティブな感想でした。
本作に期待する物の違いでしょうが…
1年の討伐演習同様、今回も一応重要イベントではあるのです。
今後の進展を見守って頂ければ幸いです。