2−38 2年の魔獣討伐演習(3)
昼休憩の為の建物付近に魔獣はいなかった。
小高い丘の上にあるため、魔獣が身を隠す場所が少ないからだ。
回収部隊が残していったズンドウに入っていたスープを
温めてもらって飲む。
道中は林の間を通るから少し温度が低いから、
温かいスープがありがたい。
マイクが一言漏らす。
「簡素な昼食も運動後だとありがたいな。」
「空腹は最高の調味料と言いますので。」
ギルバートは不服そうだ。
「もっと量を食べたいんだがなぁ。」
「トイレに行きたくなるから少なめにするんだよ。
魔獣がいる時にもよおしたらどうするんだよ。」
「分っちゃいるんだけどなぁ。」
後続組が到着し、情報交換をしてから出発になる。
第2班には10頭を越える群れは来なかったらしいが、
数が多く、護衛騎士達と協力して何とか倒しているとの事だった。
つまり標的は第1班の様だ。
何度も溜息を吐くとメンバーの士気に関わるので、
苦笑いに留める。
午後も10頭程度の群れがいくつか感じられる。
大物は今のところ見当たらない。
2つの群れを狩った後、休憩地点にて休息を取る。
このままなら予定より早く終了するだろう。
アーサーに問われる。
「残りの群れはどうだろう?」
「3つある様ですけど、いずれも10頭以下と思われます。
何とかなりそうですね。」
「大きいのが来なければ問題なさそうだね。」
休息後に最初の群れを狩った後に、
黒狼などとは比べ物にならない位早い魔獣が9時方向から接近して来た。
「全員木陰に隠れて!
空から魔獣が来ます!」
「空って大鷲か!?」
「そんな魔力じゃないです!
危険なのでなるべく太い木にしがみついて下さい!」
大きな鳥類が大木に特攻をかければ羽を傷つけ飛べなくなる。
当然木の幹の側や太い枝の下が安全地帯だ。
とは言え、相手が獲物に近づく前に攻撃して
目標を私に変えさせないといけない。
それともこの距離から相手が判別できる目標とは私なのか。
兎も角、闇雲に林の中を走って飛んでくる相手に少しでも近づく。
この速度の相手を打ち漏らしたら
どう考えても相手に餌をあたえてしまう。
人前で使いたくないけど切り札を使うしかない。
ランディーはミスリードをしている。
彼なら分っている筈だ。
魔法を長く伸ばす件である。
私の発言が発端だとしても、
水の魔獣が魔法子だけをコントロール出来る事を知った後なら、
あの魔獣が私を調べる為に伸ばしたのはミストの魔法じゃない
と気づく筈。
つまり、魔法子を上手くコントロールしてその先で魔法を使う事で
とんでもない距離で魔法を使えた訳だ。
これが使えれば何百人に追われても怖くない。
2マイル以上先で攻撃してしまえば良いんだから。
とりあえず皆から100ft離れた。
魔獣との距離はもう2マイルを切っている。
練習では地面の上の魔法子を道に沿ってコントロールを伸ばしてきたが、
ぶっつけ本番で空中の魔法子をコントロールするしかない。
空中の魔法子に対し細くコントロールを伸ばし、
1マイル先と0.5マイル先で蜘蛛の巣状にコントロールを広げる。
1マイル先で奴の風魔法を奪い速度を落とし、
0.5マイルで凍らせるんだ。
奴が1マイルの網に近づいたところで奴付近の魔法子を奪う。
がくん、と高度を落とす魔獣。
だが、その事で私が伸ばした魔法子コントロールの0.5マイルの
網から遠ざかってしまった。
攻撃できない!
その間に奴は魔法を取り戻し急上昇した。
魔法子コントロールで魔法を奪った際に私の魔力を検知したらしい。
こちらの近くの上空に近づいてくる。
仕方がない、上空を通り抜けられる前に攻撃出来る様に
魔法子のコントロールの糸を伸ばし、
奴の高度、300ftとその下、
200ftに魔法子コントロールの網を広げる。
こちらが魔法を奪う前に奴が下向きに滑空を始める。
風魔法に干渉されても降下し滑空する事は出来る、
それは物理現象だからで、
それを本能的に知っているのか。
だから魔法を奪うのではなくアイスボックスの魔法で奴を囲む。
が、羽の前に付着しただけで後ろの氷は振り切られてしまう。
でもこれで後は自然落下と滑空でこちらを攻撃するだけだから、
飛行経路は大体予測出来る。
予測経路の200ftと100ft高度に魔法子コントロールの網を張る。
ところが奴は羽をコントロールして滑空経路を変えた。
降下で得た速度を使って回避行動に変えたのだ。
時計回りに回ってこちらから離れ、
再度風魔法を使って上昇に転じる。
予測の網を通らないとこちらもこの距離では攻撃が出来ない。
まして相手は上空にいる。
低いところから魔法攻撃をしても速度が落ちて有効打にならない。
だからと言ってこちらも風魔法で高くに飛ぶという事も出来ない。
羽がある分、相手の方が行動速度の点で有利になるからだ。
自分自身を守る為なら、やはりこちらは林の中にいて攻撃をするべきだ。
それだと攻撃しやすい相手に目標を変えられる可能性があるが、
皆、木の近くから離れない事を信じてここから攻撃をするしかない。
自分も飛んだ方が格好良いという感性の方もいるでしょうが。
普通は飛行魔法を使う段階で攻撃に回せるリソースが減りますので。