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2−13 王子の執務室(4)

「旧エセックス王国である直轄領は魔獣居住領域とは接していないのだけれど、

 魔獣居住領域と接している地域は全般魔獣の活動が活発であるらしい。

 エレノーラとギルバートは興味があるだろうから、

 資料を見て思う所を聞かせて欲しい。」

「スタンリー領については3年周期で活発になると聞いています。

 それで考えると私が王都に来る年が活発だった筈ですが、

 同行した冬前の討伐では通常の活動状況でした。

 その後に状況が酷いとは聞いていないので、

 例年通りと思われます。」

ギルバートが興味を持って訊き返す。

「3年周期ってのは理由があるのか?」

「つまり多く発生した年は多少奥地にまで討伐を進めるんです。

 そうすると、翌年は発生が少なくなり、

 2年で盛り返すという事です。」

「なるほどな。騎士団側の損害も馬鹿に出来ないから

 毎年奥地にまで討伐はできないしな。」

アーサーは更に先を考える。将来の王様だからね。

「そうなると、各貴族領に中央から数年毎に応援を出せば、

 一応各領地は持ちこたえられるという事だね?」

「そうなりますね。計画的に応援を出せれば良いんですが、

 只、現地では計画通りにならない事が多いので。」

「3年周期とは言い切れない事がある様に?」

「そういう事です。」

各地から上がっている魔獣討伐状況は全体的に多い。

中央への応援要請もあるが、

すぐにでも前線が崩れそうな領地は無い様だ。

「応援を出すか、各地の現地戦力を増やすべきかは考え所ですね。」

「すぐ対応が必要でない領地では、自前の戦力を増やすべきだと

 思う?」

「誰が費用負担すべきかという事と、

 各地と中央の戦力分布をどう考えるかという事ですね。

 魔獣対応は一方の前線ですが、

 中央戦力と隣国境界の戦力はもう一方の前線用の戦力です。

 いざという時の為に戦力が消耗していてはいけません。

 一方で地方の戦力が強くなりすぎても反乱の芽となりますので。」

「バランスを考えて整備しないといけないね。」

「一方で、各地の共有戦力という考えもあるかもしれません。」

「ある地域だけ強くせずに、予備部隊を作るのか…」

ギルバートが口を挟む。

「傭兵みたいな物か?」

「傭兵にまでするとそれも反乱の芽と成り兼ねないのですが。

 ただ、兵役で集めた兵は烏合の衆に毛の生えたものですから、

 プロフェッショナルな予備戦力の方が結局費用対効果は良いでしょう。」

アーサーとしては考えないといけない点ではある。将来的に。

「今は遊軍の様なものを派遣するのが良いかもしれないね…」

遊んでる兵力ね…

思い当たるものがあり、

つまり冬休みには魔法院から派遣される兵力があるだろう。

聞いておくか。

「発生している魔獣は地域により違いはありますか?」

「全体的には黒狼が多いが、それ以上の魔獣の発見報告もある様だね。」


 マイクが暇そうだ。

「マイク様、罠などで黒狼を大規模に狩る例は過去にあるでしょうか?」

「ああ、図書室に魔獣狩りの本があったな。

 ちょっと持ってくるわ。」

さらっとマイクを使うエレノーラには

アーサーもギルバートも敵わんな、と思ってしまった。

アンジェラやエリカだと小言が先に立つからマイクが臍を曲げるのだ。


 マイクが借りてきた本は3冊、パルテナ帝国における黒狼狩りの歴史、

魔獣被害と対策の歴史、最後に猟師の聞き取り集だ。

パルテナ帝国では大規模討伐の歴史はあるが、

障害物を用いた追い込み猟と言うべきもの以外は普通に討伐していた。

魔獣対策の歴史は村落規模での防護柵が一番大規模だった。

猟師はもちろん小規模の猟だ。

「大規模に狩るのは普通に騎士が狩ってますね…」

「防護柵も黒狼以上の魔獣だと短期的にしか役に立ってないしな。」

「水堀より空堀の方が有効って意外だな。」

「黒狼は大きい犬だから泳ぐからね。」

「そうなると、野戦築城で拠点にて迎撃、寄せ餌で誘導、

 それ以外は兵力を纏めてコロニーを強襲という事に成りそうですね。」

「結局兵を用いるしかないのか。

 予算も飛んでいくし、損害が少なければ良いんだけれどね。」

「放置して後々大事になるよりは良いんですが。」

「王都近郊から派兵するよりは、

 貴族同士で合同討伐の方が予算も時間もかからないだろ?

 補助金でそうさせるのも良いんじゃないか?」

「問題は貴族同士の意地の張り合いだろうよ。

 あいつの兵なんか借りられん!て無駄に騒ぐ連中がいるよな。」

「まあその辺だね。

 ありがとう。意見を纏めて宰相の評価を聞いておくよ。」

「親父には俺が良い意見を出したって言っておいてくれ。」

「本を借りてきてくれた、って言っておくよ。」

「もっと色つけてくれよ。」

「また今度な。」

片や個人の魔法能力に頭が一杯の人達、

片や前線の心配をする人達。

その差は前線との距離が作っているとも言えるのですが。

王子の執務室では情報が精神的な距離を縮めている。


…あとがきに書くことがないから無理して書いてる訳じゃないからっ!

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