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2−21 余波

 その日、王都のラッセル家では件の侍従ほか、

シンシアの担当の者達が配置変えになっていた。

シンシアは魔法適正検査の前に何らかの破壊工作を受けていたので、

彼女付けの使用人は取り敢えず彼女に近づけない様にし、

夫人を担当する最も信頼出来る使用人達に兼任させたのだ。

ところで、件の侍従がその日にシンシア嬢の近くに居なかったのは偶然だった。

彼の実家に連絡する必要があり、

家令が主人の許可を得てそちらに行かせたのだ。

戻って来てシンシアに近づけなくなった事、

その日にエレノーラ・スタンリーの治療もどきがあった事、

2つを合わせると、

自分が組織から受けた監視業務に失敗した事を彼は悟った。

組織は依頼元が大きな組織である事を匂わせていたので、

公爵家に見つかっても組織に見つかっても未来がない事を知った侍従は、

即座に逐電した。

その事から公爵家はシンシア嬢にやはり監視が付いていた事を知り、

教会と距離を置く事を決めた。


 エレノーラはシンシア・ラッセルの回復を王太后に報告した。

「王太后様、シンシア・ラッセル嬢は一応回復された様なので、

 今後は公爵家のお抱え魔法師による指導を受ける様になります。」

「シンシア嬢は魔法が使えないという話だった筈ですが、

 実はなんらかの障害があった、という事ですか?」

「はい、水魔法師は生物の魔力を感じる感受性に優れている者も多く、

 私も多少は感じる事ができます。

 私が見たところ、彼女の魔力は学院入学が可能な程にはある様に見えました。

 あとは水魔法師の治癒魔法が本人の魔力に反発され浸透しない事を利用して、

 首までは治癒魔法が浸透せず、

 腕には浸透する事を確認し、肩に問題があるらしい事を見つけました。

 6回程、色々治癒魔法や薬草の塗り込み、彼女に魔法を詠唱してもらう等

 行ってみたところ、先日魔法が手まで通っている事が分かりました。」

「原因と対策は何だったのです?」

「原因は私には見つける事ができませんでした。

 水魔法の治癒魔法では効果がなかった為、色々やってみたので、

 何が対策となったかも分かりません。」

王太后の瞳がじっとエレノーラを見つめるのに対し、

エレノーラもじっと見つめ返した。

「原因と対策は本当に分からないのですか?」

「はい、私には分かりませんでした。

 但し、私より治癒力の高い治療師なら分かったかもしれません。」

まだ王太后はエレノーラを見つめていた。

エレノーラもじっと見つめ返し続けた。

「分かりました。良い結果が出て良かったですね。

 お疲れ様でした。」

「ありがとうございます。」

王太后なら、頑なに原因不明を言い続ける私の警告が分かるだろう。

実際、王太后はその日の晩に王に報告した。

誰なら分かった筈、という点もそのまま伝えた。


 アンジェラ達にも同様の報告をした。

アンジェラとグレースは警告の意図をすぐ悟ったが、

エリカは

「原因が分からないってどういう事!

 分かってて治療を始めたんじゃないの!?」

と激しく食って掛かったので、

見かねたアンジェラ達が控室で人払いをした後、

説明をしてくれた。圧力をかけたとも言う。

名指しで批判する事が出来ない相手の事は

仄めかすしか出来ない事を貴族なら分かって欲しい。


 その夜、エレノーラは魘された。

エレノーラと同じ顔をした女が乗馬用の鞭でエレノーラを

何度も叩く夢を見たのだ。

痛くはなかった。

夢だから。

それでも鞭で叩かれる恐怖に

やめて、と悲鳴を上げたかったけれど、声が出なかった。

夢だから。

両手で顔を覆って耐え続けるしか出来なかった。

ふと、女が叩くのを止める。

指の隙間から女を見ると、

三日月の様に歪めた口がぶつぶつと声を出した

様な気がした。

多分、こう言ったのだ。


に が さ な い

本文と関係ありませんが…

2/15は西行忌です。

花の下で春に死にたいと歌ったお坊さん。

真似できません。

私なら今際の言葉は

「喜劇は終わった」

になるでしょうから。

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