2−36 2年の魔獣討伐演習(1)
冬休みが終わり、2年の下期が始まった。
貴族議会も始まり、その休憩時間にはラッセル家と
サマセット家、ハワード家の噂が飛び交ったが、
学院では表向き、それらの話はされなかった。
間もなく始まる中級魔獣の討伐演習が男子生徒達の話題の中心となった。
演習場は王都外で移動に半日かかる為に
演習前日に現地付近で一泊、
朝から夕方まで演習場を踏破した後に一泊し、
翌日王都に帰るという3日掛かりのイベントの為、
初日のグループは下期開始早々出発になる。
演習場周囲は監視網が敷かれ、
要注意団体も別途監視が置かれた。
演習場の外周を囲む柵は二重に作られ全周が破損していない事を
確認された。
その後、演習場全体の狩りが行われ、その後に初級魔獣と
黒狼の小さな群れがいくつか放された。
演習場内は完全に管理されていた…筈だった。
当日は演習場まで1時間の距離にある町の宿屋にて装備を整え、
演習場まで馬車で移動する。
王子の班は最初に出発するので、
実質護衛の一人のエレノーラも当然朝一の班だった。
昨年の事もあり、貴族男子は全員軽装戦闘装備だった。
アーサー、マイク、ギルバートの3人に挨拶する。
「おはようございます、殿下、皆様。」
「おはよう、エレノーラ。」
残り二人も挨拶を交わす。
アーサーの帽子の前面装甲には王家の紋章が刻まれている。
「殿下、帽子の紋章が凛々しく、よくお似合いですよ。」
「…紋章だけ凛々しいんだね…」
アーサーは戦闘武装があまり似合っていないのではないかと
気にしている様だった。
「本人がどう思っていらっしゃるかは兎も角、
服が人を飾ってそれらしく見せるものですよ。
私だってそろそろドレスを着ていれば女に見える気がするじゃないですか。」
「いや、そこまで自信なさげに言わなくても君はドレスが良く似合うよ。」
「ありがとうございます。
あと、殿下が自信なさげにならずに済む様に、
マイク様が引き立て役をやってくれているじゃないですか。」
3人がマイクを見る。
こいつは本当に戦闘装備が似合っていない。
「や、引き立て役という程ひどくはないだろ!?」
ギルバートがマイクの肩を叩いて言う。
「やあ、見事なもんだぞ?
その調子で1日頑張れよ!」
「何を頑張るんだよ!?」
アーサーもマイクのもう片方の肩を叩いていう。
「大丈夫だ。
お前はその服が似合う仕事に就く事はないからな。」
「何が大丈夫なんだよ!」
エレノーラが一応フォローをする。
「眉でも書きます?
少しは男らしくなりますよ?」
「それフォローじゃねぇだろ!?」
とりあえず皆でマイクをいじって空気を上向きにした。
マイクは…最初からやる気は無いからまあいいだろう。
出発前の説明では、
初級魔獣と少数の群れの黒狼以外いないとの事だが、
昨年の事があるので、
対処不能の場合は狼煙を上げて連絡する様に、との事だった。
狼煙を上げる判断は随行する教師か護衛の騎士がするのだが。
ところが、10分も歩くと雲行きがもう怪しい。
エレノーラは護衛の騎士の隊長に近づき相談する。
「昨日の確認では少数の群れがいくつかあるだけ、
という話でしたよね?」
「そうだが、なにかいるのか?」
「黒狼と思われる10頭程度の群れが1マイル以内に2つ、
それより遠くに似た規模の群れが3つありますよ?」
教師も騎士も、エレノーラの索敵報告は重視する様に言われている。
「生徒だけなら危険な数だが、微妙なところだな。」
「10数頭ならそれ程でもないですが。
1頭だけ穴に落として他は倒して良いですよね?」
「…簡単に言ってくれるな…」
とりあえず隊長から一同に説明し、
対処不能の恐れがある様なら早めに狼煙を上げる事になった。
最初の群れは12頭だった。
1頭だけ深めの穴に落とし、後はアイスランスで串刺しにした。
穴に対して各魔法で攻撃の練習をする事にした。
土魔法師とエレノーラで小山を作って穴が見える様にし、
そこから攻撃してもらい、
最後に火魔法師の攻撃で焼いてもらった。
森林に延焼しない様にエレノーラが注意する事になったが、
火魔法師達の攻撃は大きめの穴を外すことは無かった。
さすがに焼け死ぬ獣の悲鳴は酷いものだったので、
エレノーラが途中で止めを刺した。
「溝を掘って2頭を落とす位の方が良いでしょうか?」
教師としてはあまり危険がない方が良いが、
魔法攻撃の機会が少なくなるのは良くないかもしれないと
考えた様だ。
「危険なく2頭を拘束出来る様ならやってくれ。」
という事で次の群れは8頭だった事もあり、
2頭を穴に落とした後、
攻撃しやすい様に横に穴を広げた。
エレノーラと土魔法師がまた共同で攻撃用の小山を作成した。
この辺りまでは順調だった。
何故か群れの頭数が多い事は問題だったが。
王子様と庭園を歩くシーンを早く書きたいです。
とはいえ巻きも限度があるし。