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2−30 後始末

 ランディー・アストレイは魔獣の死骸に近づいた。

魔獣の生命活動は停止している。

2/3程は凍結しているが、末端は凍っていなかった。

末端の細胞は死に始めているだろう。

(どうせなら全部凍らせろって言ったのに)

貴重な、と言うより二度と手に入らない上級魔獣の死骸である。

なるべく生前の姿に近い形で王都に運ばなくてはならない。

(表皮は、魔法を通さない。

 つまりこの口の氷から凍結させていかなければならない、か

 何て面倒な。

 あいつを連れてきてやらせるか。)

ところが 寒い、と言った顔が浮かぶ。

(普段は真面目くさって男みたいな事ばかり言う癖に、

 時々頼りない顔をしやがる。

 これだから女って奴は!)

もっとも、この男は女って奴を語れるほど知らなかった。

幼少時に実母や侍女、メイド達に受けた仕打ちが

彼を女嫌いにさせていた。

彼のポリシーは科学者らしく、

「視点は客観的に、

 発言は具体的に。」

であったから主観的な発言はほとんどないのだが、

中身は19才の青年だ。

愚痴も文句も煩悩も頭の中に渦巻いていた。


 ところで、ランディーが女騎士に耳打ちした内容は、

秘密保持と至急の王城への連絡だった。

秘密保持は王都から来ていた騎士の指揮官が委任されていた

騎士団長権限でこの場では有効であったが、

侯爵命令が来れば覆されかねない。

よって、王城へ連絡して侯爵命令が届く前に勅命が必要だった。

「上級魔獣 討伐」

その2単語だけ王城へ早馬で届ける様に依頼したのだ。

とりあえず秘密保持命令に従い、

この陣地に他の部隊は近づけなくなった。

補給だけ近くの馬車が通れる道まで来てもらう事になった。

魔獣自体はランディーがアイスボックスで全体を囲った後、

防水加工をした天幕の布を持ってきてもらい被せた。


 その日の晩、エレノーラは魘された。

鏡の前で着飾った顔や服をチェックしようとするが、

鏡の向こうのエレノーラと同じ顔をした女は

そっぽを向いて動かない。

頭を抱えていると、

鏡の向こうの女が鏡に頭をぶつけ、

鏡を割ってこちらに出てきた。

その顔は、先端の赤い上級魔獣で、

エレノーラに伸し掛かってきた…


 そこで目が覚めた。

伸し掛かっているのは魔獣ではなく、羊毛布団が3枚だ。

重いし、魘されて当然だ。

このやろう、と膝蹴りをするが、空間が少し空いてすぐ伸し掛かる。

か弱い私じゃ、羊毛布団にも敵わないのよ、オホホ…

と言っても誰も信じないだろう。

日頃の行いが…

悪くはない筈だが…

兎も角、羊毛布団3枚掛けは止めて欲しい。


 天幕に一人で寝ているが、

食事は女騎士が入ってきて渡してくれる。

寒くないかと上着やら手ぬぐいやら襟巻きなどで

ぐるぐる巻きにしてくれる。

上級魔獣とサシで勝負する様な女をよく心配出来るものだ、

と思う。

同じ様に心配してくれるのがランディーだ。

このぐるぐる巻きを見て更に

寒くないか、体調に気をつけろ、

と言ってくる。

普通なら笑ってしまう様な格好なのに、

その姿を見ながら魔法戦の様子を真面目に聞き取って書きつけている。

眼の前で上級魔獣をボコボコにしたのを見ているだろうに、

そんな女をそこまで心配出来るものなのか。


 そういう訳で、暫く私は自分の天幕と聞き取り用天幕、

そしてトイレ用天幕の間以外、移動を許可されなかった。

こちらは誤解しようがない。

秘密保持と何らかの襲撃を防ぐ為だ。

上級魔獣の死骸は貴重過ぎる。

これを王都に無事運ぶ事、

そしてその上級魔獣を倒した人間の保護はもはや最上級の任務になる。

上級魔獣とは言え水辺の町を水浸しにする程度の魔獣で、

一度の被害が1000人を超える事は無いだろうが、

その使っていた魔法は漏らす訳にはいかない物だった。

そして上級魔獣を倒した人間がいる、

という事も明らかにすれば外国に届く頃には尾鰭が付いて

話が大きくなる。

こちらからは戦争の切り札にする様な魔法師ではないと思えるが、

外国から見れば脅威とみなされ戦争の火種にされ兼ねない。


 王都には早馬を走らせているという事だから、

多分勅命が来るまで現状維持だろう。

糧食は届くし、毎日身体を拭く為のお湯は支給される。

でも天幕から出られないんじゃ運動不足だ。

腕立てと腹筋だけじゃ身体が鈍るよね…

 そろそろランディーウィーク終了です。

明日はおっさんの日。

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