2−6 2年1組の魔法の授業(3)
さて、魔法実技の授業はやはり口だけではすぐ忘れられてしまう。
何か資料を作る必要があった。
水魔法ならいくらでも書付けがあったが、
やはり魔導士試験の前に書付けたものを簡素化したものが良いだろう。
呪文中の単語の意味と由来、
初級魔法との類似をまとめる。
呪文の類似もあるが、魔法自体の類似も考えて練習してもらうのが良かろう。
指導方針に沿って纏めた資料を複写魔法で合計10枚にする。
しかし、結局コリンやカーラがうまく集団を纏めてくれたから
収拾がついた。
もちろん家やその寄せ親を背景にしているから従うという点はあるが、
人望もあるのだろう…
人望ゼロの人間としては羨ましいと言うべきか、
そういうのが得意な人に団体行動は任せたいんだけど…
しょうがない。
与えられた仕事は進められる様に努力はしよう。
次の魔法実技の授業にスプリングの魔法のまとめ資料を持っていく。
それを渡されたコリンが騒ぐ。
「これ、こういうのだよ。
こういうのを求めていたんだ!」
何を言っているのかよく分からないが、
とりあえず喜んでくれているなら良いが…
「そこまで喜んでもらえる物でもないので…
まあ練習の合間に見てもらえれば、という程度の物です。」
「調べるとなると手間がかかるしな。
大体、見たことない解説も並んでいるんだが?」
「魔導士試験前に色々聞かされたんで。
ちょっと原典が不明な説明もあるんで、
他人に話す時は調べてから話した方が良いかもしれません。」
「自分からこんな事話しやしないよ。
ありがとよ!」
「ところで、この間に元々スプリングが発動できた人達は
お互いに話し合ってもらいましたが、
コツとか疑問点とかがありましたか?」
ここはカーラが話し出す。
「コツ、と言うか、難しいと思うところは
やはり身体から離れた場所で発動させる事ね。
その点、何か良い方法があれば知りたいんだけど。」
エレノーラはスプリングは一発で出来ただけにあまりコツはないのだが。
「離れた場所での発動は、やはり魔法行使力と魔法干渉力の兼ね合いですので、
単純に両方強い人は楽に発動するでしょうね。
だから、近めで練習してから段々距離を離した方がやり易いでしょう。」
「それでは、少し資料を読んでから全体で詠唱だけしてみましょう。」
と、詠唱をしてから、
また発動できる4人と発動できない5人に分かれて練習する。
「その後の自主練習で上達した人はいますか?」
5人共発言が無い。
家庭教師と練習しているのだろうけど…
ケント・バーナード男爵子息とヘレナ・バーグ男爵令嬢の指導から始める。
「窪みを作った方が良いですか?」
二人とも頷く。
とりあえず2箇所に隆起させた地面の中心に窪みを作る。
私の土魔法の練習になっていないか?
「ケント様は練習していて何かコツとか、
心掛けている事はありますか?」
「特にないけど、泉をイメージしながら詠唱はしているよ。」
「当面はそれで進めた方が良いでしょう。
厳密には空気中から水を集めているのですが、
それはウォーターボールから共通で、
皆それを意識しないでやっていますからね。」
「ヘレナ様はコツ、心掛け、難関など感じていますか?」
「やっぱり離れた場所で魔法を出すのが難しいです。」
「そこが皆共通の難易点でしょうね…
じゃあ、ケント様とヘレナ様は互いに魔法を発動して、
互いの魔法の発動で気付く事があったら話し合って下さい。」
「3人は窪みを作りますので、
まず距離を置いて魔法を発動する事の練習をしましょう。
ウォーターシールドでやってみましょう。」
この言葉にキースが噛み付く。
「家庭教師と話したけど、スプリングの練習として
初級魔法を練習しても意味がないって言ってたぞ!」
まあ、言うだろうけどさ。
じゃあその教師が中級魔法が出来る様に指導してくれたかって話だ。
エレノーラは軽く両腕を広げて肩をすくめた。
「なんだよっ!それ!?」
「で、中級魔法が出来るようになったんですか?」
キースは睨むだけで何も言えない。
「多分ね、その人、スプリングの魔法、最初から出来たんじゃないですか?
だから出来ない生徒に出来る様になる指導が出来ない。
もちろん、初級魔法の練習が中級魔法の練習に役に立つとは
断言できませんよ?
でもこのまま同じ事をやり続けて、スプリングが発動すると思いますか?」
キースはもちろん答えられない。
「多分、3人は別のやり方でないと出来る様にはならないと思います。
だから、色々やってみて確かめる必要があると思いません?」
否定する言葉がない以上、進めていいのかな。
「じゃあ、例えばこんな感じで。」
ウォーターシールドを5ft先に寝かして発動させる。
キースが文句を付ける。
「この間はウォーターボールをやるって言ったじゃないか。」
子供かこいつは。私は大人。淑女。いつも冷静。
「ウォーターボールは投射する魔法ですからね。
設置するという意味でウォーターシールドの方が良いかと考えたんです。」
まだキースが文句を言いたげだが、
ここでコリンがウォーターシールドを横にして発動させる。
「お、横に出来るんだな。」
「シールドの意味は無いですが、制御の練習にはなりますね。」
と応えておく。
カーラ達もやってみるが、意外と難しいらしく失敗する事がある。
「ちょっと難しいみたいですね。ウォーターボールにしましょう。」
3人共ウォーターボールなら3ft離れたところに出す事が出来た。
「通常のウォーターボールと比べて、
違いはありましたか?」
「特にねぇよ。」
キースは当に反抗期だ。
残り2人は
「やっぱり離れると少し難しい気がする。」
「あまり離すと失敗しそう。」
「そうですね。じゃあ、その距離での発動の感覚を覚えている内に、
スプリングをやってみましょう。」
3人に順にやってもらうが水の気配もない。
「しょうがないので、最後の手段でやりましょう。」
「そんなもんがあるなら最初に言えよ!」
キーズは随分欲求不満が溜まっているんだね。
でも私相手にぶちまけるのは止めて欲しいね。
「格好悪いから、嫌がると思ったんですよ。」
「そんなもん、言ってみなけりゃ分かんねぇだろ!」
元気だなぁ。こいつ。
「両手を前に出して、その前で魔法を発動するんです。」
「それだけ!?
そんなで出来る様になる訳ないだろ!」
「理屈は合っているんですよ。
魔法は後頭部から神経系を通って手の先で発動することが基本。
だから手の前で発動するのが魔法行使力を最大に使う方法。
しかも両手だから2倍。
魔法干渉力の人毎の差も関係ない。」
「そんなで出来る様ならみんなやってるだろ!」
ガタガタ言うキースの横で、
ルーサー・コーンズが両手を前に出してその姿勢で呪文を詠唱すると
…小さな水たまりが出来た。
「あ、出来た。」
「出来ましたね。」
「他人が喋ってる時に勝手するんじゃねぇよ!」
キース…先を越されたからって人間が小さいよ…
その横でダニー・ホッジスも両手を伸ばして呪文を詠唱する。
少し水が出るがすぐ染みてなくなってしまう。
「あ、小さいけど出来た。」
「良かったですね。」
「くそっ!」
キースが慌てて腕を伸ばして魔法詠唱する。
ウォーターボール程度の水が現れ、地面に吸い込まれてゆく。
「出来るんじゃねえか…」
「まぁ、一応距離を離れて出すのが課題なので、
今後の精進が必要ですが。
おめでとうございます。」
「全然おめでたそうに言ってないだろ!」
「何か文句が多かったんで冷淡になってます。」
「人間が小さいぞ!」
あんたに言われたく無いよ。
中2男子が両手を前に出して手のひらを前にしていると、
何か違うジェスチャーの気もしますが。