2−12 ノーマン・クリフォード子爵子息襲来
魔法院と学院との協議の結果、
学院での指導については、週2回は水魔法、週1回は土魔法を指導する
事になった。
指導に供する資料は事前に魔法院でチェックする事、
また、指導内容と生徒の魔法実施状況を簡単に纏めて
魔法院に提出する事となった。仕事が増えてるじゃないか!
また、冬休みの討伐参加に関する手当が出た。
危険手当、遠征手当、討伐個体数毎の手当が出た。
騎士としては討伐に危険手当が出るのは違和感がある。
討伐が騎士の主任務の一つだからだ。
危険は当たり前の仕事なのだが…
「お前は魔法院の魔法師として参加したんだから、
魔法師として当然得る筈の手当を貰う権利があるんだ。」
と諭された。
まあいいや。お金が手に入ったんなら、
憧れの鉄兜でも買おう。
土魔法の指導用資料を提出したら、酷いものが返ってきた。
8枚に渡る添削物が返ってきたんだ。
土魔法部と総長にランディーまで加わって議論したらしい。
何時間かかったか知らないが、よく終わったな。
まあいいや。2枚に纏め直して指導用にして、
フルサイズ8枚は「家で読んで」と渡す事にした。
エルシーには微妙な顔をされたが、
デビット以下合計11人は喜んでくれた。
2枚の方をね。
8枚の方はデビットでさえ「難しすぎないか?」と言っていた。
「マニア向けの娯楽作なんです」と答えておいた。
相変わらず指導中にエルシーからの返答はない。
資料を渡したから上達のきっかけになれば良いが。
そんな魔法指導の後、教室の前で3年生が待っていた。
「初めまして。ノーマン・クリフォードと申します。
スタンリー家ご令嬢にご挨拶する栄誉を賜り
恐悦至極にございます。」
私に礼儀を尽くすという姿勢を示してくれている訳だが、
上級生で将来の子爵様、
おまけに危険人物ときているのでなんとか学院内の生徒同士の
喋り方にして欲しい。
「先輩にその様な礼を尽くして頂けるのは誠に有り難いのですが、
どうか後輩と思ってお話し下さい。」
「そう言って頂けるのは有り難いのですが、
お噂を聞きお願いに参った身としては、
礼を尽くさざるを得ません。」
危険な話題にならないならどうでも良いんだけどね。
「ご期待に添えるかどうか分かりませんが、
何をお望みでしょうか?」
「エレノーラ様でしたらご存知でしょうが、
私の婚約者は魔力がないと言われておりまして、
それでも何らか上達の手がかりがないかと色々試しております。
それで、水魔法と土魔法の初級魔法の指導資料をお作りの
エレノーラ様に風魔法の初級魔法の資料もお持ちでないかと
お願いに上がった次第です。」
ああ、やっぱり危険な話題になった。
婚約者候補教育の中で貴族のグレーな話題を教えられているんだ。
ノーマン・クリフォード子爵子息は跡取りで、
ラッセル公爵家の次女シンシアの婚約者である。
どこが危険かと言うと、
シンシア嬢が魔力なしで領地に引き籠もっている為、
こちらから口に出すのは失礼になるかもしれないが、
あちらから口に出したらそれなりの対応をする必要がある、
と言われているんだ。
「仰り様からすると、婚約者様は風魔法の魔力をお持ちという事
でしょうか?」
魔力がないのに分かるのか、という疑問があるんだ。
少しはあれば私でも属性は分かるが。
「風魔法があるかもしれない、という魔法師がいるものですから、
藁をもすがる思いでお願いしているところです。」
これは学院の指導に関わるものでないから魔法院チェックは不要だよね?
50枚の資料とかを渡す羽目になるのは凄い嫌だよ。
「分かりました。
あくまで魔法練習の為の参考資料に過ぎませんが、
一応初級魔法一覧を纏めさせていただきます。
再来週の月曜にお渡し出来ると思います。」
「おお、ありがとうございます。
どの様なお礼を差し上げたらよろしいでしょうか?」
それは不味いって。
王子の婚約者候補が特定の貴族と個人的な利益関係を持つのは。
「学院内で教育内容の資料ですから、
ありがとうの言葉以外不要ですよ。
但し、お渡しするのが多分紙10枚になりますので、
白紙10枚を頂ければ貸し借りなしとなりましょう。
ちなみに5枚の資料と控えを1部の合計10枚になります。」
「お手数をおかけして申し訳ありません。
再来週の月曜に紙10枚を必ずお持ちします。」
何かの罠があるかもしれないけど、
魔法で悩んでいるなら力になってあげたいので、
とりあえず貸し借りなしまで戻せば良い気がする。
しかし、私にまで話を持ってくるとは、
本当に色々手は尽くしているんでしょうね。
それでも魔力不足はどうにもならないんだけど。
ラッセル家のご令嬢は、どこぞのお茶会の噂話で存在だけ話題になっていた人です。
貴族同士のつきあいでは、魔法学院卒業でないと肩身が狭い様です。
もちろん、魔法学院卒業生でも最終成績が悪いと肩身が狭い様です。