2−16 ポール・サマーズの過去
ダンスパーティの最中、エリカがちょいちょいと手招きする。
そうして控室に連れて行かれた。
「ポール・サマーズと前回も今回も踊ったけど、
仲は良いの?」
「剣の授業で打ち合いをする以外は個人的な付き合いは無いですね。」
そうは言うが、エリカから見て二人は悪い雰囲気ではなかった。
「そう…
私もあと半年しか学院には居られないから、
今の内に言っておくけど。
あの子、あの髪の色でしょ?
それで両親は二人共金髪碧眼だから、
大人達は酷い噂を流したし、
母親にも嫌われていて、
外にも中々出してもらえなかったの。
10才の魔法適正検査で魔力が確認出来た後に
王妃様に一家でお茶に呼ばれて、
その場で王妃様に
”お父様の若い時に似てきた”
って言ってもらえたので、
悪い噂が一掃されて漸く外に出してもらえる様になってね。
でも、本人はどこか周りに遠慮したままだし、
気を使わない悪意のある連中もいたしね。
だから、そういう場面があったら、
気を配ってあげて欲しいんだ。」
何となく彼の私への言葉の裏に、
そういう何かがあるんじゃないかとは思っていた。
私の向こうに何か違うものを見ている様な気がして。
つまり私への言葉は代償行為な訳だ。
孤独だった過去の自分にはもう声をかけられないから、
代わりに私に声をかけるんだ。
自分は孤独に見えたけど、
こんな風に声をかけようとした人がきっといたと。
他人の事は言えないか。
私が魔法が上手く使えない人に魔法を教えているのも
自分が指導を受けられなかった事に対する代償行為かもしれない。
嫌がるエルシーに教え続けているのも自己満足なのかもしれない…
「分かりました。
聞かなかった事にします。」
「ちょっと!」
「彼、剣の授業では学年最強なんですよ?
きっと最強になって、誰にも何も言わせない様にしようと
思っていたんでしょう。
田舎出身のよく分かっていない女に同情なんてされたくないと思いますよ。
私は今まで通り、あいつ何か気に食わないから
いつか叩きのめして泣かしてやる、
というスタンスで話しますよ。」
「それなりに親しいんだったら
少しは優しくしなさいよ…」
「エリカ様のそういう面倒見の良いところ、
大好きですよ。」
エリカが顔から首まで真っ赤になった。
本当に薄化粧だよ、この人。
それでこんなに綺麗なんだから、ねぇ。
「面倒見なんて良くないでしょ!
口が悪いだけで!」
「はいはい、大きな声を出してるのが王太后様の耳に入ったら
お説教を頂きますよ?」
ぐぅ、と口を閉じるエリカ。
彼女の両手を取って続ける。
「お話頂きありがとうございました。
頭には入れておきます。
でも彼への態度は変えません。
もし彼が弱ってる時があったら、
柄じゃないぞって背中を叩いてやりますよ。」
「いや、あんたもそんな淑女にあるまじき事言ってる事がバレたら
王太后様のお説教だって。」
「一緒にお小言頂きましょう。」
「イーヤ!」
何も
言葉にしないと気持ちなんて伝わらない
という訳じゃなく
彼女が
この距離より近づかない
と決めているだけ