2−15 2年上期の終わりとダンスパーティ
上期の試験が近づく頃、
2年1組の水魔法師は2つの中級魔法を全員発動出来るようにはなった。
但し、及第点をもらえるレベルかどうかは問題だった。
それでも例年は魔力不足な者はどうしようもなく
発動出来ないとの事だから、
それに比べれば良い方だ。
土魔法師も全員2つの魔法を発動出来ている。
遅れていたエルシーは魔力自体は充分ある為、
コツさえ掴んでしまえば何とかなった。
眼の前で泣かれては、態度が悪くても指導しない訳にはいかない。
最後はデビットに声をかけてもらうんだけど。
魔法の授業で精神的には疲れていたが、
剣の授業の勝率は1年の時より少し上がった。
身体のキレや腕力が上がった訳では無いのに、
微妙に相手の動きの読みが良くなった気がするんだ。
あれか、キーズとかエルシーとかの相手をした事で
忍耐力が高まったのだろうか。
2年の上期下期の剣の成績では騎士団への推薦が貰える為、
卒業後の進路が決まっていない者は目の色を変えており、
いわゆる学年十剣は二人入れ替わった様だ。
でも私の順位は変わっていない。
素振りはちゃんとやっているが、不思議な気がする。
就職は実質決まっている。
もちろんアーサーの嫁ではない方だ。
狂人の仲間入りとか言われていないと良いが…
上期の試験勉強は昨年とは比較にならない程、落ち着いて出来た。
去年同様、誰かと一緒に勉強した訳ではないのだが。
試験が終わった後、王城での教育はダンスの授業が増えた。
冬至祭前の学院内ダンスパーティがあるので、仕上げに入ったのだ。
今年は王子の婚約者候補が二人しかいないから、
私のドレスも豪華になった。
そんなドレスでもそこそこ踊れる程に上達しているのだ。
やれば出来るもんだ。
上期の成績は何より婚約者候補教育のおかげで、
外国語であるパルテナ語と歴史の成績が5になった。
婚約者候補教育のおかげで今年は乗馬を受講していない事もあり、
3以下がなくなった。
斯くして、冬至祭前のダンスパーティに出向く。
エリカと踊った後、アーサーが私を誘う。
「さあ、行こうか。」
「よろしくお願いします。」
アーサーのリードで踊る。
こちらを横目で見るアーサーに微笑み返してみる。
何たる余裕だ!
「半年程色々大変だったけど、大丈夫だった?」
「ええ。皆様のおかげで恙無く過ごしております。」
「久しぶりに会った人に対する挨拶だよ、それ。」
「ふふふ。」
前のダンスパーティでは余裕も無かったし、
こんなにアーサーと打ち解けていなかった。
苦労している私にアーサーが気を使ってくれたからだろう。
感謝しかない。
「冬休みは何か予定はあるの?」
「日程は決まっていませんが、魔法院で遠征に行きますね。」
「ああ、それは騎士団も余裕がない所為で申し訳ない。」
「見習い騎士である私の本来の仕事です。
お気になさらずに。」
「帰ってきたら一度、お仕事なしでお茶でもしようよ。
何かお茶菓子を用意しておくから。」
「ありがとうございます。
楽しみにしておきます。」
後どのくらい、この人とこんな風に踊ったり、
話したり出来るだろう。
何時決まってしまうのだろう。婚約者。
そして遠からず、私の婚約も決まるだろう。
今の様な時間は流れていく季節の一つで、
やがて必ず違う季節がやって来るんだ…
最初から分かっていた事なのに、
何故かしんみりしてしまった。
気持ち俯く私に近づく影がある。赤毛の公爵子息、ポール・サマーズだ。
何故か6ft離れたところで立ち止まる。何してるんだよ。
じっと睨むと、奴は下から上まで視線を動かす。
人の姿見て何を言うつもりだよ。馬子衣装系だったら殴るぞ。
「大分様になったじゃないか。」
ぎりぎりセーフな発言だ。良かったな。青タン作らずに済んで。
「前回は馬子に衣装と思ったんですね?」
「いや、前回は女に見えたんで驚いたが、
今回は令嬢に見えたんで驚いただけだ。」
「そろそろ私の拳の血管が浮いてきたんですが?」
「そう言うのが無ければ令嬢に見えるって言うんだよ。」
「これでも猫の皮は厚くなったんですよ?」
「ちゃんと身に付けろよ。」
不敵に笑う両名。何この雰囲気。
「という事でご令嬢、
あなたをお誘いする栄誉を私に頂けませんか?」
「気持ちが籠もってないけど、
私でよろしければ是非?」
赤毛の手に私の手を重ねる。
不幸な事にスローな曲だった。
足が滑った!と言って奴の足を踏むチャンスはなさそうだ。
「大分様になっているじゃないか。」
「修行しましたから。」
「令嬢は修行とは言わないものだぞ?」
「見習い騎士ですから。」
そろりそろりと歩みを進める二人。
とても平和な風が流れている気がする。
「王城での教育は大変か?」
「野猿を人にするのは大変でしょうね。
周りに迷惑をかけているのは申し訳ないんですが。
私の方は良い体験をさせてもらっています。」
「お姉様方は怖くないか?」
「公爵・侯爵令嬢は普通は威厳があるものですよ?」
「公爵の子でも威厳がない奴がいるが?」
「上背があるんで迫力はありますよ?」
「見た目は爽やかにしてるんだが?」
「腕力は爽やかじゃないですね。」
ふふん、と涼しく笑う赤毛。
離れ際に奴が言う。
「魔獣が増えてるらしいが、
魔法院で討伐に行く時は気をつけろよ。」
「剣も魔法もまだまだですから、
慢心せず行きますよ。」
「そうしろ。」
…最初からそう素直に言えば良いのに。
コリン・カーライル伯爵子息、キース・クロムウェル子爵子息、
そしてデビット・マナーズ侯爵子息がまとめてやって来た。
ダンス中のコリンとの衝突は4回避けたが5回ぶつかった。
少しは練習しなさい。
キースは意外とステップは流麗だった。
これで口が悪くなければ貴族っぽいんだが。
デビットとは魔法の授業で世話になったので、
よそ行き笑顔で踊った。
「作り笑顔で一曲通されると少し傷つくぞ。」
と逆にクレームが付いた。
ごめん、そんなつもりじゃなかった。
冗長な気がしたので巻きをいれました。
後1話挟んで冬休み激動編に入ります。




